不条理ながら無骨な存在感のある機械をその作風とする造形美術作家 タムラサトルの個展。 まめに画廊巡りしなくなってしまい、彼の作品を観るのも久々でした。 摺動接点で電気火花を散らす「接点」シリーズ [鑑賞メモ] のような作風のありますが、 今回展示されていた作品は、「スピンクロコダイル」 (1997) [鑑賞メモ] や 「風に吹かれる布」 (1999) [鑑賞メモ] を思い出させるものでした。
『Wall to Wall』では、黒い鉄枠の土台に銀色の金属 (おそらくアルミ) パイプの腕からなる機械が ギャラリーの空間いっぱい使って回っていました。 腕は壁 (もしくは床天井) に当たらんばかりのギリギリの所を過ぎていきます。 「スピンクロコダイル」や「風に吹かれる布」でも、ワニや旗がギャラリー狭しと回る感が楽しめたわけですが、 巨大なワニのような具象的な形態はおろか、白い四角い布すら無くなり、 長い金属製の腕だけで空間いっぱいギリギリで回っている感だけを純粋に抽出していました。 まさに、壁 (もしくは床天井) ギリギリ回るためだけの機械。 そうすることでギリギリ感をミニマリスティックに表現しているところが、大変に良かった。
金属パイプの腕こそ壁 (もしくは床天井) に当たっていないのですが、 細い腕の先には細いピアノ線が付けて当て、それが壁を引っ掻いていました。 そのカリカリと引っ掻く微かな音も、不穏さを醸し出していました。 もし、接する壁 (もしくは床天井) の板をアースしてピアノ線に電圧をかければ、 摺動接点となってバチバチと火花が散らすこともできたかもしれませんが、 展示するには危険すぎるかもしれません。
ギャラリーの外に面した壁にもショーウィンドウ風の小さな展示スペースがあるのですが、 そこにもミニチュアの機械が展示されていました。 小さくてもちゃんと壁や天井を擦るように作られていました。 それも可愛らしくて面白いのですが、やはり迫力ある大きな機械の方が不条理さが際立つでしょうか。
プラザノースはさいたま市北区の中核となる公共複合文化施設で、ノースギャラリーはその中にあるギャラリーです。 10年前にオープンして、その第一回の展覧会が『Domain of Art 1 タムラサトル展』でした [鑑賞メモ]。 今回の『Wall to Wall』は開館10周年記念展で Domain of Art 22 とのこと。 もう10年も経ってしまったのか、と。