Fondazione Pontedera Teatro は、イタリア・トスカーナ州ピサ (Pisa, Toscana, IT) 近郊のポンタデーラ (Pontadera) のカンパニー。 そのデンマーク出身の Anna Stigsgaard の演出による 自転車を使った野外劇 Lisboa (邦題『旅』) は、 ポルトガルの詩人 Fernando Pessoa に捧げられたもの。 この野外劇が 『ふじのくに⇄せかい演劇祭 2012』 のプレイベントとして、 ゴールデンウィーク中に静岡県各地で上演された。 その初日 (日本初演) の沼津中央公園での公演を観て来た。
Pessoa のトレードマーク的な服装である20世紀初頭風の黒スーツ、ソフト帽に丸眼鏡姿で自転車に載った10名 (Pessoa はヘテロニム [別名] を多用したのだが、その10のヘテロニムに対応しているらしい) と 彼らに誘われて一緒につかの間 Pessoa の世界へ入り込む (観客役ともいえる) 1名に導かれつつ、 回遊しながら公園やその周囲のあちこちで繰り広げる寸劇を楽しむ約1時間のパフォーマンスだった。 寸劇といっても、セリフは前口上やかけ声のような簡単なものだけ。 むしろ、自転車を使ったダンス的なパフォーマンスや、 パフォーマー自身が accordion や tuba などを演奏し歌う少々哀愁を感じる南欧の民謡のような音楽 (fado ではない)、 黒スーツにソフト帽といういでたちの存在感、といったものを通して、 Pessoa の住んだ20世紀初頭のリスポン (Lisbon) の街の雰囲気を作り出そうかというパフォーマンスだった。
正直に言えば、沼津中央公園の中に20世紀初頭のリスボンが出現したという程ではなく、 邦題の『旅』というより「街歩き」という雰囲気だったとも思う。 これがヨーロッパの都市の旧市街を舞台にしていたら、もっとハマったものになるのだろうとは思った。 自転車を使うということでアクロバット的な乗り方も僅かながら期待していたのだが、 自転車を振り回して踊る程度で、さすがにそんなことはなかった。 しかし、黒スーツ、ソフト帽に丸眼鏡姿や、彼らの演奏する南欧風の音楽が 自分の好みのツボにハマったのも確か。 快晴下の初夏のような日差しの中、 一緒に南欧のどこかの町で一緒に街歩きしているかのような気分を充分に堪能できた。
以下、パフォーマンスの様子を写真で紹介。 キャプションは自分が観ていて感じ取ったストーリーであって、 演出家の意図と合っているかどうかは判りません。
Pessoa 風のいでたちの10人が自転車に乗って登場。 音楽を演奏しながらで、まるで自転車楽団といった感も。
公園前に付けたバスから白いスーツの男が降り立ちます。 この時点では、何だこの人たちは、と、Pessoa たちとは微妙な距離感。
Pessoa たちの自転車ダンスを観ているうちに引き込まれて、 白スーツの男も Pessoa 風のいでたちに。
そして、Pessoa の世界、20世紀初頭のリスボンへ出発!
Pessoa たちに率いられて、その音楽、歌声に誘われつつ、公園の回りの路地を進んで行きます。
進む路地に面した建物の窓などから Pessoa 風の人がのぞき、 黒いソフト帽を付けた黒風船を飛ばして、場を盛り上げます。
緑に囲まれた小さな公園に出て、自転車を使ったパフォーマンス。
ポルトガル・ギター (Guitarra portuguesa) の伴奏で、……。
リンゴの木のようなパフォーマンス。
元の公園に戻って、フィナーレ。 黄色いドレスの女性を追ううちに、……。
我に返り、白スーツ姿に戻って、元の日常へ戻っていきます。
そして、Pessoa たちと共に過ごした記憶 —— 黒スーツは、快晴の青空へ飛去っていきました。
大道芸ワールドカップ in 静岡 でも2000年代前半まで野外劇のカンパニーを一つほど招聘していて、 Hector Protector: Génie Génétic [写真]、 L'Éléphant Vert [写真] や Les Vernisseurs: Joyeuse Pagaille Urbaine [写真]、 そして、Avanti Display: Mr. Lucky's Party [写真] といったものを楽しんだことを、 この Lisboa を観ていて思い出しました。 というか、当時静岡までわざわざ足を運んでいたのは、 ジャグリングやアクロバット、マジックのようなある種典型の大道芸というより (もちろんそれらも好きですが) むしろ、 それらに混じっていた野外劇や現代サーカスの演目を目当てにしてのことでした。 しかし、最近の 大道芸ワールドカップ in 静岡 は、この手のプログラムが すっかりダメになってしまってしまいました。 その代わりに、というわけでもないですが、 『ふじのくに⇄せかい演劇祭 2012』のような演劇祭が、 今後もこういう野外劇・パフォーマンスに積極的に取り組んでくれたらなあ、と。