「美肌」の科学

( 今まで話した内容 )


3、真皮について (1)

今度は裏地について話してみましょう。
裏地を「真皮(しんぴ)」と呼ぶことは、先ほど説明しましたね。一言で真皮をイメージして
もらうには、水を含んだスポンジがいいでしょう。スポンジそのものは弾力性のあるゴム質
の樹脂で作られていて、たくさんの泡が入っているようですね。ちょっと見方を変えて、ス
ポンジがコラーゲン線維や弾力線維の糸玉で作られていると思えばいいかも知れません。
レザー製品にあるバックスキンのケバケバはコラーゲン線維のなれの果てなんです。

さて、その真皮の働きは、ズバリ「弾力性を与える」ことです。コラーゲン線維が切れてしまうと、
その部分が折れ曲がりやすくなり、シワができるし、場所によりますが、肌はハリを失い垂れて
しまいます。これがタルミです。

真皮のスポンジの中にはもう一つ重要な成分、ヒアルロン酸などの保水成分が含まれています。
ムコ多糖類と呼ばれる糖類で、500倍もの水分子を抱え込むというほど、水分と仲がいい大きな
分子です。つまり水分を含まない粉の状態のヒアルロン酸10グラムに約5000グラム(5リットル)
の水を加えると、プルンプルンとしたゼリーの状態になって、水のようにサラリと流れる液体には
ならないのです。真皮のスポンジの水と言ってもヒアルロン酸のおかげで、ゼリー状までは固く
ないですが、水が簡単に逃げて無くならないように、何時も同じ量の水を含んでいるようにコント
ロールしているのです。


さて、真皮のスポンジを作っているのは誰でしょう? 
その細胞は「線維芽細胞(せんいがさいぼう)」と呼ばれている細胞で、真皮の中を自由に
泳いでいます。そして、線維のほころびた所を修理しているのです。一番わかりやすいのは
切り傷ができるような怪我をしたときです。怪我が治ると、その跡ができます。切ったところに
線維芽細胞は集まってきて、素早く元通りに切り傷を治してくれます。ちょっと、盛り上がって
傷跡を作るのは、治す方が優先されて、見かけが後回しになったのでしょう。

その他、真皮には毛細血管やリンパ管、神経繊維などたくさんの構造がありますが、これらの
話は、また別の機会にお話しします。これまでで、大まかな皮膚の構造はわかっていただけた
らよろしいのですが、どうでしたでしょう。
魚のシワの話はもう少し先送りですね。まだ水族館に行っていませんので。それと合わせて、
いつか、動物の皮膚についてもお話をしてみたいと思います。

4、真皮について (2)

真皮にはまだ大切な構造があります。それは、ちょうど皮膚の地下を流れる水脈のことです。
皮膚に、栄養と酸素をくまなく届けてくれる大切なパイプラインです。解りますね?血管と
リンパ管です。血管は真皮の深い部分では太く、そこから浅いところにかけて細くこまかく
網の目状に分かれていきます。それが毛細血管です。そして再び太い血管へと集まって
来るのです。酸素と栄養を含んだ鮮血色の血液は動脈から流れ、毛細血管の部分で酸
素や栄養分を放出して、逆に二酸化炭素(いわゆる炭酸ガス)と入れ替わり、静脈へ集ま
ってくるのです。


そもそも、酸素と栄養が皮膚に届かなければ皮膚の細胞は生きていけません。美容のため
にマッサージをして血液の循環を良くしたり、お風呂にゆったりと浸かっていることの良さが
わかりましたでしょうか。そうすれば、肌の色も酸素の多い血液の色を内部から映し出して、
生き生きとした肌色になるのです。そう、適度なアルコールは肌に良いのも、アルコールは
皮膚の毛細血管の流れを良くしてくれるからです。でも、アルコールに敏感で、逆に作用す
る人もいるので、それはちゃんと確かめてから行って下さい。

ということは、真皮の血管の流れを悪くするものは美容上の大敵です。一番気を付けなけれ
ばならないのは、タバコです。タバコのニコチンという成分は真皮の毛細血管を縮めてしま
います。この場合も、人により作用の強さが違うので、隣の人の吸ったタバコの煙で影響を
受ける人から、数本吸ってもそんなに影響を受けない人まで様々です。ヘビースモーカー
の人はかなり耐性が有るようですが、いずれにしても美容上気を付けるなら次第に減らす方
がいいかもしれません。

後は、ストレスと過労も真皮の血行を悪くします。この場合は、他にも様々な影響が重なり合
って起こっているようですので、対処法も簡単ではありません。休養を十分に取ったつもりで
も、解消しないときは、やはりお医者さんに見てもらうことが必要ですね。




5、真皮について (3)

真皮にあるもう一つの水脈、それはリンパ管です。静かなる水脈、乳白色の薄いミルクの
ような液体の流れています。リンパ管は先端に小さな穴があいた細い管が次第に集まって
太くなっていきます。指先に穴があいたゴム手袋?を想像したらいいかも知れません。そこ
には老廃物の溜まったリンパ液(体液)と体を危険から守るリンパ球という細胞が入ってきま
す。リンパ球はそもそも血液に入って体の中を循環しているのですが、毛細血管から抜け出
して体にとって危険な物質や微生物(病原菌)が入ってやしないか見張っているのです。
そして一通り見回りが終わるとリンパ管に入って宿舎に戻ります。この宿舎がリンパ腺なのです。
リンパ腺は皮膚や粘膜の下にあちこちと有ります。よく感染症で腫れるのはこの宿舎まで病
原菌がやって来て必死の攻防戦をしている最中です。ここの砦と言うべきリンパ球の宿舎が
しっかり守ってくれるのでちょっと熱が出ても回復します。


肌は、たくさんの有害な成分や微生物が侵入しやすい部位の一つですから、肌のリンパ球
を初めとしたリンパ液の循環はとても大切です。健康的な肌はこのようなしくみに守られてい
るのです。でも、もっと大切なのは体の最前線である肌の表面(角質層)がしっかりと守って
いることですね。やはり、化粧品は最も健康な肌を守るためにまずはあると考えましょう。
リンパ球の出動で戦争が始まったら、お医者さんの正確な診断により、適切な処置が必要
です。もちろん、症状に会わせた適切な抗生物質や抗ヒスタミン剤などを使うわけですが、
おそれる必要はないのです。大切なのは、使ってみて肌がどのようになったかをできる限り
詳しく先生に伝えることですね。

このように体を守るしくみはリンパ球だけで行っているのではないのです。まだたくさんの体を
守ってくれる白血球のような仲間がいますが、また改めてこの話はいたします。 とりあえず、
肌のしくみで、真皮という部分には、酸素と栄養を運ぶ血液の流れと老廃物や体を守る細胞を
運ぶ2つの大きな水脈があると考えればいいでしょう。肌や体の調子が悪いと血色やムクミの
状態をみるのは、この2つの水脈の状態を見ていることなのです。

次週の更新では、皮下脂肪についてお話しします。


1、肌のしくみ 〜2、表皮の話 へ

6、皮下脂肪の話 (1) 〜 7、皮脂腺の話 (3) へ

8、汗腺の話 〜 10、毛の話 (2) へ

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