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Cie 14:20 at 東京日仏学院, 2012

Text Last Update: 2012/05/16 | 撮影 on 2012/05/12 at 東京日仏学院
東京日仏学院
2012/05/12 14:00〜21:30

Cie 12:40 は 2000年に Clément Debailleul と Raphaël Navarro によって設立された フランス・オート=ノルマンディ地方ルーアン (Rouen, Haute-Normandie, FR) を拠点とするカンパニー。 magie nouvelle を提唱し、 2006年以来フランス国立サーカス学校 CNAC (Centre National des Arts du Cirque)Pour une Magie Nouvell 「新しいマジックのために」と題したトレーニング・コースとコンファレンスを開催したり、 Philippe Decouflé とのワークショップを開催するなど、 magie nouvelle 運動の中心的な存在だ。 そんなカンパニーが来日して 東京日仏学院創立60周年イベントの中で 「ニュー・マジック・ショー!」を行った。

場所や時間を決めて行ったパフォーマンスもあったけれども、 パフォーマンスの多くは創立60周年のお祭り状態の東京日仏学院の庭や建物を使って 半ばゲリラ的に繰り広げられた。 彼らのウェブサイトの情報から予想はしていたけれども、 確かにマジックの技を使ったものもあったものの、それがメインという程ではなく、 むしろコンテンポラリー・ダンスやコンテンポラリー・サーカスにマジックの要素も加えたよう。 マジック、ダンス、マイム、ジャグリングにアクロバット、 そして生演奏の伴奏だけでなくコミカルなシャンソンショーのようなものまで。 もちろんユーモアも感じる所もあったけれども、 パフォーマンスによって場を作り替えるような抽象度の高い洗練されたパフォーマンスが楽しめた。

ゲリラ的に同時多発的にパフォーマンスが行われたときもあり、全てを観られたわけではないが、 自分が観たものについて、観た順に写真入りで。

14時頃、庭での創立60周年イベントの挨拶の後。 始まりは建物の屋上から。 Matthieu Saglio の cello を伴奏に、 Aragorn Boulanger による 舞踏風の引き攣った動きを robot dance でするかのようなパフォーマンス。 初夏の木々の緑を背景に上手い舞台選び。 「屋上をご覧下さい、パフォーマンスを始めます」のようなMCに頼らずに、 cello の生演奏で人の視線をひきつけていた。

cello の Matthew Saglio はスペイン・バレンシア (Valencia, ES) 出身、 スペインとフランスの jazz の文脈で活動している。 ソロや flamenco jazz のグループ Jerez-Texas で活動する他、 同郷 Efren López (ex-L'Ham de Foc) のセファルディ (Sephardi) の音楽のプロジェクト Aman Aman にも参加している。

庭から屋上を見上げて観ていたパフォーマンスが終ったタイミング、で、 背後で Gabriel Saglio を clarinet をひと吹き。その音にはっと振り返ったところで、 少々クレズマー入ったリズミカルな clarinet に乗って、 Kim Huynh が踊るようにステップを踏みながらの 3 club juggling。

clarinet の Gabriel Saglio は、 ブルターニュのレンヌ (Rennes, Bretagne, FR) で2003年に結成した Les Vieilles Pies の歌手 / clarinet 奏者としても活動している。 Les Vieilles Pies は2000年代前半に Nouvelle Scène Française [関連発言] と呼ばれたシーンから出てきたグループだ。 cello の Matthieu Saglio とは姓が同じで、以前からコラボレーションをよく行っているようだが、 親戚等の関係があるのかはネットを検索した限りでは確認できなかった。

juggling の後、隣の芝生の上で、子供向けのショーが始まった。 他のパフォーマンス観るために移動してしまったため、前口上程度で、後はほとんど観られなかった。 どんなショーをやったのか、そもそも、Cie 14:20 のパフォーマンスの一貫なのかどうか、判らず。

続いて、建物の中へ。1階ホールでのパフォーマンス。 まずは、Jur Domingo と Julien Vittecoq がドタバタとぶつかり合ったり組み合ったりと、 調子外れて壊れた contact improv か acrobat かというパフォーマンス。 balls と clubs を用意していたけれども、juggling らしきこともほとんどせずに、 結局、balls や clubs も放り出してしまうという。 これを伴奏なしで無表情でやる、不条理なユーモアが良かった。

Jur Domingo と Julien Vittecoq は Le Lido 出身。 ミディ=ピレネー地方トゥールーズ (Toulouse, Midi-Pyrénées, FR) を拠点に Cridacompany として活動している。 今回は、Cie 14:20 に客演といったところだろうか。

Cridacompany の2人が階段の上に下がって、 続いて、Gabriel Saglio の bass clarinet による抽象的なフレージングの伴奏で、 Aragorn Boulanger の舞踏 robot dance。

再び Cridacompany の2人が登場。 今度は Jur の歌というか voice に合わせて、 Julien が四つ這い、もしくは腹這い、エビぞりといった状態で床を跳ね踊るというダンス。 跳ねるのに使えるのはつま先と手指、あとは背筋くらいだろうが、そうとは思えない跳ね方をした。 最後に、Julien が立ち上がって、 「おまえ、うるさい」と言わんばかりに Jur の口を塞いで引っぱって下がっていって、 笑いを取っていた。

これで、1階ホールでの一連のパフォーマンスはおしまい。 屋上のパフォーマンスからここまでで、1時間弱だった。

この後は2階メディアテーク (図書室) で close-up magic というか table magic。 糸を千切って丸めて伸ばすと繋がっているというものや、カード当てなど、 コンテンポラリー・サーカス的演出抜きの手品だったが、間近で観ることができたので、見応えあった。 一通り終えたところでマジシャンを入れ替えて子供向けの手品となったので、子供に場所譲って退散。 特に名前を訊いたりしなかったため、マジシャンの名前等は不明。

庭に出てみると、Cridacompany の2人がパフォーマンスをやっていた。 acrobat というか、人形のようにボーズをとった Jur を Julien が担ぎ上げて、腰の回りや頭上で回したりするもの。 Jur が手に cowbell を持っているのがポイントで、 カランコロンと cowbell が鳴る音が伴奏のよう。

さらに、この acrobat 様のパフォーマンスからの流れで人体浮揚 (body leviation) のマジック。 Jur を寝かせて布に包むあたりで実質的に動きが止まるってしまうため滑らかな動きの流れだったとは言い難かったが、 前口上やセリフの類は一切使わずに動きの流れの中にマジックを入れるあたり、 やっと magie nouvelle らしいパフォーマンスを観られたように感じた。

この後は、庭にあるカフェ・レストラン La Brasserie の中に仮設した暗室ステージで Kim Huynh の “Etoiles” 『星』。 ジャグラーの姿も見えない暗闇の中、glow-ball の juggling で始まるのだが、 次第に glow-ball の軌跡が juggling で予想されるものから外れて行く。 それも、3月に観た Adrien M / Claire B [レビュー] のようなビデオ投影によるものではなく、 途中で glow ball のメテオ (meteor hammer) や 角に glow ball を付けた枠 (frame) 状のものの twirling を交えていたように見えた。 そんな技の切り替えによる glow ball の軌跡の変化が見所だろうか。

これで、La Brasserie でのショーは一旦おしまい。この時点で、開始から2時間近く経過していた。

この後、再び1階ホールへ。 今度は、Cridacompany の Jur Domingo と Julien Vittecoq に Matthieu Saglio (cello)、Gabriel Saglio (bass clarinet) の2人を加えた 4人編成での音楽ライブ。 Jur の歌で chanson や tango を歌って聴かせた。 今まで dance や acrobat をしていた Julien Vittecoq が、 ここでは guitar だけでなく accordion に持ち替えるなど、 楽器演奏でも多才なところを見せた。 強く大きな音でノリ良く賑やかにやるのではなく、 少々ユーモラスな所も見せつつ、控えめな音で細やかな雰囲気を楽しめるところも。 演奏前に Jur が「少し静かにして」のようなことを言ってはいたが、 それで静まらせてから演奏を始めるのではなく、 人のざわめきにギリギリ負けないくらいの音量で始めて、 歌と演奏で観客を引き込んでざわめきを抑えていく入りも良かった。

20分ほど歌を聴かせた後、Cridacompany の2人は2階へ下がって、 Matthieu Saglio & Gabriel Saglio だけの演奏を暫く。 暫くすると Aragorn Boulanger が黒い服に着替えた Jur と並んで再び登場。 1階ホールでパフォーマンスを始めるのではなく、 2人並んで無表情かつぎこちないゆっくりした動きで観客を導くかののように建物を出て庭へ。

庭で Aragorn Boulanger のパフォーマンス。 バランスを崩して倒れるような動きを、スローモーションで。 それも実際に倒れきってしまうことなく、再び姿勢を戻していった。 まるでバランスを崩したかのような姿勢を絶妙にバランスを取って実現しているという、 不思議な面白さがあった。

そんな Boulanger のパフォーマンスが終ると、背後で cello の音。 芝の上で Julien Vittecoq によるパフォーマンス。 最初に建物1階ホールでやったのと同じ、四つ這い、腹這い、エビぞりで跳ね回るダンスだが、 今度は cello の伴奏で。 伴奏のせいか、下が芝で動き易いのか、より激しい動きだった。

その後、起き上がって芝からデッキの上へ。 いつのまにか白い服に着替えた Jur と今度は木靴の tap dance を 腰の引けたぎこちない動きでユーモラスに。

16時半前には、建物1階から庭にかけての一連のパフォーマンスは終了。 他のパフォーマンスも無く、次のパフォーマンスは始まる16時45分までちょっとした休憩時間に。

16時45分からは建物3階のテラス部分に仮設された水のステージを使って、 Aragorn Boulanger の “La Chute” 『落下』。 Matthieu Saglio の cello を伴奏に、 水を薄く張ったステージの上で、今まで見せてきたように、 舞踊風の robot dance をしたり、バランスを崩して倒れそうになっているかのような姿勢を取ったりした。 空中を落ちて行く人をイメージしたものなのだろうとその姿勢や動きは理解できたが、 実際に「落下」しているかのようなイメージを喚起された程では無かった。 むしろ、アンバランスな姿勢が水面で反射してより大きく揺らいて見える所が面白かった。

“La Chute” を見終えて下に降りるとショーが始まる気配があったので、 La Brasserie の仮設暗室ステージへ。 最初はまた Kim Huynh の “Etoiles” 『星』だったのだが、今度はこれで終らず、 青色LEDの暗い照明下でのショーが続いた。 明るさ、色が特殊で、写真を取るのは自分には難しかった。 まともな写真がほとんど撮れなかったのは残念。

続いて Yann Frisch“Baltass”。 テーブル上での balls、cup、pot を使った juggling というか manipulation に magic を織り込んだもの。 動かすうちに ball が減ったり増えたり、cup の中に ball が消えたと思ったら水が出て来たり。 本人は manipulation だけをやっていて magic をしているつもりはないかのように、 ball が減ったり増えたり水が出て来たりすることに驚いてみせたり、 もしくは、そんなことに気付かなかったように振る舞っていた。 前口上やセリフは一切無しで、リズミカルな manipulation の動きと、 意外な変化に対するユーモラスなリアクションで見せた。 manipulation と magic がとてもスムーズに融合していて、 なるほどこれが magie nouvelle が狙うところかと納得させられるショーだった。

続いて、Cridacompany の2人によるショー。 Julien Vittecoq の piano / accordion の伴奏による Jur の chancon ショーというフォーマットだけれども、 1階ホールでの音楽ライブとは違い、音楽はなかなかまともに展開せず。 様々なプラスチックのボトルの口がたてる「プシュ」と空気が抜ける音を loop で回してリズムを作って遊んだり、 突然鹿の角を持ち出して2人で manipulation したり。 そんな不気味さと笑いが同居した不条理感あるステージが楽しめた。

この Cridacompany のショーが終ったのは18時頃。 これで、Cie 14:20 の昼のパフォーマンスは終了。 18時半から20時過ぎまで野外ステージで、 1990年代半ばから活動するフランスの salsa-ragamaffin のグループ Sergent Garcia のライブが行われた。 14時から18時までパフォーマンスを見続けてさすがに疲れていたので、 体力温存。ライブをBGMに、屋台で夕食を取ったり、建物2階のソファで休憩したりして 過ごしてしまいました。というわけで、ライブ・レビューはありません。

Sergent Garcia のライブの後、野外ステージの転換の間、 建物の屋上を使って、Aragorn Boulanger のパフォーマンス。 昼のオープニングでのものと動きはほぼ同様の舞踏 robot dance。 伴奏は Matthieu Saglio の cello だけでなく、Gabriel Saglio の clarinet も加わった。 しかし、昼との一番の違いはライティング。 Pierre Surtel の黄色の野外彫刻 Les Portes 『扉』を ライティングで浮かび上がらせる一方、 彫刻に対して補色の青色の照明で背景の木々を染め、 昼の緑の爽やかさから一転、人工的かつ幻想的なイメージを作り出していた。 引き攣ったロボットのような動きも、そんなイメージにはまっていた。

そして、フィーナーレは Kim Huynh による “Constellations” 『星座』。 野外ステージ前の10m四方高さ5m程度の枠を使い黒い網で逆円錐 (擂り鉢状のもの) を作り、 円錐の頂点にあたる中央に高さ2mの黒い円筒状のステージをセット。 そのステージに Huynh が立ち、 10以上はあろう glow-ball を投げたり網の上を転がしたり投げたりの juggling をした。 観客は網の下に入り夜空を背景に glow-ball の軌跡を観ることになる。 タイトルは「星座」だが、頭上の観る楕円や放物線の光る軌跡は、 彗星というか流星群のほうが近いもののようにも感じた。 Huynh は投げ方を変えて軌跡に変化を付けていたし、 glow ball を一斉点滅させたりという変化もあったけれども、 それでも、擂り鉢状の網の上での glow ball juggling というだけの30分を 飽きずに観ることができたのは、 Matthieu Saglio (cello)、Gabriel Saglio (clarinet)、Jur (voice) らの生演奏による音楽のおかげもあった。 彼らの演奏しているステージは照明も落とされ、演奏する様子を観ていたわけでもないけれども、 glow ball の軌跡やそのリズム感は音楽の一部を成しているようで、 よくできた即興のセッションを聴いたときののように、あっというまに30分が過ぎていった。 電子機器の電源を切って下さいというアナウンスもあったので、 写真撮影はしませんでした。撮影したとしても暗くてちゃんと撮れなかったようにも思いますが。

この Kim Huynh の “Constellations” で Cie 14:20 のパフォーマンスは全て終了した。 創立60周年イベントはこの後も続いていましたが、 夜になって冷え込んできたし、疲れもあったので、東京日仏学院を後にしたのでした。

今回の Cie 14:20 のパフォーマンス全体を通して最も印象に残ったのは、生演奏の力。 これは、4月28日に沼津で Fondazione Pontedera Teatro: Lisboa を観たときにも感じたことなのだが [レビュー]。 単に伴奏の音楽がメロディやリズムで雰囲気を作り出したり場を盛り上げたりするだけではない。 生演奏と dance や juggling が対話するかのようなセッションは、その一体感を強く感じさせるものだ。 さらに、楽器が音を出すということ自体の持つ観客の注意を引きつける力を活用して、 観客をパフォーマンスへとうまく誘導することができるのも、生演奏ならではだ。 日本では劇場での公演でも生演奏が使われることは多くないが、 このような生演奏が不可欠な一部になったパフォーマンスを楽しむ機会がもっと増えたら、とも思う。

もちろん、音楽の生演奏だけでなく、技のレベル、その組み合わせ方見せ方といった演出も巧み。 そんなに多くのパフォーマーが参加していたわけではないにも関わらず 様々な形でパフォーマンスが繰り広げられ、 14時から21時過ぎの間の約5時間、飽きる事なく観ることができた。 数時間にわたって、あちこちの庭や建物の一角で様々なパフォーマンスが繰り広げられる様は 大道芸フェスのようでもあったけど、 ステージやタイプテーブルをきっちり決め観客もそれを目当てに来る客が中心となる 最近の日本の大道芸フェスに比べても、意外性が楽しめた。

東京日仏学院くらいの空間と今回のイベント程度の観客数であれば、 ゲリラ的にあちこちでパフォーマンスが繰り広げられても、なんとか追いきれた。 街ぐるみで開催する規模の大きな大道芸フェスも悪くないけれども、 大規模になる程、組織的運営が必要になり、結局、型にハマってしまうのだろうか。 例えば、美術館や劇場で行われるイベント (アートフェス等) の一部に、 その建物や周囲の空間を使い、 今回の Cie 14:20 のようなパフォーマンスを組みこむことを試みるのも良いと思う。

今回のようなイベントの中でのパフォーマンスも楽しいけれども、 Cie 14:20 の公式サイトで観られる動画や写真からすると劇場公演もかなり良さげだ。 また来日する機会があったら、今度は是非劇場公演を観たい。

ところで、今年に入って東京日仏学院の主催によるコンテンポラリー・サーカスの公演は、 3月の Adrien M / Claire B [レビュー] に続いて。 4月の Jean-Claude Gallotta [レビュー] など、 コンテンポラリー・ダンスの企画はよく開催されているけれども、 サーカスが続いたことは記憶に無い。 この分野に強い人が担当に付いたのだろうか。 今後もこのような企画が続くことを期待したい。