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Review: Brenna MacCrimmon: Kulak Misafiri (Events In Small Chambers); Gayda İstanbul: Gayda İstanbul
2009/10/04
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)

Doublemoon や Kalan のようなレーベルが脚光が浴びた2000年代前半のトルコのシーン [関連発言] も、 最近はすっかり落ち着いてしまった。 Doublemoon は今年に入ってリリースが止まってしまった感もある。 しかし、Kalan は、斬新な音という程ではないが、佳作をリリースし続けているので、簡単に紹介。

Brenna MacCrimmon
Kulak Misafiri (Events In Small Chambers)
(Green Goat Music / Kalan, 477, 2009, CD)
1)Evlerine Varagele Usandım 2)Kar Yapar Alçaklare 3)Dolama Dolamayı 4)Oj Ti Mome Ohrigance 5)Yıldız Dağı İşte De Geldim Yanına 6)Şemsiyemin Ucu Kare 7)Getme Gel 8)Kamran Olsam 9)Sabah Sabah Seyredelim Yalıyı 10)Kuşların Geçiş Taksimi 11)Mussels In The Bay 12)Son Geçiş
Musical Direction by Brenna MacCrimmon.

Brenna MacCrimmon は Baba Zula へのゲスト参加や Muammer Ketencoğlu らとのプロジェクト Ayde Mori など イスタンプールのシーンでの活動で知られる、 カナダ・トロント (Toronto, Ontario, CA) 出身の女性歌手だ。 彼女の新作は Kalan からのリリースだが、 トルコではなく北米各地でその地のミュージシャンと録音・制作している。 リズミカルな曲やエフェクトを駆使した曲はほとんど無く、アコースティックで緩い曲が中心。 確かに、最初に聴いた時はつかみ所が無かった。 しかし、folk 的にも感じるゆらめくような歌い口が、聴いているうちにハマった。 “Getme Gel” や “Sabah Sabah Seyredelim Yalıyı” など。 bass も少々 psyche で緩い Baba Zula のような “Dolama Dolamayı” や 英語の歌詞による folky な自作曲 “Mussels In The Bay” も良い。

このCDの興味深い点は、北米を拠点に バルカン、ギリシャ、トルコやアルメニアなどの音楽を演っているミュージシャンたちと 共演していることだ。そういう所から北米のシーンが浮かび上がってくるような興味深さがある。 アメリカ西海岸ベベイエリア (Bay Area) の The ToidsZiyiáÉdessa といったグループのミュージシャン、 ニューヨーク (New York) はイーストヴィレッジ (East Village) の Souren Baronian's Taksim やプルックリン (Brooklyn) を拠点に活動する Matt Moran、Greg Squared、Rueben Radding、Patrick Farrell、Rima Fand、Jodi Hewat など。ちなみに、ブルックリンの彼らは、 Slavic Soul PartyAnsambl MastikaZagnut OrkestarLuminescent Orchestrii といったグループで活動している。 ちなみに、folky な自作曲 “Mussels In The Bay” では、 彼女の地元トロントのミュージシャンを使っている。

ところで、Brenna MacCrimmon の参加していたプロジェクト Ayde Mori のメンバーの一人 Sumru AğiryürüyenIssız (Kalan, 463, 2009, CD) をリリースしている。 こちらはトルコ語の歌詞と時折の楽器の音色にトルコっぽさを感じる所もあるが、 ウィスパーな歌い方も気怠く憂い folk rock という感じの内容。これは、かなり意外だった。

Gayda İstanbul
(Kalan, 474, 2009, CD)
1)Çiçekçi 2)Yaşı Küçük / Ka Merau 3)Oğlan Oğlan 4)Bulgaristan Muhacıları 5)Kağıthane 6)Kavakta Turna Sesi Var 7)Ajde Jano / Karanfil Beyaz 8)İbrahim 9)Buçuk 10)“Kudur” Üzerine Çeşitleme 11)Bum Bum 12)Dinle
Recording director: Ayhan Akkaya, Fehmiye Çelik, Şükrü Tırkış.
Fehmiye Çelik (vocals), Deniz Demirtaş (vocals), Tevfik Çekiç (violin), Şükrü Tırkış (clarinet), Berkant Çelen (electric guitar) Ayhan Akkaya (electric bass, electric guitar, acoustic guitar), Basri Özkaraağaç (darbuka, tef, bendir, hollo, effected percussion), Onur Başkurt (drums); with guests.

Kardeş Türküler の女性歌手 Fehmiye Çelik や bass 奏者 Ayhan Akkaya らによる バルカン (Balkan) の音楽のプロジェクトだ。 Esma Redzepova や Boban Markovic の曲も演奏している。 Kardeş Türküler 同様 Boğaziçi Gösteri Sanatları Topluluğu (BGST) 内のプロジェクト という位置付けだ。 guitar や bass、drums の使い方に、rock 的な要素を強く感じるが、 例えば post-rock 的な同時代的な実験性を感じるものではない。 そうでなければ、もう少し下世話で雑食的なノリがあっても良いのではないかと思う所もある。 それでも、“Çiçekçi” や “Ajde Jano / Karanfil Beyaz” の ような曲は充分楽しめた。

Kalan 関連のミュージシャンの話を、併せて、もう一つ。 Kalan から3作リリースしている女優兼女性歌手 Şevval Sam が 国営宝くじ協会が開催した抽選会でクルド語の歌を歌い、 出席していた来賓の副知事や郡長が退席するという騒動があったという [Radikal 紙記事の翻訳]。 明確に反体制ではなく体制に利用される部分を許容しつつ、 少数民族の言葉の歌を歌うことの政治性に意識的で、絶妙なバランスの上で活動しているという点で、 Kardeş Türküler と同じく、いかにも Kalan のミュージシャンらしいエピソードだ。 Şevval Sam の1作目 Sek (Kalan, 389, 2006, CD) は halk 風。 2作目 Istanbul's Secret (Kalan, 417, 2007, CD) は Ninja Tune レーベルの Up, Bustle & Out! と組んで dubwize に。 3作目 Karadeniz (Kalan, 454, 2008, CD) は 黒海地方の folklore 風。 作品毎に音楽性が違う所も女優らしい。 Radikal紙の記事によると「クルド語でも歌いますし、アルメニア語でも歌います」と言ったとのこと。 いままでのリリースにはそのような歌は含まれていないが、そういう歌もレパートリーに含まれているのだろう。 是非そのような歌を集めた新作をリリースして欲しい。