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Review: Nicholas Hytner (dir.), William Shakespeare: A Midsummer Night's Dream 『夏の夜の夢』 @ Bridge Theatre (演劇 / event cinema)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2020/07/19
『夏の夜の夢』
Bridge Theatre, London, October 2019.
a Bridge Theatre production.
Writer: William Shakespeare; Director: Nicholas Hytner; Production Design: Bunny Christie; Costume Design: Christina Cunningham; Lighting Design: Bruno Poet; Sound Design: Paul Arditti; Composer: Grant Olding; Movement Director: Arlene Phillips; Associate Movement Director: James Cousins; Wigs, SFX, Hair & Make-up: Susanna Peretz; Fight Director: Kate Waters.
Cast: Gwendoline Christie (Titania / Hippolyta), Oliver Chris (Oberon / Theseus), David Moorst (Puck / Philostrate), Kevin McMonagle (Egeus, father of Hermia), Isis Hainsworth (Hermia), Kit Young (Lysander), Paul Adeyefa (Demetrius), Tessa Bonham Jones (Helena); Hammed Animashaum (Bottom), Jermaine Freeman (Flute), Francis Lovehall (Starveling), Felicity Montagu (Quince), Ami Metcalf (Snout), Jamie-Rose Monk (Snug), etc.
First Performance: 11 June 2019, Bridge Theatre, London.
上映: シネ・リーブル池袋, 2020-07-18 12:25-15:45 JST.

演出家 Nicholas Hytner が自身の拠点とする Bridge Theater で制作する イマーシヴシアター (没入型演劇、体験型演劇) が National Theatre Live でかかったので、 このような形式の上演を上映するとどうなるのか、という興味もあって観てみて観ました。 エアリアルのパフォーマーも参加しており、このようなサーカス技をどう活かしているのか、という興味もありました。

「イマーシヴ」とは銘打たないものの、舞台と客席の関係を取り払い観客と演者の間にインタラクションがある演出は コンテンポラリー・ダンス作品やサーカスや大道芸やそれらに隣接するパフォーマンスでは少なくなく、それなりに体験してきています。 (今年観たものに限っても、長井 望美 × 目黒 陽介『人の形、物を語る。』[鑑賞メモ] や Sue Healey: ON VIEW: Panorama の前半 [鑑賞メモ] がイマーシヴな演出でした。) この A Midsummer Night's Dream はそれらに比べて観客も多く大掛かり。 ピットの観客と同じレベルではなく、背丈程度の高さの可動式のステージの上や、時には空に吊り下げられる輿状のベッドなどの上で、ほとんどの場面を演じていました。 今まで自分が観たことのある中では、 Fuerza Bruta [鑑賞メモ] から エンタテインメント色を薄めて演劇に寄せたよう。

観客からのツッコミに応じる場面も1回程度、客弄りも客のスマートフォンを取り上げて遊んだり自撮りしたりという大道芸でもお約束のようなものだけ。 Rude Mechanicals の素人芝居に観客をステージに上げて一緒に演じさせたりできるかも、と思っていましたが、そんなことはしませんでした。 上映の映像も、ピット客目線の映像も全く無かった訳では無いですが、カメラワークはギャラリー席レベルからがほとんどで、特にピットの臨場感を強調せず。 そんな映像作りもあって、イマーシヴというより、囲むように観客席をおいたステージを観ているようでした。

エアリアルのパフォーマーたちは妖精たち (除くPuck) の役を割り当てられていて、 ループ状のシルクを使ったエアリアルだけでなく、ベッドの天蓋枠を使って、ポールダンスもしたり。 Puck は俳優 (David Moorst) が演じていましたが、 ループ状のシルクでクルクルと前転したりと、かなりアクロバティックなこともしていました。 妖精たちはグリッターメイクをしてカバレットやサーカスのショーのような衣装でしたが、 Puck だけは彼らとは違い John Lydon を思い出させるような衣装や振舞をしていました。 Puck 以外のエアリアルの演技は物語の状況や登場人物の内面などと関連強く関連づけられておらず、 背景というかバックダンサーに近くなってしまったよう。そこは少々残念でした。 ちなみに、このエアリアル演技については、多くのパフォーマは National Centre of Circus Arts (aka National Circus) でリハーサルしていたようです。 (というか、これに関する instgram のエントリを見ていたことも、 A Midsummer Night's Dream の National Theatre Live を観ようと思ったきっかけでした。)

イマーシヴならではの演出、エアリアルを使ったならではの演出が楽しめたという程では無かったのですが、 つまらなかったとこはなく、むしろ、約3時間、笑いながら観ていました。 この演出の特徴の一つは、人の世界の女王 Titania と妖精の女王 Hippolyta、 人の世界の王 Oberon と妖精の王 Theseus を同一人物が演じており、 Hippolyta / Theseus は Titania / Oberon の無意識として描いていること。 あと、Oberon と Titania の立場を入れ替えて、媚薬を塗られるのが Oberon 側となるということ。 特に媚薬が塗られるのが Oberon としたことで、性的な役割からの逸脱がそれによる滑稽さが増していたように感じました。 そんな Titania / Hippolyta 演じる Gwendoline Christie と、 Oberon / Theseus 演じる Oliver Chris も巧く、ちょっとした表情や振舞で笑いを引き出していました。

原作はアテネやアマゾン国など原作はギリシャ神話を舞台としていましたが、 演出では現代に置き換えていました。 幕間のインタビューで Hytner 自身が言っていましたが、 冒頭のアテネは Margaret Atwood: The Handmaid's Tale 『侍女の物語』を意識したもの。 しかし、その設定は結末で巧く回収できていなかったようにも感じました。

面白かったのは、むしろ、Rude Mechanicals。 原作での職能は単なる名前 (姓) となっていて性別も男女混成で、 職人といっても高度技能職ではなくつなぎの作業服を着て非熟練労働に携わっていそうな労働者階級 (チャヴほど殺伐とはしてない) の人々として描いていました。 そんな人々が集住する地区のコミュニティセンターでイベントの出し物として演劇を上演する、みたいなノリを演じていたのが面白く感じました。 Quince はいかにも面倒見良さそうなイギリスのおばあちゃんだし、 男性陣の Bottom や Flute は気の良いお兄ちゃん (特に Flute はレゲエを愛聴してそう) という一方、 女性陣の Snout や Snug が無愛想という対比になっていて、 Quince が皆の面倒見てあげているようで、皆が Quince の無茶ぶりにも仕方ないなと思いつつ合わせてあげている感もあり、 単に役柄を現代のものに置き換えているのではなく、そんなコミュニティの様子すら感じられる点が良かったです。 (Oberon が媚薬で Botton への恋に落ちた時も、 Bottom は Quince に合わせてあげるのと同じように Oberon にも合わせてあげていたというにも感じられました。) そして、実際に結婚式での上演に臨む際は、Rude Mechanicals の名が背に入った青の揃いのジャージを着ていて、 演目として選ばれる時の喜び方も、まるでアマチュア劇団コンテストに臨んでいるよう。 Robert Softly Gale: My Left/Right Foot [鑑賞メモ] を思い出したりもしました。 そんな流れがあったので、グタグタな素人芝居がとても面白く感じられました。