1990年代に folk punk のグループ Forgette Mi Noite で活動し始め、 2000年代以降ソロとして舞台や映画の音楽も手掛けるようになったフランスの 女性シンガー/ソングライター Claire Diterzi の新作。 前作 Rosa La Rouge (2010) は rap/R&B 的な要素に取り組んだ重めの音作りだったが、 一転、この作品はアコースティックな楽器の音色を生かした作品に。 Diterzi らしい electric guitar が切り込むときもあるが、 viola de gambe 等による落ち着いた伴奏が印象的だ。 ちなみに、プロデュースは Bumcello の Vincent Segal [関連レビュー]。数曲で cello も弾いている。
確かに “La Précieuse” のような Baroque music を意識したかのような曲もあるが、 viola da gamba を使っているといってもそれほど Baroque の色は感じない。 国籍不詳な folk の要素の一つに Baroque が加わったといったところか。 全体的な雰囲気は Boucle (2006) の頃に戻ったようで、 それをよりアコースティックにしたよう。 音数は少なく整理されており、Diterzi の少々エキセントリックな歌声や楽器の音色が生かされている。 何か新しい音作りをしているという程ではないが、Diterzi の良さを巧く引き出したプロダクションだ。 ほぼ自作曲なのだが、例外として1曲 The Doors の曲 “Riders On The Storm” を演っている。 この選曲は意外だったが、kalimba を使った落ち着いたアレンジもはまっている。
ちなみに、Diterzi は2010年に Villa Médicis à Rome のレジデンスに ポピュラー音楽のミュージシャンとして初めて選ばれたのだが、 それについて現代音楽の人たちから強い抗議を受けたという。 この新作はレジデンスの成果でもあるのだが、 19世紀フランスで公式のサロンから落選した美術作品を展示した落選展 (Le Salon Des Refusées) —— 後世評価される印象派は公式サロンではなくこちらに展示された —— をタイトルにしているのは皮肉だろうか。 新作のコンセプトは落選展の絵画へのサウンドトラックのようで、 それは Tableau de Chasse (2008) にも通じるものがある。
新作に合わせてライブをやっているようだが、 Le Figaro の Le Live のコーナーで violin と viola de gamba を従えたトリオ編成でのスタジオ・ライブのビデオが公開されている [“Claire Diterzi, à l'aise dans tous les registres”]。 新作から2曲の他、 Boucle からの “Je Me Souviens De La Neige” を Le Salon Des Refusées 風のアレンジで演っている。