Keyvan Chemirani は父 Djamchid Chemirani、弟 Bijan Chemirani と同じく、 zarb もしくは tombak というイラン、ペルシャ (Persia) の伝統的な hand drum の演奏で知られる。 イラン系ながらプロヴァンス (Provence, FR) で育ったこともあり、 伝統的なスタイルだけでなく、 様々なバックグラウンドを持つミュージシャンとの共演も多い。 このアルバムは、北インド、ヒンドゥースターニ (Hindustani) 音楽の hand drum である tabla の奏者 Pandit Anindo Chatterjee と共演した作品だ。
ギリシャ (Greece) の Sokratis Sinopoulos と Stelios Petrakis が参加しており、 単にベルシャ音楽とヒンドゥースターニー音楽の出合いではなく、 東地中海から北インドまでの広がりを感じる。 この作品にも参加している弟 Bijan Chemirani と Petrakis が制作している一連の作品 Eos (L'Empreinte Digitale, ED13147, 2002, CD)、 Akri Tou Dounia (L'Empreinte Digitale, ED13169, 2003, CD)、 Kismet (Buda Musique, 860110, 2005, CD) に連なるような内容の作品だ。
そんな雰囲気を最も楽しめる曲は、10拍子のリズムとトルコ (Turkey) の旋法にのって 妹 Maryam Chemirani が12世紀のペルシャの詩人 Nizami Ganjavi の詩を 歌うオープニングの "Chabi Majnun"。 コブシを効かせずサラっとした Maryam の歌声は、 laouto のような弦楽器の音色もあってか、ギリシャの歌のようにすら聴こえる。 クレジットには無いがおそらく Keyvan 自身が歌っていると思われる "Persian blues" な歌 "Nemindounam" も同様だ。
もちろん、打楽器奏者2人のコ=リーダー作だけあって、そちらも堪能できる。 中でも "Tablacadabra" や "Baradar" が良い。 これらの曲では、複合拍子のリズムを刻む乾いた hand drums の音だけでなく、 バックに流れる通奏低音のような擦弦楽器 (kementché, laouto や lyra) の響きの存在が、音世界に立体感を作り出している。
4年前の Keyvan Chemirani, Le Rythme De La Parole (Accords Croisés, AC104, 2004, CD) は 西アフリカから南インドまでととても広い範囲のミュージシャンと共演した作品だったが、 多様過ぎて印象がぼやけてしまったようにも感じていた。 今回の作品は全体として雰囲気に統一感がある仕上がりだ。
ちなみに Accords Croisés はフランスの world music のレーベルだが、 ディレクションをしているのはイラン系の Saïd Assadi。 ラテン・アメリカの音楽のリリースもあるが、 やはり西アジア〜中央アジア〜南アジアの音楽のリリースが充実している。