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Anthony Wilson (Factory Records) 追悼記事

[1980] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Tue Aug 14 2:25:03 2007

週末に重なったこともあり話に乗り遅れた感もありますが、 イギリス (UK) の post-punk の主要なインデペンデント・レーベルだった マンチェスター (Manchester, UK) のレーベル Factory の設立者・オーナー Anthony Wilson が亡くなりました ("Anthony Wilson dies from cancer", BBC News, 2007/8/10)。 享年57。

僕が Factory のレコードを初めて手にしたのは、まだ中学生だった1982年、確か、 Joy DivisionLove Will Tear Us Apart (Factory, FAC23, 1980, 12″) と Closer (Factory, FACT25, 1980, LP)。 歌手が自殺してしまった陰鬱な音楽を演っているグループという評判が気になっていましたし、 レコードジャケットのデザインが LP と 12″ で組になっているのが とてもカッコ良く感じられたので、2枚一緒に買ったように思います。

そして、この1982年から高校卒業までの4年間というのは Rough Trade や Factory、Cherry Red、Mute、4AD といった イギリスの post-punk のインデペンデント・レーベルを通して、 インデペンデント・レーベルの音楽の面白さを覚え、 インデペンデント・レーベルの意義について素朴ながら考えるようになったように思います (関連発言)。 Factory は今に至る自分の音楽趣味の原点にあったレーベルの1つだっただけに、 その創設者・オーナーの死は感慨深いものがあります。

しかし、Rough Trade、Factory、Cherry Red、Mute、4AD の中から 最も大きく影響を受け、思い入れ深いものを1つ選ぶとしたら、迷わず、Rough Trade (関連発言)。 Factory の魅力というのは、自分にとっては少々アンビバレントなものでした。 Factory が好きだった点は、何といっても Peter Saville によるジャケット・デザイン。 D.I.Y.色濃い Rough Trade や Cherry Red のジャケット・デザインにくらべ 洗練されていましたし、 23 Envelope の手掛ける 4AD の装飾性強いデザインに比べて、 スッキリしたデザイン (当時はモダニズムの引用であることは知らなかった) が 好きでした。 そして、そういうジャケットデザインに包まれているということもあってが、 そこに収められた音楽も他にスタイリッシュでクールに感じていました。 Joy Division も陰鬱だけどウェットではない、とか。 その一方で、そのスタイリッシュな印象の裏面になるのですが、 Rough Trade のリリース等に比べての政治性の薄さに、 物足りなさを感じていたのも確かでした。 1980年代前半というのは Thatcher 政権の政策を批判するような歌が 多く歌われていた頃でしたし (関連発言)。

そして、そういった Rough Trade と Factory のスタンスの違いが明確になったのは、 1987年以降の Acid House への対応だったのではないかと思います (関連レビュー, 関連発言)。 そして、自分は Happy Mondays (当時頭角を現した Factory のグループ) などほとんど興味が持てずにいました。 ♪ Burn down the disco / Hung the blessed DJ / Because the music that they constantly play / It says nothing to me about my life 〜 (The Smiths, "Panic") のようにその快楽主義的な傾向を敵視していたわけではなく、 むしろ、単に、金銭的な余裕が無く indie pop を追いかけるのに当時は 精一杯だっただけ、という面もあるのですが。

自分はつくづく「パーティ・ピープル」ではない、と思い知ることになったのは、 むしろ、1990年代も半ばになって、自分の周囲でいわゆる「ネット者クラブイベント」 (関連発言) が盛んに行われるようになってから。 クラブでは reggae や minimal techno のリズムに身体を揺らせて 一晩中淡々と踊り続けるのは好きでしたが、クラブでの社交のようなものが苦手で、 たまにそういったイベントに顔を出しても、結局、ほとんど誰とも話すことなく 壁際で独りで音楽を聴いて、終電前には帰ってしまうという感じでした。 気分は The Smiths, "Panic" というより、 むしろ Billy Bragg の "Lover Town Revisited" というか。

そんなこともあって、2000年代になって 24 Hours Party People (Happy Mondays の曲のタイトルから採られている) のような形で Factory が伝説化されていくことに 自分はどうしても付いていけず、 そういった再評価をかなり冷やかに見ていたのでした。

さて、最後に Factory で最も好きな一枚を挙げるとすると、 やはり Joy Division, Love Will Tear Us Apart でしょうか。 初めて買った Factory のレコードという思い入れもありますし、 ポストパンク・ラブ・ソング となってしまうギリギリ寸前のロマンチックさという感じの "Love Will Tear Us Apart" の歌詞も好きだったりします。