国立映画アーカイブで、 開館記念の企画の1つとして、また、日本におけるロシア年2018の一環として 『ロシア・ソビエト映画祭』が始まりました。 ということで、まずはこの映画を観てきました。
去年公開されたばかり新作、19世紀末のロシア皇室を舞台とした歴史メロドラマ映画です。 自伝本『ペテルブルグのバレリーナ クシェシンスカヤの回想録』(平凡社, 2012; Souvenirs de la Kschessinska, 1960) で知られる サンクト・ペテルブルグのマリインスキー劇場 (Мариинский Театр) のバレリーナ マチルダ・クシェシンスカ (Mathilde Kschessinska) (ポーランド人で「クシェンスカヤ」はロシア名のカタカナ表記) と、 後にロシア皇帝ニコライ二世と皇太子ニコライ (Николай Александрович) の、 ニコライの皇帝即位とヘッセン=ダルムシュタット公女アリックス (Alix von Hessen-Darmstadt) との結婚によって終わる恋を描いています。 自伝本は未読でメロドラマチックな物語にどれだけ脚色が入っているのか判断しかねますが、 舞台もエカテリーナ宮殿 (Екатерининский дворец) やマリインスキー劇場ということで、実にゴージャスなメロドラマでした。 自分の好みとは少々異なる映画とも思いましたが、 まさに「市民に夢と感動を与える視覚芸術」としてのオペラ・バレエの継承者としての映画 [関連メモ] と納得することしきりでした。
ニコライと愛人マチルダ、婚約者アリックスの三角関係だけでなく、 ニコライとの仲を裂こうとする皇后 (ニコライの母)、 さらにマチルダを巡る男たち、マチルダへ一方的に狂信的に恋する下士官ヴォロンツォフ (Воронцов)、 マチルダに献身的に尽くすニコライの従弟アンドレイ (Андрей Владимирович) (後に愛人関係となり、ロシア革命時に亡命したパリで結婚) など、 重なり合う三角関係や身分違いの関係が物語を駆動していきます。 女性側はマチルダとアリックスの直接対決の場面などメロドラマチックな見所がありましたが、 男性側の人物描写が薄かったのが物足りませんでした。 ヴォロンツォフは内面を描かない事でグロテスクな人物に仕立ていましたが、 階級の違いに対するルサンチマンもっと表に出した方が面白くなったのでは。 ロシアでの公開時にロシア正教によって聖列されている皇帝の名誉を傷つける作品として議論を呼んだいう評判を耳にしていましたが、 さほどスキャンダラスではなく、かなりオーソドックスなメロドラマ映画に感じられました。
実際のエカテリーナ宮殿やマリインスキー劇場でロケをし、 マリインスキー劇場が制作に協力したことも話題の映画で、マリインスキー劇場バレエ団による舞台の再現なども確かに見所とは思います。 観るまで気付いていなかったのですが、2017年に来日した Малый драматический театр (ロシア国立サンクトペテルブルグ マールイ・ドラマ劇場) [鑑賞メモ] で主演していた Данила Козловский が、ヴォロンツォフ役を怪演していました。 主役ニコライを演じた Lars Eidinger は Schaubühne Berlin (ベルリン・シャウビューネ劇場) [鑑賞メモ] の俳優で 2005年来日の際に Nora に Dr. Rank 役で出演していました [鑑賞メモ]。 特に狙って観に行ったわけではないのですが、意外なことに、舞台で生で観たことがある俳優が主要な役で出ていた映画だったんだな、と。 Schaubühne に関しては、アリックス役の Luise Wolfram も元劇団付き俳優で、 アリックス付きの医師フィッシェル役は芸術監督 Thomas Ostermeier が演じているという。 どうやら、Schaubühne も映画制作にかなり協力していたようです。 そんな所も観どころの映画かもしれません。
ちなみに、今年の12月に日本公開が決まったようです [CINRA.NETの関連記事]。