バレエダンサー Sylvie Guillem が50歳で引退、ということで、その引退日本ツアーの最終公演。 ロンドンの Sadler's Wells や Edinburgh International Festival 等世界ツアーした Life In Progress の4作品をメインに、第一部でホストの東京バレエ団上演による2作品を併せたプログラムだ。
1987年に Forsythe が Ballet de l'Opéra national de Paris 委嘱で作った作品で、 初演時には当時エトワールだった Guillem が踊っている、という所縁の作品 [YouTube]。 バレエのイデオムを残しながら Forsythe らしい裏返したりずらしたりするような動きは味わえたが、 席が遠かったこともあるのか、小綺麗にまとまってしまった感。
暗色のロング丈で踊る落ち着いた雰囲気の作品。 うずくまったり手を持って引きずられたり、という動きも悪夢的だけれどもユーモアもある、夢遊的というか幻想的な雰囲気もある。 そんな Jiří Kylián のセンスが十分に楽しめた。 東京バレエ団は Guillem とのコンテンポラリー・バレエの公演で Jiří Kylián の作品を取り上げることが多いのだが、 自分が Kylán が好きということもあると思うが、これが当たりのことが多い。 もっと観る機会があれば、と思う。
ここから第二部、Sylvie Guillem が登場。 Life In Progress のための新作。まずはミュージシャン3人の生演奏を伴奏にしたソロ。 Sacred Monster [レビュー] のような期待があったせいか、あまりピンとは来なかったのだが、 Khan 自身によるフレームで象った木の周りで踊る様は巫女のよう。
男性2人のデュオに、途中に少しだけ Guillem が絡むというもの。 バレエ的なイデオムがなく、むしろマーシャル・アーツを思わせる動きもあり、 二人の喧嘩に Sylvie が割って入るよう、なんて連想をしてしまった。
こちらも Life In Progress のための新作。 女性二人のデュオ。 暗闇に暖色の照明で浮かび上がる柔らかい動きによる妖艶な雰囲気から、 後半のタイル状に床を照らし分ける照明の下での drum'n'bass での凛々しいダンスへ。 得意の回転のキレも良いが、高く上がる脚を活かした格闘技的な動きがかっこ良い。 Eonnagata [レビュー] でのようなトリッキーな演出が無い分、動きそのものが楽しめた。 Akram Kahn との作品にしてもそうだが、手足の長さの映えるマーシャルな動きは、彼女も好きなのだろうか。
第三部は、第二部とうって変わって感傷的。 技のキレの良さではなく、日常の心情の機微を演じる演技力が堪能できる作品だ。 2011年の Hope Japan ツアーで観ている作品で [レビュー]、 新たな気付きがあったという程ではないが、その時の印象を再確認するよう。 表現のスタイルは全く違うのだが、最近良く観ているせいか、 よく出来た小市民映画 (サイレント時代の小津 安二郎の映画とか) 観てるみたい、などと感じてしまった。 気に入っていた作品だけに、再見できて良かった。
引退公演というのに過去に評判の良かった作品の再演ではなく、 コンテンポラリーな新作中心の意欲的なプログラム。 まさに “Life in progress” だ。 まだまだ新作を作れるのではないかと期待したくなる程だったけれども、 衰えが伺われるようになる前に辞めるというのも、潔い決断かもしれない。 Sylvie Giullem は熱心なファンという程ではなく、クラッシックな作品は観ておらず、2000年代に入ってからコンテンポラリーな作品ばかり観てきた。 それでも、5回も公演を観ているコンテンポラリー・ダンスのカンパニーは他にあまりなく、 そもそもダンサーを目当てに公演を観に行くというのも自分にはめったにない。 なんだかんだ言って Sylvie Guillem はお気に入りのダンサーだったのだなあ、と、引退公演観ながらちょっと感傷に浸ってしまった。