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初期の Depeche Mode について

[1971] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Tue Jul 24 1:31:24 2007

この box set をきっかけに、当時の Depeche Mode も聴き直したりしてます。 Vince Clarke の pop な曲がいい Speak & Spell (Mute, STUMM5, 1981, LP)、 シーケンサの細かいフレーズに乗せたナイーブなラブソングも繊細な A Broken Frame (Mute, STUMM9, 1982, LP)、 Synclavier や Emulator を導入して industrial なサウンドで左翼的な歌詞を煽る Construction Time Again (Mute, STUMM13, 1983, LP)、 より骨太な音で性の政治学がらみのラブソングを歌う Some Great Reward (Mute, STUMM19,, 1984, LP)、 どれも甲乙付け難いです。

一番好きな曲は、やっぱり、"Everything Counts (In Larger Amounts)" (Everything Counts, Mute, 12BONG3, 1983, 12″)。 Synclavier を駆使してサウンドを組み立てた最初のシングルで、 金属音サンプリングからなる骨太な industrial ビートもカッコよいのですが、 そのサウンドに煽られるように歌うその歌詞も "Grabbing hands grab all they can / All for themselves after all / It's a competitive world / Everything counts in large amounts" (「奪い取る手が取れるだけ奪い取ってしまう / 結局全て彼らのために / それが競争社会っていうもの / なんでも大規模であることが重要なんだ」)。 (当時の Thatcher 政権下の) 新自由主義的な市場競争社会における 多国籍企業の強欲についての歌だったりします ("a commentary on the perceived greed of multinational corporations" (Moore, X., "Red Rockers Over the Emerald Isle", NME, 17 September 1983); ⇒ en.wikipedia.org)。

Depeche Mode というと、アイドル的な面の強い synth pop のグループという形で 日本では紹介されることが多いですし、実際そういう面もあるとは思いますが、 特に最初期はかなり明確に左翼であることを打ち出していたグループでした。 歌詞はもちろん、ビジュアル面もそうで、ジャケットデザインも 2nd アルバム A Broken Frame は鎌 (sickle)、 3rd アルバム Construction Time Again は槌 (hammer) がコンセプトとなっていて、 2つ併せて☭「槌と鎌」 (hammer & sickle; ⇒ en.wikipedia.org) となるという。 グラフィックなデザインのシングルでみると、より明らかです。

"Everything Counts" がリリースされた1983年というのは、以前にも書きましたが、 The Smiths だけでなく当時日本で「ネオアコ」と呼ばれたようなバンドの多くが、英国において《社会的弱者》に転落していく若者の心情を歌っていた時期でもあります。 Heaven 17 も格差社会をテーマに歌っていた なんてことも書いたことがありましたね。 そういう時代だったのだなぁと感慨深いです。 というか、むしろ今現在、 日本や世界の状況を思い浮かべながらこういった post-punk 期の歌詞を聴いていると、 今の自分からするとナイーブに過ぎて全面的に同意するわけではありませんが、 それでも当時聴いていたときよりもはるかに味わい深く感じたりします。