TFJ's Sidewalk Cafe > Dustbin Of History >
Review: 『第8回 横浜トリエンナーレ 「野草:いま、ここで生きてる」』 @ 横浜美術館, 旧第一銀行横浜支店, BankART KAIKO, 他 (美術展); 『BankART Life 7 「UrbanNesting:再び都市に棲む」』 @ BankART Station, 他 (美術展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2024/06/10

メイン会場となる横浜美術館のリニューアル工事もあり、4年ぶりとなった横浜トリエンナーレ [前回の鑑賞メモ]。 今回も5月25日の1日をかけて、フリンジ的な連携プログラムの BankART Life [前回の鑑賞メモ]、などと合わせて観てきました。

横浜美術館, 旧第一銀行横浜支店, BankART KAIKO, 他
2024/03/15-2024/06/09 (休場日: 木曜日; 除 4/4, 5/2, 6/6), 10:00-18:00 (6/6-9 -20:00).
Artistic Director: 劉鼎 [LIU Ding], 盧迎華 [Carol Yinghua LU].

前回同様、欧米のメジャーな作家が避けられ、いわゆる絵画や彫刻のような平面や立体の作品ではなくインスタレーションが展示の中心です。 それも空間を変容させるというよりもリサーチベースのコンセプチャルな展示が多く、また、現在の作家ではなく、20世紀以降に活動した作家やグループに関するアーカイブ的な展示も交える構成でした。 空間的に美しく/興味深くインスタレーションするといった志向は意識的に避けられあえて雑然とカオティックに構成されていた感があって、 スマートフォンのカメラを構えても前回ではあったフォトジェニックとなる画角がほとんど無いところに徹底を感じました。

そんな雰囲気を楽しめたかというとさほどでもなく、むしろ、コンセプトを読み解く必要のあるリサーチベースの作品を大規模に集積させるのは、鑑賞者の気力体力的に無理があるのでは、と感じてしまいました。 もちろん、うまく引き込まれればそうでも無いのかもしれないのですが、 メイン会場の横浜美術館2階のほぼ導入部に掲げられた芸術監督の言葉に違和感を覚えたことも、作品を読み込む気力を削いだように思います。 そこにあった「社会主義体制が衰退し冷戦が終結した後にあって、現代の世界秩序は、新自由主義経済と保守政治が全てを支配する状況を作りだしています。」という言葉を目にして、 東欧革命以降2010年代半ば頃まであったらまだその言もアクチュアルだったかもしれませんが、 Obama 大統領後のアメリカ政治の混乱やイギリスのBrexit、そしてコロナ禍を経た今まだそれを言うのかと、違和感を覚えました。

そして、欧州難民問題の引金を引いたシリア Assad 政権による国内武力弾圧やロシアのウクライナ侵攻などの世界の動乱は、 芸術監督が言うようなポスト冷戦の世界秩序がもたらしたのではなく、むしろその秩序が終わろうとしているからではないのか、と。 また、トリエンナーレで展示されていた知識人や芸術家の「縄文」受容のなれの果てに『土偶を読む』サントリー学芸賞受賞問題のようなものがあるのではないか、 さらに言えば、この展覧会が称揚している20世紀のカウンターカルチャー的な身振りがオルタナ右翼を育てたのではないのか、と。 冒頭でそんなテキストを目にしてしまったこともあり、展示に引き込まれたというより、展示を観ながらカウンターカルチャーの亡霊 (もしくはゾンビ) を眺めているような気分になってしまいました。 2010年代半ばであれば、まだ、この企画もエキサイティングに感じられたかもしれませんが。

旧第一銀行横浜支店会場は、横浜美術館の展示から変化はなく延長に感じられました。 BankART KAIKO 会場にも展示はありましたが、むしろ、関連グッズのショップがメインに感じられました。

街中を使った展示もあったのですが、クイーンズスクエア横浜の展示は空間に溶け込み過ぎ、 元町・中華街駅連絡通路を使った 香港生オーストラリア在住の Chun Yin Rainbow CHAN [陳 雋然] による果物の歌を絵にした Fruit Song No. 2 (2024) が、 観ながら聴くようQRコードからリンクされた音楽も含めて、今回のトリエンナーレの中で最も印象に残った作品でした。

石内 都 『絹の夢』
ISHIUCHI Miyako: silk threaded memories
みなとみらい線馬車道駅コンコース
2024/03/15-2024/06/09.

「アートもりもり!」と銘打たれた関連プログラムの1つ、 馬車道にあった横浜生糸検査所及び帝蚕倉庫群に因んだ、 桐生や安中など群馬県で現在も稼働している絹の製紙工場で撮った写真 Silk Dreams (2011) を使ったインスタレーションです。 石内 の作風としては素直に鮮やかで美しい写真ですが [関連する鑑賞メモ]、 美術館やギャラリーではない空間での展示には映えるでしょうか。

磯崎 道佳 『よこはまミーティングドーム2004-2024』
ISOZAKI Michiyoshi: Yokohama Meeting Dome 2004-2024
横浜市庁舎アトリウム
2024/05/22, 10:30-19:00

こちらの「アートもりもり!」は、観客参加型のワークショップを伴うプロジェクトが多い 磯崎 道佳 による創造都市横浜20周年のプロジェクトです。 アトリウムでのインスタレーションということからなんとなく想像してたものの倍(体積8倍)のスケールの、透明ビニールの方形エアドームがありました。 「等身大アバターワークショップ」はしませんでしたが、そこで知人友人に会うことができたということがまさにミーティングドームでした。

「アートもりもり!」プログラムは、他に、象の鼻テラスの『ポート・ジャーニー・プロジェクト “SEVEN SEEDS”展』や、横浜マリンタワーの特別プログラムにも、足を運んでみましたが、 興味関心とはすれ違ってしまった感じもありました。

BankART Station 他
2024/03/15-2024/06/09 (休場日: 木曜日; 除 4/4, 5/2, 6/6), 11:00-19:00.

今回の「アートもりもり!」プログラムでもありますが、第2回以降毎回、トリエンナーレのフリンジ的なプログラムとして BankART1929 が企画する展覧会の第7回です。 メインのトリエンナーレがリサーチベースの作品に思いっきり振られたことの対比もあって、 BankART Station の展示に、コンセプト的な面よりも、造形的な美しさや面白さへのウェイトを感じました。 無印良品的なミニマルさの 婦木 加奈子『洗濯物の彫刻』片岡 純也 + 岩竹 理恵 の一連の不条理な機械など BankART1929の企画らしく [関連する鑑賞メモ]、 ある意味でオーソドックスな現代アートの展覧会にほっと一息ついたところもありましたが、少々大人しすぎる様にも感じてしまいました。

『よこはまミーティングドーム2004-2024』で会った友人に勧められ、ポートサイド周辺地区の展示へ足を伸ばしました。 横浜クリエーションスクエア界隈まではたまに行く機会がありますが、その先まで足を伸ばすのは初めてです。 いかにもな再開発エリアを抜けた先には、まだ現役の貨物線の高島線や横浜市中央卸売市場の界隈は年季の入った工業地帯的な街となり、こんなエリアが残っていたことに気付きました。 時間が遅くなったこともあって観られなかった作品も多かったのですが、 島袋 道浩 『宇宙人とは接触しないほうがいい』ヤング荘 『スナックフェンス』など、 作品だけでなくそれが置かれた場に1990年代の街中アートイベントのセンスというかノリを思い出しましたし、 おさんぽ気分で街の雰囲気を楽しむことができました。

トリエンナーレのフリンジ的なプログラムといえば、 日ノ出町駅と黄金町駅の間のエリアのアニュアルのイベント『黄金町バザール 2024』もありますが、 こちらは一足早く4月27日に観ました。 八番館で開催されていたイベント内展覧会『寄る辺ない情念』などその会場も含めて雰囲気あるかなと思いましたし、 自分もまだ若かった1990年代の頃はそういう雰囲気も楽しんでいたように思いますが、今はコンセプトや運営の緩さの方が気になってしまいます。