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Review: Mudlark & The Royal Shakespeare Company: Such Tweet Sorrow @ Twitter, etc (インターネット・パフォーマンス)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2010/04/14
Twitter (@TheRSC/such-tweet-sorrow), etc
2010/04/11- (5 weeks)
“script” designed by Mudlark's writing team of Tim Wright and Bethan Marlow, under the direction of the Royal Shakespeare Company's Roxana Silbert.
Charlotte Wakefield (Juliet Caplet), James Barrett (Romeo Montague), etc

William Shakespeare の戯曲を主なレパートリーとする伝統あるイギリスの劇団 The Royal Shakespeare Company が、 Romeo and Juliet (『ロミオとジュリエット』) を翻案した Such Tweet Sorrow を インターネット上でマイクロブログ Twitter を使って上演している。 それも、4/11から5週間も使って展開される予定という。 始まったばかりで、まだ全容はわからないが、 Twitter に限らないインターネット上の仮想的な世界を使ったパフォーマンスで、 十分に興味深く面白いものになっている。

この作品の面白い所は、Twitter をはじめとするインターネットのサービスの使い方だ。 ラジオドラマのテキスト化のように 脚本のセリフを tweet として単純に流していくものではない。 原作の舞台は 14世紀イタリア・ヴェローナ (Verona, IT) だが、それを、 現在のイギリスに舞台を置き換え、登場人物をそこで普通に生活している人としている。 そして、そんな彼らが普通にインターネットを使っているとして、 その利用を通して、登場人物像やその向こうにある物語を浮かび上がらせていく。 使っているのは Twitter だけではない。 Juliet は twitpic に写真を投稿したり YouTube に動画を投稿したりする。 Mercuteio も twitpic と 音声投稿サービス AudioBooを使っている。 また、Juliet のクラスメートという設定の Jago Mosca (原作との対応は不明) は Tumblr を使っている。 登場人物以外にも、パフォーマンス進行運営側のアカウントもある (AudioBoo の Vicomtec や twitgoo の Such_Tweet)。

そして、各種サービスの利用は Such Tweet Sorrow の用意したアカウントに閉じていない。 普通のユーザのアカウントと同様に、各登場人物の Twitter のアカウントは 他の登場人物のアカウントだけではなく実在のテレビ局や新聞社のアカウントをフォローしている。 そして、一般のアカウントからの @ を使った言及に、言及し返しさえする。 もちろん、実在のミュージシャンやテレビ俳優に関する話をするだけでなく、 一般のウェブサイトへもリンクするし、 Such Tweet Sorrow が用意した以外の YouTube 動画へ言及しリンクしたりさえする。

登場人物や物語の描写は、投稿された tweet、写真、動画の内容で直接的に描かれるだけではない。 アカウントのユーザ・プロファイル、例えば、フォローしているユーザ、背景の画像、なども使って、 登場人物の特徴付けが行われる。 ブログ、Twitter や動画投稿サイトを利用しているユーザの多くは、 こういった多くの投稿の断片とユーザ・プロファイルから、 他のユーザの人物像や暮らしぶりを想像している。 そんなインターネット上でのユーザ間のコミュニケーションのあり方が、 このパフォーマンスを成り立たせている。

始って数日は、いかにも平凡な女子高生という感じも可愛い Juliet、 ちょっと世を拗ねた兄の Tybalt (原作では甥)、 Juliet の死んだ母親代わりのしっかり者のお姉さんな Jess (原作では乳母)、 この3人のやり取りを通して、Capulet の家族を描いている段階だ。 ちなみに、Juliet の母は10年前に乗っていた Montague の自動車が事故を起こして亡くなった という設定になっている。(原作の Lady Capulet は生きている。) そんな中、もう一方の主役といえる Romeo Montague はまだ Twitter のアカウントすら無い。 親友 Mercutio の投稿する tweet や写真の中からその人物像を描いているともいえるのだが、 むしろ Twitter を使っていないということ自体がその人物像を特徴付けているようにも —— いわゆる「リア充」と —— 感じられる所が、とても面白い。

映画やドラマのプロモーションによく用いられるものだが、 テレビやラジオの番組やウェブサイトなど現実世界の中に仕掛けられたヒントを通して 大きな物語を展開する、代替現実ゲーム (ARG, Alternate Reality Game) というものがある。 Such Tweet Sorrow のパフォーマンスは、 ARG 版 Romeo and Juliet とも言えるだろう。 実際、The Royal Shakespeare Company と共に制作をしている会社 Mudlark は、 ゲーム会社やTV会社と組んでクロス・プラットフォームのキャンペーンやARGなどを制作している会社だ。

しかし、その一方で、登場人物 (を演じる俳優) と現実世界との即興的なインタラクションを見ていると、 ARG を挙げるまでもなく、 むしろ street theatre / théâtre de rue の自然な延長のようにも思える。 このパフォーマンスを見ていて最初に連想したのは、 以前に観たイギリスのカンパニー Avanti Display / Cocoloco の street theater 作品 [レビュー]。 彼らは、街中を舞台に使い、通りがかりの人も巻き込んで、作品を成立させている。 作品設定以外の現実のアカウント等を使った登場人物像や物語の描き方は、 現実世界を見立てに使って物語を描くフランスの l'Éléphant Vert [レビュー] のやり方と共通している。 その演劇的/物語的な仕掛けの仕込み方や期間の長さなどは、 フランスの Royal de Luxe や La Machine も連想させられる [レビュー]。 そんな、street theater の伝統があるからこそ、 The Royal Shakespeare Company もこのような作品にすぐに取り組めたのだろう。 そして、その街中 (street / rue) がインターネットの各種サービスの上に移ったという意味で、 まさに “internet theater”。 そして、Such Tweet Sorrow のパフォーマンスは、 “internet theater” 版 Romeo and Juliet だ。

このパフォーマンスは始ったばかり。 このまま同じような感じで終わってしまうのかもしれない。 もしかしたら、俳優が実際の街の中で street theater のパフォーマンスをして、 Twitter や twitpic でその様子を逐次報告するようなこともあるかもしれない。 この手の各種サービス の使いこなし具合からすると、Ustream 中継すらしかねないと思う程だ。 そういう観点で、今後の展開に期待したい。

[2606] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Sun Apr 18 23:21:53 2010

11日に始まった Such Tweet Sorrow も一週間。「Twitter なんてキモいやつがやるもんだろ」と言っていた 「リア充」 Romeo も Twitter を使い始め、 すっかりハマってるだけでなく、 意外にも Xbox オタクぶりを晒していたりする。 まだ、Romeo と Juliet は出会っていないが、 原作には無かった Capulet 家と Montague 家の密かな関係 (Montague と Lady Capulet の恋愛関係) が Romeo の話から仄めかされていたりする。

このような物語の展開も楽しんでいるが、 Such Tweet Sorrow で自分が最も楽しんでいるのは 物語の展開とは関係しない部分、現実の出来事とのインタラクションだ。 例えば、男性の登場人物は土曜にはみんなサッカーの試合を観てコメントしてるし、 アイスランド噴火による混乱も ネタにしている。 4/15の晩にはイギリス総選挙に向けて党首討論が行われたのだが、 Such Tweet Sorrow の登場人物たちもそのTV番組を観ながら tweet していた。 Laurence Friar は真面目に 「Clegg は親しみやすい、Brown は誠実、Cameron はカリスマ的」 なんてコメントしているが、これもキャラクタに合わせたもの。 Jess は 各党首が "change"、"fair"、もしくは "i believe" と言ったら一杯呑む、と buzzword bingo のようなことをしている。 そんな姉を相手にできず、Juliet は子供っぽく「「党首討論、つまんなーい。おねえちゃん下の部屋でテレビ番組見てるからほっといて部屋に戻ってきた。あー、つまんなくて死にそ」と。 Mercuteio は 「Clegg は女性たちにうけているよね」と。 彼らしく軽薄だなーと思っていたのだが、 これはもっと意味深長だったようだ。 このようなリアルタイムの現実の社会的な出来事を取り込んでいくところは、 ドキュメンタリ演劇 —— 例えば Chris Kondek: Dead Cat Bounce [レビュー] とも共通する。

Mercuteio はちょっと軽薄なキャラクター設定で、 Romeo を呑みに誘っては遊んでいる様子を伝えるだけでなく、 Twitter でも一般のユーザに声をかけまくってナンパしている。 それだけではく、「Romeo に応援の tweet を」と、 観客の参加を促したりする。Twitter の中だけではなく、実際に街に出て、 街頭で一般の人と絡む様子を YouTube へ投稿しさえする。 さながら、Mercuteio は観客弄り担当の道化役といったところだ。 大道芸や street theater でも、道化役のキャラクタが観客の輪の中にいる女性に求愛して回ったり 観客に応援のかけ声を促したりすることは、よく行われる。 そして、Mercuteio の振る舞いはそういった道化の振る舞いを受け継いでいる。 こういう点もこの作品の面白さだ。

今週末の The Observer (The Guardian の日曜版) に “Tweet dreams… our top 50 Twitter feeds for the arts” (2010-04-18) という記事が載っている。 音楽、舞台芸術、テレビと映画、コメディ、書籍の5ジャンル (なぜか美術が無い) について、 お勧めの Twitter のアカウントを紹介する記事なのだが、 そこでも Such Tweet Sorrow を大きく取り上げている。 中でもこの作品をディレクションをしている Roxanna Sibert の言葉を紹介している下りが、 とても興味深い。これは以下のような内容だ (引用者訳)。

これまで、Royal Opera House の Twitterdammerung のような似たようなプロジェクトでは、 観客の発したトゥイートをパフォーマンスの脚本にするためにTwitter を用いてきた。 しかし、Such Tweet Sorrow のディレクターである Roxanna Silbert は、 彼らのプロジェクトはストーリーテリング (物語を語る方法) に革命を起こし得ると、確信している。 「映画、演劇、もしくは小説と Such Tweet Sorrow を比較しようというのは的外れだ。 我々はこのような種類のプロジェクトについて語る新たな語彙を見付けなければならなくなるだろう。」 では、もしシェイクスピアが Twitter を使っていたとしたら、そこから何を作っただろうと、彼女は考えているのだろうか。 「彼は Twitter を気に入っただろうと思う。 Twitter 上で得られるのは俳優、物語、そして観客だけだ。 照明や音響効果や様々な舞台演出の無い世界で私は監督してきている。 だから、実際、これについては、かなり純粋なものがある。」

この記事で、去年の秋に Royal Opera HouseTwitterdammerung という Twitter opera を上演したことを知った。 これについては、The Guardian にはレビューは出なかったようだ。 YouTube にこの様子を紹介する公式の動画が投稿されている。

Such Tweet Sorrow と演劇や小説との比較が全く的外れとは思わないし、 インターネットには舞台とはまた違う純粋さを損なう要素もあるのではないかと思うけれど、 それでも、Such Tweet Sorrow が Twitter をはじめとするインターネット上のSNS/CGMサービスを使った ストーリーテリングの実験だというのは、確かだと思う。

Such Tweet Sorrow は、 ストーリーテリングにおける実験性、 Shakespeare や commedia dell'arte 〜 street theater に連なるような伝統、 そして、そんなことを意識しなくても楽しめるようなARG的な娯楽性、 という3つの特徴を兼ね備えた作品だ。そして、そのバランス感覚が素晴らしい。

[2608] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Sun Apr 25 22:29:22 2010

Such Tweet Sorrow も、今週末で二週間。第二週というか前半の山場とも言える 4月23日金曜の晩 (日本時間では24日の早朝) に開催された Juliet の誕生日パーティで、 ついに、Romeo と Juliet が出会い一目惚れの恋に落ちる、という所まで物語が進んだ。 ちなみに、この23日は William Shakespeare の誕生日/命日でもあり、 それも意識してこの日に誕生日が設定されたのだろう。

パーティの様子は Ustream のようなサービスでストリーミング配信されるかもしれない、 と予想していたのだが、それはなし。 その代わりというわけではないが、SNSサービスである Facebook を使った。 Juliet のアカウントを Facebook に作成し、 誕生日パーティである Masked Ball (仮面舞踏会) を Facebook のイベントとして告知し参加を募った。 一般の人も、Facebook のアカウントがあれば、 自分の仮面の写真を Facebook イベントへ添付して参加することができた。 また Laurence によるDJの音楽は、配信ではなく、音楽SNSである SpotifyLast.fm のプレイリストという形で観客と共有された。 このような観客に参加できるイベントがあり、 観客間のインタラクション (例えば Facebook のイベントのコメント欄) も含めて楽しめるのが、 Such Tweet Sorrow の面白さだ。

次のイベントは、29日木曜の Laurence の主催する卓球大会だ。 こちらで使われているのは、こちらは Facebook ではなく、 Laurence の店のブログ (Wordpress 使用) だ。 Lawrence が twitdoc.com という文書共有サービスを使って 最初に提示したポスター案は酷いデザインだったのだが、 それを見かねた観客が作ったポスターが採用されいている。 これは、パーティのように判り易く観客の参加が可能なイベントを用意して観客を参加を促すだけではなく、 わざとダメなものを示して間接的な観客の参加を促すようなやり方だ。

このように、インタラクティヴな観客参加のイベントといっても、 ある決まった方法を繰り返すわけではない。 使うサービスも様々だし、誘導の仕方も直接も間接の間の様々なレベルで行われる。 このように様々なやり方が試される所も、 Such Tweet Sorrow の面白さだ。 特に、Juliet の私的な誕生日パーティはSNSである Facebook で、 コミュニティ向けの卓球大会はブログで、と、 イベントの性格でサービスを使い分けている所が、興味深い。

Such Tweet Sorrow は 「Romeo and Juliet を Twitter で上演」 「Twitter ドラマ」のように紹介・言及されることが多い。 しかし、Such Tweet Sorrow は、 Twitter がハブとはなっているとはいえ、 様々なSNS/CGMサービスを駆使したマルチプラットフォームのパフォーマンスだ。 それも、劇場の舞台上で上演するように、もしくは、TVドラマを放送するように、 ほぼ一方的に観客に台詞等を流すのではない。 むしろ現実世界・観客とのリアルタイムなインタラクションに重点を置いている。 そういう意味で「Twitter で上演」「Twitter ドラマ」という紹介は、 間違いという程でもなく判り易くはあるけれども、少々矮小化されているようにも感じる。

ちなみに、今までの Such Tweet Sorror の粗筋は、 公式サイトの The story so far で追うことができる。 また、日本の有志が、 今までの Such Tweet Sorrow 関連の tweet を Togetter にまとめている。 自分が把握している限りで、以下のものがある。

また、Such Tweet Sorrow では、 Twitter で様々なハッシュタグが用いられている。 その中で一般の関連 tweet に用いられているのが #suchtweet だ。 しかし、そのハッシュタグが付けられた tweet はほとんどが英語だ。 一方、日本語話者向けに #suchtweet_jp というハッシュタグが用いられている。 こちらのハッシュタグに Such Tweet Sorrow 関連の 日本語による情報が集約されてつつあるので、これを手がかりにするのも良いだろう。

土曜は早朝に起きて、Juliet の誕生日パーティの様子を追いました。 Juliet と Romeo の出会いの瞬間を見届けたい、という気持ちもなかったわけではないですが、 むしろ、ストリーミング等のリアルタイム性の高いサービスを使うかもしれない、と 思ったから、という面も大きかった。 しかし、ストリーミングを駆使されたら、時差がある日本から追うのは厳しいなあ、と。

[2623] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Mon May 17 23:19:07 2010

4月11日に始った Such Tweet Sorrow も 約一ヶ月、5月12日の晩に Romeo と Juliet が自死し、エンディングを迎えた。 Juliet の誕生日パーティの時点までについては 既に書いたので、以降について。

正直に言って、4月23日の Juliet の誕生日パーティの後、 5月3日の Mercuteio と Tybalt の死まで、少々中弛みを感じた。 その一番の理由は Juliet と Romeo の恋仲がツイートの中心となったからだ。 パーティ前の二週間は特に Juliet と Romeo が目立つという程でもなく、 むしろ、Mercuteio や Laurence のような個性的なキャラクターを持つ登場人物による 観客弄りを楽しんでいた。 しかし、Juliet と Romeo はもともと観客弄りするようなキャラクターでは無かったうえ、 もちろん、交わされる愛の言葉に観客が割って入る余地も無い。 物語上、2人の仲が深いものになっていく所を示す必要があるとも思うが、 観客としては傍観するしかないようにも感じた。 また、Twitter はこういうロマンチックなものを読むには合わないように感じてしまった。

さらに、この期間にあった2つのイベント、 London Marathon (4月26日) と Laurence 主催の卓球大会 (4月29日) が、 結局、物語の本筋に影響を与えないような形で終わってしまったのも、残念だった。 物語の本筋とは関係なくても良いから、 総選挙の第一回党首討論の時など、現実の出来事とのインタラクションが面白かっただけに、 London Marathon の際ももっと虚実入り混じった演出をして欲しかったようにも思う。 それが無かったので、これもチャリティのプロダクト・プレースメントの一種ではないか、 と感じてしまった程だ。

Romeo と Juliet が出会うまでの2週間、その後の約10日間の展開の遅さに比べ、 5月3日の Mercuteio と Tybalt の死から5月12日の Romeo と Juliet の死までの 約10日間は毎日のように出来事が発生し、 夜に一日分をまとめ読みするような追い方をしていた自分にとっては、展開が少々早過ぎた。 話が呑み込めないうちにバタバタと人が死んでいくようで、 恋愛の悲劇というよりも、むしろ不条理劇のようにも感じてしまった。 しかし、このようにちゃんと追いきれていなかったながらも、 ソーシャル・メディア上のパフォーマンスと判って観ていて、 死んだといっても役の上だと判っていても、 登場人物が死んでタイムラインからいなくなると、まるで実際に亡くなったような寂しさもあった。 これも、友人のツイートを追うように、毎日彼らのツイートを追っていたからかもしれない。 また、幕を下ろしたり暗転させることによって終わりがくっきり示せないこともあり、 まだ次のツイートがあるかもしれないと後を引きずってしまい、すっきりしなかった。

終わってから振り返ってみると、観客や現実の出来事とのインタラクションが楽しめたのは最初の二週間まで。 最初の二週間で観客の扱いが難しくなったため、以降では控えめにするように方針を変更したのかもしれない。 しかし、Juliet と Romeo が出会うまで二週間というのは、 ストリート・シアターでよく見られる客寄せのパフォーマンスにあたるものだったのかもしれない。 そして、客弄りを積極的に行う Mercuteio や Laurence は、呼び込みの道化だ。 Juliet と Romeo の出会いのシーンが終わた後では物語の世界に入るのは難しいため、 最初の二週間は観客が集まるのを待つ期間としてちょうど良かったように思う。 そして、物語が進まない期間だけに、現実の出来事とのインタラクションも多かったのかもしれない。

物語以外で面白いと思ったのは、 5月12-13日の終演の後、14日にカーテンコールと Q&A が行われたこと。 自分がよく見に行く海外の劇団/ダンスカンパニーの公演では、 終演時のカーテンコールはもちろん、 その後に「アフタートーク」等と称して、 演出家 (コレオグラファー) や俳優 (ダンサー) のトークや観客との質疑応答が行われることが少なくない。 それと同じことをやるという所は、さすが、劇団によるパフォーマンスだ。

ちなみに、約5週間の物語の概要は公式サイトの The story so far で、 登場人物6人のツイートは Live timeline で、 それぞれ読むことができる。 また、日本の観客有志が Togetter を使ってまとめたものもある。 これらについては、nofrills 氏が 「Such Tweet Sorrow 終演 #suchtweet_jp」 (tnfuk [today's news from UK+], 2010-05-14) にまとめている。

[2626] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Mon May 24 23:36:04 2010

Such Tweet Sorrow [レビュー] の終演から10日ほど経ってしまったが、 最後に、この作品に対する反応をいくつか紹介。

Such Tweet Sorrow に対してはもちろん批判もあった。 それについては、開演後二週間程経った4月26日に thejives (スタッフではなくボストン在住の一観客) がその批判に答える形で tumblr にまとめている。 どのようなリアクションがあったのか、興味深い内容だ。

#1-3 は日本ではリアルとかリアリティとか言われる迫真性 (verisimilitude) に係わるものだ。 #1 の「非論理的」というのは、通常なら Twitter ではしない、もしくは、 ありえないようなツイートがあるという点だ。 自分はソーシャル・メディア空間を使ったストリート・シアターのようなものと思っていたし、 舞台芸術によくある表現上の約束事に慣れていたので、気にならなかった。 一般のユーザなら Twitter ではしないような Juliet と Romeo の愛の言葉の交換など、 ソーシャルメディアのパブリックな部分のみで演ずるという制約下での表現上の一つの工夫だと自分は考えていた。 しかし、TVドラマや映画で「リアルさ」を重視する表現に慣れた人には、それを損なう破綻と感じるのかもしれない。 また、このような問題点の他に、破綻していた点として、 #2 として Juliet の誕生日パーティの際に 不自然にも Romeo と Jess が同じ写真を投稿したということを指摘している。 パーティの際は自分もリアルタイムでタイムラインを追っていたが、この事には気付かなかった。

#2-4 (重複した2,3は後者) によると、誕生日パーティの夜に Juliet と Romeo が一夜を共にしたことが問題とされたようだ。 その一方で、Laurence Frier がマリファナ活動家でもあるという設定が特に批判の対象となってないらしき所に、 日本とイギリスにおけるモラルの線引きの違いを感じる。

#6 では、いわゆるプロダクト・プレースメント、劇中に製品を登場させる広告が指摘されている。 父親から Juliet への誕生日プレゼントの製品名を、Juliet がなんどもツイートするということがあったのだ [Juliet の tweets: 1, 2]。 これについて、何度も口にされた製品・サービスがスポンサーのものであったことを 主催者側も認めている。 劇場で上演される演劇作品でもスポンサーが付くが、パンフレットやウェブサイトに広告が載るだけで、 舞台上にプロダクト・プレースメントされたり、セリフで言及されるようなことは無い。 一方で、メジャーな映画やTVドラマではプロダクト・プレースメントは広く行われている。 ソーシャル・メディアを使ったパフォーマンスの場合はどちらが正解とも言い難いけれども、 Juliet のセリフの場合は洗練された (作品中に自然に使われた) ものではなく、興醒めだったのも確かだろう。

さらに、the jives は、終演後の5月14日にツイートやその単語の統計的な情報を用いて、 Such Tweet Sorrow の内容を分析している [tumblr]。 中でも可笑しいのは、誰にツイートしているかの頻度から 「Romeo と Mercuteio の間の恋物語」だと結論付けている所だ。

英国の演劇関連のメディアで Such Tweet Sorrow について精力的に取り上げていたのが、 エジンバラ (Edinburgh, Scotland, UK) の演劇ウェブジン Annals of the Edinburgh Stage。 この中で特に興味深く読めた2本を紹介。

第二週まで終わった時点でのレビュー “Review - Such Tweet Sorrow Week 2” (2010-04-25) は、観客とのインタラクションも含め「観客の視点から見て、とても面白い」という好意的な評価だが、 明らかになった問題点も的確に指摘している。 1点目はこの作品における観客の役割について。 特に2週目までは観客と積極的に絡むことが多かったため、 自分も役を演じたいという要望が2週目の頃に観客の中から出始めていた。 これについては、RSC 側が否定することにより一応の決着を見せた。 もう一点は、thejives も取り上げていた プロダクト・プレースメント の問題だ。

また、Mercuteio と Tybalt が死んだ後に書かれた “Death comes to Twitterland” (2010-05-05) という記事では、ディレクターの Roxanna Silbert のインタビューを元に、制作の裏側に迫っている。 この作品では、セリフはあらかじめ決められておらず、即興ツイートされていた。 そして、ディレクター (監督) とライター (脚本家) の役割は、 特定の時刻に起こるべきイベントのグリッドを作りだすこと、 「スクリプトではなくスケジュール」だったとのこと。 鍵となるイベントは人々が熱心に Twitter をフォローしている時間に設定したが、 学校に行っている間は Juliet はツイートできないが、多くの人は晩や週末はツイートしないということとが、 スケジュール上の問題だったよう。 また、秘密が多くある物語である Romeo And Juliet を 全てをパブリックとするパフォーマンスとしてディレクションすることも難しかったと。 最も印象に残った Silbert の言葉は「(エジンバラ・) フリンジに戻ったよう」。 Juliet の誕生日パーティの小道具から写真、動画、音声などの準備から何から全部自分でやらなくてはならなかったからのようだが。 Such Tweet Sorrow を制作した Royal Shakespeare Company は もちろんエジンバラ・フェスティヴァルのフリンジ・クラスの劇団ではないが、 Such Tweet Sorrow の制作はフリンジに出るような劇団のノリだったよう。 今から思えば、そういったノリも感じたように思うし、それも楽しめた一因だったのかもしれない。

カーテンコールの後に行われた Q&A の内容は、 様式作成サービス formspring.me を使って まとめられ、 現在も質問が受け付けられている。 普通の質問が多いが、笑ったのは、 What's the worst show on TV? という質問に Fox News と答えている所。 しかし、こういう質問が出るということろを見ても、 ソーシャルメディアを使った演劇、というより、 むしろTVショーやTVドラマのような感覚で観ている観客が多かったのだろうかと思う。

特にデティールについて書き漏らしているネタもありますが、 既に充分に長くなっていますし、いつまでも引きずっているわけにもいかないので、 Such Tweet Sorrow の話は、とりあえずこれで終わりとしようかと思います。