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Review: Kid Koala, The Afiara Quartet, directed by K. K. Barrett: Nufonia Must Fall @ 渋谷区文化総合センター大和田さくらホール (パペットショー)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2020/01/19
Adapted for the stage from Kid Koala's book and soundtrack Nufonia Must Fall.
Directed by K.K. Barrett; Created by Eric San (Kid Koala).
Set design by Benjamin Gerlis; Puppet design by Clea Minaker, Patrick Martel, Félix Boisvert, Karina Bleau; Director of photography AJ Korkidakis; Music by Kid Koala; Musical direction and string arrangements by Vid Cousins; Produced by Ryhna Thompson.
Puppeteers: Karina Bleau, Félix Boisvert, Clea Minaker.
Musicians: Kid Koala (electronics, turntable); The Afiara Quartet: Valerie Li (violin), Timothy Kantor (violin), Eric Wong (viola), Adrian Fung (cello).
A Nufonia Live Inc. production.
Co-commissioned by Luminato Festival, Adelaide Festival, Banff Centre, Internationales Sommerfestival Hamburg, Noorderzon Performing Arts Festival Groningen, Roundhouse UK, and BAM.
Premier: May 31, 2014, Eric Harvie Theatre, Banff, Alberta, Canada.

グラフィック・ノヴェル作家としても活動するカナダ・モントリオールの scratch DJ の Kid Koala が 2003年に出版したグラフィック・ノヴェル Nufonia Must Fall を、 2014年に音楽ライヴ、パペット・ショーとライヴ・シネマを組み合わせたマルチディシプリナリーな舞台作品として作品化したものです。 演出を手がけたのは、Being John Malkovich (1999)、Her (2013) などの Spike Jonze の一連の映画で 美術監督 (production designer) を務めてきた K. K. Barrett です。 Barrett が美術監督した映画としては、他に、 Michel Gondry の映画 Human Nature (2001)、 Sofia Coppola の映画 Lost In Translation (2003) や Marie Antoinette (2006) などがあり、 ミュージックビデオの分野でも活動しています。

この舞台は、生演奏を伴奏に、人形遣いによるライヴでの人形操作をカメラで収録し、 パペット・アニメーション風 (ストップモーション撮影しているわけでなくアニメーションではない) のワンテイクのライヴ・シネマを上演上映していくという、約1時間半の作品です。 様々な場面に合わせたセットが舞台狭しと並べられ、3人の人形遣いが人形やセットを操作し、カメラマンがそれを撮影して映像化していきます。 人形操作や撮影は淡々としたもので、映画に介入して作られた映画が異化されるような演出はありませんでしたが、 上演する時と場所のネタを背景となるセットの細部に仕込んであって、こういう点はライヴ・シネマならではでしょうか。

物語は、優秀だが働きづめで孤独な女性ロボット研究者 Malorie と、 彼女の開発した最新のロボット (Hexabot) で馘になってしまう旧式なロボット (名前が判る場面がありませんでした) の、 Boy meets girl ならぬ Robot meets girl 物です。 Kid Koala 自身も Charles Chaplin にインスパイアされたと言いっているようですが、 コールセンター (Consumer Complaint) のオペレータやファストフードの店員など 現代的な不安定な低賃金労働に就く旧式ロボットは、 20世紀初頭、サイレント時代の Chaplin 演じる浮浪者 (The Little Tramp) を近未来にアップデートしたもの。 近代の格差社会やディストピアの中でのささやかながら少しドタバタ入り人情味あるロマンスも City Lights (1931) や Modern Times (1936) のような 「浮浪者」を主人公としたサウンド版サイレント時代の Chaplin 映画を思わせる時もありました。

そんな物語を演じる人形は、ずんぐり可愛らしいロボットも頭部が大きめにデフォルメされた Malorie も、真っ白。 ロボットには表情がなく、Malorie の顔も細い目に口も小さく豊かな表情を作り出せるものではありません。 しかし、台詞を使わずに繊細な動きで丁寧にキャラクタの感情を描いていきます。 特に、Malorie の顔は、能面と同じく、向きやライティングで、時に微笑んでいるように、時に憂いを浮かべているように見せていました。 背景のセットもモノクロで落ち着いた画面を作り出していましたが、これもサイレント映画のモノクロの画面を意識していたように思います。 ロボット物ということで近未来的な舞台にも関わらずモノクロの画面はノスタルジック。 そんな背景と、ひかえめに可愛らしい人形の造形と動きが、 ディストピアに生きる男女が不器用に想いを交わしていくハッピーエンドとは言い難い切ない物語に合っていました。

Kid Koala というと、アクロバティックなスクラッチを多用するターンテーブリズムのDJとして知られるわけですが、 この作品では、むしろ ukelele 様の楽器や percussion などの生音のテクスチャや keyboards で弾く旋律を生かした electronica 的なもので、The Afiara Quartet による繊細な strings と共に、繊細な音楽を映像に合わせていました。 モノクロのノスタルジックな画面、台詞無しで繊細な動きで描かれる切ないながら心優しくロマンチックな物語もあって、 まるで20世紀初頭の人情味溢れるコメディやメロドラマのサイレント映画を生伴奏で見ているようでした。

このような映像とパフォーマンスを組み合わせたマルチディシプリナリーな舞台作品といえば、今まで観たものとしては、 Tim Watts の The Adventures of Alvin Sputnik: Deep Sea Explorer [鑑賞メモ] や It's Dark Outside [鑑賞メモ]、 Stereoptik: Dark Circus [鑑賞メモ]、 1927: The Animals and Children took to the Streets [鑑賞メモ] などがあります。 それらと比べると、Nufonia Must Fall はセットの数や操作する人数を増やして映像側の完成度を上げてきた作品でした。 (映像側の完成度と舞台作品としての面白さはまた別の話で、それぞれ異なる面白さのある舞台作品だったと思っています。)

この Nufonia Must Fall は2014年から2015年にかけて Adelaide FestivalBAM Next Wave など世界各地の舞台芸術のフェスティバルで上演され、 好評を得ていました。 しかし、自分が観に行った回は客席の半分も埋まらない状態。 今回の日本公演は Kid Koala のライヴという扱いで、 クラブやライブハウスに撒くようんなフライヤが作られ、その方面にプロモーションされていたようです。 その一方で演劇やダンスの公演でこのフライヤを見ることはありませんでした。 しかし、BAM Next Wave に取り上げられるようなコンテンポラリーな舞台芸術に関心の持っている観客にアピールしそうなフライヤを作って、 その文脈でフライヤを撒いた方が集客できたのではないか、と。 そして、Tim Watts、Stereotpik や 1927 が手がけるような舞台作品が好きな人に勧めたい公演でした。 良い公演だっただけに、残念な限りです。