2006年2月頃のトリノ (Torino/Turin) の音楽シーンに関する一連の発言の抜粋です。 古い発言ほど上になっています。 リンク先のURLの維持更新は行っていませんので、 リンク先が失われている場合もありますが、ご了承ください。 コメントは談話室へお願いします。
オリンピックの開催地に関連して 「音楽は (snip) 何があったかなあ」と mixi で言ってる知人がいたのですが、 トリノ (Torino/Turin) といえば、 folk/roots 〜 world music と jazz/improv 〜 new music のレーベル/ショップ Felmay がある街ですね。 そんなわけで、トリノを主邑とするピエモンテ (Piemonte) 地方の音楽について。
といっても、特に詳しいというわけではありません。 読んでいて、それは違う、とか、あれが抜けている、という所も多いでしょう。 間違いの指摘や補足のコメント、大歓迎です。
Felmay の前身である Robi Droli は、1987年に folk/roots のグループ La Ciapa Rusa の Beppe Greppi と Maurizio Martinotti によって 設立されたレーベルです。所在地は La Ciapa Rusa の地元、 ピエモンテ州南東部アレッサンドリア (Alessandria) 県の カサーレ・モンフェラート (Cassale Monferrato) でした。 もともと、La Ciapa Rusa 関連音源をリリースするレーベルでしたが、 イタリア各地の folk/roots を中心とする世界各地の world music と 欧米の jazz/improv や new music (contemporary classical, 現代音楽) を扱うレーベル Robi Droli / NewTone として発展しました。 また、トリノにショップ Onde を開き、 イタリア国内はもちろんヨーロッパ各地の folk/roots 系の独立系レーベルの 販売 (通販) もしてきています。
1990年初頭 (遅くとも1992年) には Robi Droli は NewTone というレーベルを始め、 その下の Roots シリーズで folk/roots 〜 world music を、 News シリーズで jazz/improv 〜 new music をリリースするようになりました。 Felmay は1995年にレコード製作者 (レコード保護条約の(p)表示) として クレジットに登場します。 1999年には、それまでの Roots / News の2シリーズに代わり、 folk/roots 〜 world music を扱う Dunya と jazz/improv 〜 new music を扱う NewTone という2つのレーベルに再編されました (NewTone レーベルの位置付けが変りました)。 その後、2001年に(p)表示だけではなく連絡先等のクレジットも Felmay に変更され、 Robi Droli という名前が消えました。 しかし、Dunya と NewTone というサブレーベルは Felmay に引き継がれています。 また、トリノのショップと通販も、そのまま Felmay に引き継がれています。
Robi Droli の活動を引き継いでいるもう一つのレーベルに、 FolkClub EthnoSuoni があります。このレーベルは、 トリノの FolkClub (1988年設立) と カサーレ・モンフェラートの EthnoSuoni (1983年設立) という2つの協会 (association) のレーベルとして、1999年に設立されました。 芸術監督は Maurizio Martinotti (La Ciapa Rusa)。 幅広いリリースの Felmay とは対称的に、 最初期の Robi Droli のように、La Ciapa Rusa 関連音源を中心に イタリア (特にピエモンテ) の folk/roots に焦点を絞ったリリースをしています。 ちなみに、 "EthnoSuoni: musica per ascoltatori "resistenti"" (superEva, 2005/09/05; 「EthnoSuoni: "抵抗する"リスナーのための音楽」) という FolkClub EthnoSuoni の運営者 Valerio Cipolli への インタービュー記事があります。
そんなわけで、トリノというかピエモンテの音楽というと、 Robi Droli や FolkClub EthnoSuoni に関わってきた La Ciapa Rusa をまず思い出します。La Ciapa Rusa は2003年に活動停止しているので、現在では Tendachënt などの関連プロジェクトでしょうか。 Robi Droli 〜 Felmay の folk/roots 系のグループでは、 Tre Martelli もそうですね。
Felmay というかその前身となる Robi Droli は、1990年代後半に イタリアのレーベルの中で初めて直接コンタクトを取って その通販を利用したレーベルです。 そんなこともあって、ちょっと思入れがあったりします。 Felmay の通販は今でも利用していますし。 今でこそ folk/roots 〜 world music の方が主な目当になっていますが、 1990年代は Andrea Centazzo の Ictus リイシューとか、 Glenn Branca や Steve Reich とかの現代音楽物を買うことの方が 多かったようにも思います (遠い目)。
あと、フランスと接するピエモンテの西部山間部は (つまり、トリノ・オリンピックの スキーやスノーボードの会場の辺りは、たぶん) オクシタン (Occitan) 文化圏 (オック語圏) なので、ピエモンテには Lou Dalfin など オクシタンの folk/roots を演る グループ/ミュージシャンが少なからずいます。 そんな中で最も好きなのは Gai Saber。 hurdy-gurdy や bagpipe、accordion を使ったオクシタン系の伝統音楽をベースに、 electronics 等も使ったサウンドが特徴です。 Troubar R'Oc (Ousitanio Vivo, OV007, 1997, CD)、 Esprit De Frontiera (Ousitanio Vivo / Gai Saber, GS001, 1999, CD)、 Electro Ch'Oc (Bagarre, BGRR01, 2002, CD) の3枚のリリースがあります。 2002年以降リリースが無いのが残念なところですが、まだ活動しているのでしょうか。 ちゃんと制作すれば面白くなりそうだったのですが……。
FolkClub EthnoSuoni にも、 ピエモンテとオクシタン、特に、ニース (Nice) 〜 プロヴァンス (Provence) との 長年の交流をテーマにした音楽のリリースがそれなりにあります。 Compagnons Roulants とか。 特に、La Ciapa Rusa 〜 Tendachënt の Martinotti が、 Patrick Vaillant 界隈で活動するプロヴァンスの Renat Sette や Jean Louis Ruf らと演った Renat Sette / Maurizio Martinotti, Dòna Bèla: Canti dal Piemonte alla Provenza (FolkClub EthnoSuoni, ES5312, 2001, CD) など佳作ではないでしょうか。 プロヴァンスにも "Bella Ciao" と同じ旋律の曲 "Lo Boier" が伝わっているそうで、 "Bella Ciao" と "Lo Boier" のメドレーを演っているのが、興味深いです。
そして、Dòna Bèla のような作品を聴いていて思い出すのは、 音楽的に必ずしも近いというわけでもないのですが、 Riccardo Tesi と Patrick Vaillant が Silex に残した一連の作品です。といっても、Tesi はトスカーナ (Toscana) 出身ですし、 ピエモンテではなくもっと広めの北イタリアとオクシタンの交流がテーマでしょう。 Jean-Marie Carlotti / Daniel Craighead / Riccardo Tesi / Patrick Vaillant, Anita Anita (1988 / Silex, Y225037, 1994, CD) や、 Riccardo Tesi / Patrick Vaillant / Gianluigi Trovesi, Colline (Silex, Y225048, 1994, CD) が、お薦めです。 って、薦めても、今や入手困難ですね……。 Colline は Simone Guiducci の レビューでも言及しましたが、実際、 Silex のリリースには、最近の folk/roots の表現の原点といえる重要なものが多いように思います。 ほとんど廃盤で入手困難になっているのが、大変に惜しまれます。うーむ。
folk/roots 物から離れると、alt rock/pop の Mau Mau がトリノのグループです。 Mau Mau のバイオグラフィに 「"circuito underground torinese" の伝説的なグループ Loschi Dezi を前身として 1991年に結成」と書かれているわけですが、 このトリノのアンダーグラウンドというのが気になります。 Mau Mau の在籍する alt rock/pop 系のレーベル Mescal (1993年設立) の所在地もピエモンテ州南東部アスティ (Asti) 県の ニッツァ・モンフェラート (Nizza Monferrato)。 KitaWeb というイタリアのサイトで Videostrie per 30 anni di rock という「イタリアのロックの30年」といった感じの特集が組まれているのですが、 その中の "Storie Indipendienti /3: La Mescal" という記事で、ここ10年のイタリアの indie pop/rock を代表するレーベルとして Mescal を紹介しています。その記事の冒頭で、Mescal が扱ってきたもとして "fenomeno indie-pop di tutto rispetto, cresciuto nell'hinterland torinese." (トリノ周辺地域で盛りあがる、あらゆる類のインディ・ポップの現象) が挙げられています。 トリノはイタリアの indie pop/rock の中心地の一つになっているように思います。 Mescal レーベルにはピエモンテ以外のグループもそれなりにいるように思いますが、 Mau Mau 以外では、例えば、 Yo Yo Mundi も、アレッサンドリア県の温泉地アクイ・テルメ (Acqui Terme) のグループです。
しかし、実は、Mescal がピエモンテのレーベルだと意識するようになったのは、 直接コンタクトを取ってから。 Yo Yo Mundi がピエモンテのグループだと意識するようになったのも、 話題の Strike 映画上映コンサート (関連発言。今年2月前半にまたUKツアーしてました) が Museo Nazionale del Cinema di Torino の後援企画だったから。 Mau Mau にしても Yo Yo Mundi にしてもそうですが、 最近まで alt rock/pop は folk/roots 物と違いトリノ、ピエモンテという地域性を あまり意識して聴いてきたわけではない、というのも確かです。
そういえば、jazz/improv についても、 あまりピエモンテとかそういう単位での地域性を意識して聴いていません。 ちゃんと調べれば、トリノを拠点に活動しているミュージシャンも多そうです。 トリノ、ピエモンテと jazz/improv といったら、というのを御存知の方がいたら、 是非教えて下さい。
トリノ (Torino) の音楽の話のフォローアップ。
トリノというかピエモンテ (Piemonte) の jazz/improv といえば、 Carlo Actis Dato らが 1974年に結成したグループ Art Studio と、彼らが1977年に組織したミュージシャンの組織/レーベルの C.M.C. (Centro Musica Creativa) があるじゃないですかー。ど忘れしてました。 ウェブサイトに載っているバイオグラフィは、 Art Studio のアンソロジー The Complete C.M.C. Sessions (1978-1985; Splasc(h), CDH503/504-2, 1994, 2CD) のライナーノーツのテキストです。このアンソロジーはお薦め。 ライナーノーツは、1970年代のイタリア (Italy) の "avant-garde" な jazz の 街ごとの状況を垣間見るのにも良いテキストです。 イタリアで1970年代に "avant-garde" な jazz が盛んだったのは Giorgio Gaslini らのミラノ (Milano) と Mario Schiano らのローマ (Roma)。 その影響を受けて、1970年代半ばに Art Studio が トリノのシーンを切り開いた、といったところでしょうか。
トリノの alt. rock グループ Mau Mau の Marasma General (Mescal / Columbia, COL503445-2, 2001, 2CD) に、Carlo Actis Dato がゲスト参加しているのですが、 これは、トリノ繋がりですね。
あと、Art Studio 以外のC.M.C. のグループ/ミュージシャンといえば、 Massimo Barbiero 率いる Enten Eller。 Tim Berne を迎えての Melquiades (Splasc(h), CDH805.2, 1999, CD) や Auto Da Fé (Splasc(h), CDH819.2, 2001, CD) も好きです。 しかし、Barbiero 絡みでイチオシの一枚は、Enten Eller ではないですが、 Carlo Actis Dato / Laura Culver Duo + Due, Dune (Splasc(h), H354.2, 1991, CD)。 昔に音盤雑記帖にレビューを書いてますが、 今からすると、folk/roots-influenced jazz/improv に位置付けたくなる一枚です。