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Review: 『心ある機械たちagain』 @ BankART Station + BankART SILK (美術展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2020/01/26
BankART Station + BankART SILK
2019/12/28-2020/02/02 (12/30-1/3休). 11:00-19:00.
牛島 達治, タムラサトル, 川瀬 浩介, 早川 祐太, 西原 尚, 片岡 純也, 武藤 勇, 小林 椋, 今村 源, 三浦 かおり, 田中 信太郎.

横浜トリエンナーレ2008 の連動プログラムとして開催された 『心ある機械たち』 [鑑賞メモ] の11年ぶりの続編的な展覧会です。 今回は2019年横浜に新たにオープンした BankART Station と BankART SILK を会場としていました。 「心ある」かは微妙ですし、コンセプト的な深さのようなものはありませんでしたが、 役に立つ機械ではなく純粋に動きの面白さを楽しむようなメカニカルな作品が相変わらず楽しめた展覧会でした。 以下、特に気に入った作品について個別に。まずは、BankART Station から。

BankART 1929 のこの手の展覧会の常連といえば 牛島 達治 [鑑賞メモ]。 Studio NYK 時代は大きくゴツくも泥臭い機械が似合っていましたが、Station に展示されていたのは、いくらか軽め。 回転する街の模型に砂をかける《まっすぐなキュウリたちの午後 (砂の街)》 (2019/1997) 半ループで閉じた長い周回コースとなったレール上を競争する《まっすぐなキュウリたちの午後 (競争)》 (2019/1997) にしても、 「無用」以上の風刺を感じましたが、後者の滑らかというより断続的なメカニカルな動きの面白さは楽しめました。

タムラサトル [鑑賞メモ] が出展していたのは、1990年代の《スピンクロコダイル》系の作品、 《回転する3頭のシカ(前)》 (1996)と《回転する3頭のシカ(前)》 (1996)。 ゆっくり回るので危なさはありませんが、すっとぼけた造形の馬鹿馬鹿しさが楽しめます。

最近は、森山 開次 や ひびの こづえ の舞台音楽も印象深い 川瀬 浩介 [鑑賞メモ] は、 11年前の前回に続いて、そのヴァリエーションとも言える《ベアリング・ブロッケンII》 (2009)。 リズミカルな鉄琴の響きも楽しい作品です。

BankART Station で、そしてこの展覧会で最も気に入ったのは、片岡 純也。 中のコーヒーが回転している《Coffee cup》 (2019) や 説明の不要なタイトル通りの作品《ソファーの足を回る電球》 (2017)、《回る時計・進まない秒針》 (2019) など、 見落としがちなさりげなさながら、気付くと現実を異化するシュールさもある所が良いです。 大掛かりな《Floating paper》 (2017) はそれらとまた異なる作風ですが、 A4大の紙が水平に、ぴったりの大きさの透明なアクリル板の角柱の中を下りていくという、 紙の縁とアクリル板の間を抜ける空気が作る紙の繊細な動き、 空気に支えられつつ下りていくゆっくりとした動きが、味わい深いです。

BankART SILK では、三浦 かおり の《秒の音》 (2019)。 約20台壁に固定された数センチ大のベースを持つ数度ずつ断続的に動くムーブメントの針先に付けられた鈴が、細やかな音を奏でていました。

武藤 勇 の《不測の事態》は天板がロールして動く100円玉投入口のある展示台。 100円玉をスロットに投入と発生する事は、「不測の事態」という程ではなく、十分に予想できる動きです。 そうなるとわかっていても、実際に100円玉を投入して、展示されていた小壺が耳障りな破壊音と共に破片となって飛び散る様はやはり心穏やかではありませんでした。

横浜市内にオルタナティヴなアート・スペースを運営する BankART 1929 も 2017年末にそれまでの核となるスペース BankART Studio NYK を失ないましたが、 去年、山下町開港広場前のシルクセンター 1Fの BankART SILK と、 みなとみらい線新高島町駅の地下コンコース空スペースを使った BankART Station をオープンしています。 SILK へは KAAT神奈川芸術劇場や神奈川県民ホールへ行ったついでに覗いたりしていますが [鑑賞メモ]、 Station へ行ったのは、今回が初めて。 流石に、2004年開業した営業中の地下駅のコンコースなので、1953年築の元倉庫だった Studio NYK のような味わいはありません。 しかし、SILK と違って、外光の入らない広い空間という点では空間の特徴が Studio NYK に近く、大掛かりなもしくは/かつ映像を使ったインスタレーションには向いていそうです。 駅近ですし、横浜美術館、KAAT神奈川芸術劇場や神奈川県民ホールへ行く際は、 東急線みなとみらいパスなどを活用して、 立ち寄るのも良いかもしれません。