Static こと Hanno Leichtmann は、 The Valva String Quartet や Forest Jacknson の名義でも知られる ベルリン (Berlin) を拠点に主に techno/electronica の文脈で活動する DJ/producer、 また、jazz/improv の文脈でも David Moss の Denseland の drums 奏者として活動している。
Static 名義でのアルバム3作目は、ICP 界隈での活動で知られる Tobias Delius、 Alexander von Schlippenbach や Rudi Mahall との共演も多い Axel Dörner をはじめ、 Clare Cooper、Sabine Vogel、David Moss、Andreas Neumann、Nicholas Bussmann ら ベルリン界隈の jazz/improv の文脈で活動するミュージシャンを多く迎えた作品だ。
今までのアルバムでも Valerie Trebeljahr (Lali Puna) や Ronald Lippok (Tarwater, To Rococo Rot)、Christof Kurzmann を 歌手としてフィーチャーするなど、 Static の名義では歌物の electronica 的な音作りをしてきている。 今作は、参加ミュージシャンから Jan Jelinek、Andrew Pekler とのトリオ Groupshow [レビュー] に近い音になったかもしれないと予想していた。 しかし、というか、やはり、少々感傷的な歌心を感じる electronica にこの新作も仕上がっている。
今までの作品との違いは、ピキピキと繊細に肌理立った electronics の音ではなく、 管楽器 (trumpet や saxophone, flute) や harp のような楽器のソフトな音色が テクスチャを作っているところだ。 “Stubby Fingers” や “Sister Pain” での minimal music も連想させる管のアンサンブルのゆらめき、 “Sad Rocket” で浮遊する trumpet のフレーズ などが耳を捉える。 浪々とソロを聴かせたり歌ったりしているのではないのだが、 それが散りばめられ loop で反復されていくうちに、そのテクスチャの中から、 少々メランコリックな歌がぼんやり浮かびあがってくるようだ。
jazz/improv のミュージシャンの参加という点でも、この Static の新作は、 Moritz von Oswald Trio [レビュー]、 Vladislav Delay Quartet [レビュー] や Ricardo Villalobos / Max Loderbauer の Re: ECM [レビュー] に非常に近い文脈にある。 こういった一連の音作りの中で歌を扱うことを試みた作品、とも言えるかもしれない。 ちなみに、Vladislav Delay Quartet の Derek Shirley と Lucio Capece、 Static の新作に参加している Axel Dörner、Sabine Vogel、Andreas Neumann、Nicholas Bussmann は Improvised Music from Japan Extra 2006 (Improvised Music from Japan, 2006, 2CD+book) の付録CDへ参加している。 ベルリンこのような jazz/improv シーンも、これらの一連の音作りに寄与しているといえるだろう。