向井山 朋子 は主に contemporary classical の文脈で活動する piano 奏者だ。 最近は音楽だけでなく美術の文脈でも作品を作っており、 2009年の越後妻有アートトリエンナーレでは12,000着の白い絹のスリップドレスを使って 迷路のような空間を作り出したインスタレーション作品 wasted を発表。 以降、wasted に始る観客参加型のプロジェクトを含め、 展覧会や演奏会などを継続している。 この演奏会 & 映画上映会『wasted ピアノ&シネマ』も、その1つだ。 越後妻有トリエンナーレのインスタレーションを見逃したこともあり、 そのインスタレーションの雰囲気を垣間みることができれば、と、このイベントへ行った。 イベントの前半約1時間はビデオ投影付きの piano 演奏、休憩を挟んでの後半は映画上映だった。
越後妻有のインスタレーションでは白い迷路の奥深くに経血で染まったドレスが下げられていた。 そして、観に来た女性の観客にインスタレーションで使われた白いドレスを1枚持ち帰り「儀式」をするように依頼していた。 その儀式とは、月経時にそのドレスを着て静かに過ごし経血による印を付けるという。 今回のイベントの前半では、その時の気持ちをメッセージとして集め、それに基づく J. B. Bach: Goldberg Variatios のさらなる変奏を作り、 ビデオ映像や electronics な処理を含む音響と共に piano 演奏した。 少々ベタな techno & VJ があったり、太田 裕美 「木綿のハンカチーフ」 を歌ったりする展開もあったが、 ポップさやキッチュさは控えめ。静謐で少々物憂げな映像と音。
休憩を挟んで後半は、ドキュメンタリー映画 『白い迷路』 [Water Children]。 wasted のインスタレーションを疑似体験できるような映像がもっとあるかと期待した所もあったが、 むしろ、そのインスタレーションから始った女性の観客の「儀式」を通して 明らかになった感情・心情を綴っていくようなドキュメンタリーだった。 むしろ、前半のビデオ中の字幕や演奏中の言葉の元となったネタというか背景が判ったという意味で 興味深く観ることができた。 自分の日常生活の範囲ではまず話を聞く機会など無い 妊娠の不可能性や流産に関する少し憂いを感じる女性の話を聞けたという意味でも興味深かったが、 この映画を観たくらいで女性の月経にまつわる問題について自分の理解が深まったわけでもなかったように思う。
英題 Water Children は「水子」を暗示させるもの。 映画の中で語られる話も、不妊や流産などうまくいかなかった妊娠がメイン。 経血を使ったインスタレーションからそういう方向に話が進んでいたのか、と、少々意外にも感じた。 経血を作品の中でよく登場させる作家というと Pipilotti Rist など思い出すが、 その作品から感じられる楽観性と、かなり対称的。 そんな違いが少々ひっかかったイベントでもあった。