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Review: Feryal Öney, Bulutlar Geçer
2007/01/30
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
Feryal Öney
(Kalan, CD390, 2006, CD)
1)Gel Yanıma 2)İp Attım 3)Kozanoğlu 4)Aynalı Körük 5)Sarı Yazma 6)Irak Olduk 7)Hata Benim 8)Bulut 9)Yolcu 10)Lâzım Değilsen 11)Giden Ay Tutulur Mu 12)Bey Mail
Procuded by Hasan Saltik. Recorded, Edited, Mixed by Ferhat Güneş.
Feryal Öney (solist), Neşet Ertaş (solist, bağlama), Aysel Yıldırım (metni okuyan), Barış Güney (bağlamalar, perküsyon), Volkan Kaplan (buzuki, bağlama, perdestz bas bağlama), İsmail Altunsaray (elektro bağlama), Makbule Oral (bağlama), Neriman Güneş (keman), Özgür Akgül (keman), Adnan Karaduman (keman), Gündem Yaylı Grubu (yaylılar), Eyüp Hamiş (kaval, kaval-sipsi), Ülker Uncu (akordeon), Ferhat Güneş (klavye), Ertan Tekin (zuma), Aykut Sütoğlu (trompet), Özgür Ay (elektrik gitar, e-bow), Tolgahan Çğulu (elektrik gitar, e-bow), Ayhan Akkaya (akustik gitar, elektrik gitar, bas gitar), Oya Erkaya (bas gitar), Fırat Akın (davul), Selda Öztürk (perküsyon, vokal), Burcu Yıldız (perküsyon, vokal), Diler Özer (perküsyon), İlkem Balseçen (perküsyon), Şirin Özgün (perküsyon), Şenay Karaman (vokal), Vedat Yıldırım (vokal), Deniz Demirtaş (vokal), Fehmiye Çelik (vokal), Burcu Yankın (vokal), Cavit Mürtezaoğlu (vokal).

トルコ (Turkey) に住む様々な民族の folklore (民俗音楽) を 伝統的な楽器を用いつつ同時代的なアレンジで聴かせるグループ Kardeş Türküler の女性歌手 Feryal Öney (フェリヤル・オネイ) が、 Hardasan: Azeri Şarkıları (Güvercin Müzik, no cat.no., 1996, CD) 以来、久々のソロ名義のアルバム Bulutlar Geçer リリースした。 (Kardeş Türküler については2005年に書いた記事が詳しい。) この Bulutlar Geçer は、 folklore を実験的とすら感じるアレンジで大胆に甦らそうという意欲的な作品に仕上っている。 大変にお薦めだ。

Hardasan はアゼリ (Azeri, アゼルバイジャン) の歌をベースにしたアルバムだったが、 今回のアルバムはトルコで遊牧民的な生活をしている少数民族トルクメン (Turkmen) の歌をベースにしたもののようだ。 しかし、自作のものもあるし、民俗音楽の文脈での bağlama 弾き語りの名手 Neşet Ertaş の曲を3曲取り上げ、 そのうち "Hata Benim" では Ertaş も歌っている。

バックのミュージシャンは Kardeş Türküler のメンバーが多く、 歌手 (solist) を全て Öney が取った Kardeş Türküler のアルバム、 と言えるかもしれない。 しかし、アコースティックな音作りを基調とする Kardeş Türküler と違い、 electric な guitar や saz のディストーションや electronica 以降を感じさせる sound effect を大胆に導入している。 確かに、音数を抑えて楽器音のテクスチャを強調しつつ、 音の隙間を生かし立体的・多層的に音を配置するような音作りは Hemâvâz (Kalan, CD263, 2002, CD) や Bahar (Kalan, CD346, 2005, CD) でも聴かれた。 しかし、Bulutlar Geçer はそれをさらに押し進めている。 ちなみに、録音編集ミックスでクレジットされている Ferhat Güneş は、 Bahar でも2曲クレジットされているだけでなく、 1stアルバム Kardeş Türküler (Kalan, CD062, 1997, CD) でもクレジットされている。

沸き上がるように percussion の音を強調したりするところはダブワイズですらあり、 ディストーションの効いた saz や guitar の音色もあって、 Baba Zula (Doublemoon レーベルから リリースしているイスタンブールのサイケデリックな alt-rock グループ。 レビュー) を連想させられる音作りだ。 もしくは、ビート感控えめな Smadj (レビュー 1, 2) だ。 オープニングの "Gel Yanıma" をはじめ、 "Aynalı Körük"、"Irak Olduk"、"Giden Ay Tutulur Mu" など アップテンポの曲で、特にそういう音作りがハマっている。 これにさらにトルコ軍楽を思わせる管のアンサンブルが加わる "Yolcu" も面白い。

こういう自由度の高いバックの音空間の中で、 Öney も旋律やリズムに縛られずに自由に歌っている。 歌詞はあるが、抽象的なヴォイシングに近い展開になることも多い。 Öney の強い声は音処理に負けていない。 ビート感の少ない残響を効かせた音空間の中で詠唱する "Sarı Yazma" や "Bey Mail" など、 ほとんど Dead Can Dance (1980s〜1990s に 4AD レーベルを拠点に活動した world 的要素の強い goth/dream pop グループ) のようだ。そしてそれもカッコいい。

Bulutlar Geçer での Öney の試みは、 ギリシャ (Greece) の Savina Yannatou & Primavera En Salonico (レビュー 1, 2, 3) や コロンビア (Colombia) の Lucía Pulido (レビュー 1, 2, 3) などとも、同時代の同様の試みと言っていいだろう。そういう点でも注目だ。