~scape は1999年にベルリン (Berlin, DE) で活動を始めた techno / electronica のレーベルとして知られる。 主宰する Stefan Betke (Pole) をはじめ 少々 dubwize で deep な minimal techno がそのレーベルカラーだった。 このレーベルが久々にリリースしたコンピレーションは、 ここ数年興隆している dubstep に焦点を当てたものだ。
Pole 自身による曲 "Alles Klar" が収録されているが、それ以外は ~scape 以外の音源が使われている。 様々なレーベルの音源が使われているが、ある程度文脈の近いミュージシャンが集められているようだ。 2562、Pinch、Peverlist は Bristol (England, UK) のレーベル Tectonic や Punch Drunk を拠点に、 Untold、Ramadanman、Pangaea は Leeds (England, UK) のレーベル Hessle Audio を拠点に 活動している。
選曲は、dubstep 本流というよりも、 音数をミニマルに整理し click 的な音のテクスチャを強調した、 従来の ~scape のレーベルカラーからの連続性を強く感じられるものだ。 ツッかかるようなリズムを刻む 2562, "Channel Two" や カキカキいう音色がミニマルなリズムに乗る Peverelist, "The Gris" が特に良い。 minimal/click にも通じる傾向を持つ dubstep のコンピレーションとしてお薦めだ。
~scape というか Stefan Betke の dubstep への傾倒は、 去年リリースされた久々のアルバム Steingarten の リミックス・アルバム Steingarten Remixes から 僅かながら伺うことができたものだ。
前作 Pole (Mute, STUMM208, 2003) は MCをフィーチャーして hip hop に傾倒したわけだが、 新作 Steingarten は自身のレーベルから。 1998-2000年に KiffSM レーベルからリリースされた三部作 (1 2 3 (~scape, sc54cd, 2008, 3CD) として再発されている) のような 脈動する低音が特徴的な音とも違い、 downtempo で dubwize な click/minimal とでもいう音だ。 淡々とした展開というほどでもなく、 "Winkelstreben" のようなポップなフレーズが乗っている曲もある。 しかし、dubstep 的と感じるほど変則的なリズムの曲は、ここには無い。
続いてリリースされた Steingarten Remixes も、 全体としては click/minimal な techno の文脈、 特に、The Mole (Colin De La Plante)、Ghislain Poirier、Deadbeat (Scott Montieth)、Frivolous (Daniel Gardner) の モントリオール (Montréal, QC, CA) の DJ/producer が目立つものだ。 ちなみに、Gudrun Gut は ex-Malaria で Monika Enterprise 主宰、 Dimbiman (Zip, Thomas Franzmann) と Melchior Productions (Thomas Melchior) は ベルリン (Berlin, DE) のレーベル Perlon を拠点とする DJ/producer、 Mike Huckaby はデトロイト (Detroit, MI, USA) のDJ/producer だ。 しかし、オープニングに、 Skull Disco の Shackleton、Tectonic / Punch Drunk の Peverelist と dubstep のDJ/producer が続いている。そしてそれらが 他の DJ/producer のものと違和感なく並んでいる。
こうして並べて聴くと、 変則的なリズムを持つ Ghislain Poirier や Deadbeat の remix など dubstep かと思うような仕上がりだ。 この2曲と dubstep な Peverelist の remix、あと、 硬質で淡々と重いリズムの The Mole の remix が気に入っている。 全体としても、オリジナルの Steingarten よりビートが重く強くなった分だけ楽しみやすいように思う。
Stefan Betke は1993-1994年に活動した minimal techno のレーベル Basic Channel の cutting engineer として注目されるようになったのだが、 その Basic Channel のアンソロジーCD第2弾がリリースされている。 1995年にリリースされた BCD (Basic Channel, BCD, 1995, CD) 以来13年ぶりとなるリリースだ。
音のテクスチャを強調した deep な minimal techno、と言うと Pole と同様だが、 Pole の新譜と比べて聴くと、そのテクスチャは click 以前のアナログなものに感じられる。 そういう点では制作された時代を感じるように思う。 BCD を当時から今に至るまでそれなりに聴いてきているせいか、 その違いに違和感や新鮮さを覚えたりはしなかったけれども。
BCD リリース当時、そのCDを入手して、 「CDで聴くものでもないかもしれませんが」と Postpunk ML へ振った所、 渋谷のDJ向けレコードショップのポップに「CDで聴いてどうする!?」と書かれていた、 というレスポンスがあったことを思い出す。 しかし、それから13年、インターネット音楽配信時代の今や、 違う意味で「CDで聴いてどうする!?」になっているかもしれない。 BCD-2 のケースに "Buy vinyl!" と書かれているのだが、 CDはおろかアナログ12″も終焉が見えつつあるだけに、 かなり感傷的なメッセージにも感じられた。