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Review: 『建築×写真 ここのみに在る光』 @ 東京都写真美術館 (写真展); 『愛について アジアン・コンテンポラリー』 @ 東京都写真美術館 (写真展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2018/11/25
Architecture × Photography: A Light Existing Only Here
東京都写真美術館 3階展示室
2018/11/10-2019/1/27 (月休;12/24,1/14開,12/25,1/15休,12/29-1/1休), 10:00-18:00 (木金 -20:00, 1/2,3 11:00-18:00, 1/4 10:00-18:00)
第2章: 渡辺 義雄, 石元 泰博, 原 直久, 奈良原 一高, 宮本 隆司, 北井 一夫, 細江 英公, 柴田 敏雄, 二川 幸夫, 村井 修, 瀧本 幹也

建築をテーマとした中心とした展覧会。 前半 (第1章) は「建築写真の歴史」と題した 主に19世紀のタゲレオタイプから20世紀前半戦間期にかけての海外の写真家による (戦後は Bernt & Hella Becher のみ) コレクションに基づく展示。 こちらは、写真史のおさらいという感も。 後半 (第2章) は「建築写真の多様性」と題して、11人の日本の写真家による建築を捉えた写真からなる企画展。 第1章の写真史的な展示と対照的で、写真家の作家性に着目したのか、 1950年代の写真が最も多く、1960年代から1970年代前半が少なめ、1970年代後半から1980年代が多く、1990年代、2000年代がバッサリ抜けて、2010年代のカラー写真、 という、かなりムラを感じるセレクション。 アレ・ブレ・ボケな写真が無いのは (1960年代から1970年代前半が少なめなため) そんなものかと思いましたが。 『サイトグラフィック』 [鑑賞メモ] のような写真がほとんど無かったのは (1990年代、2000年代がバッサリ抜けているため) は意外でした。

企画の意図は掴みかねましたが、こうして並べて見ると、気づきはあります。 宮本 隆司 『九龍城砦』 (1987) [鑑賞メモ] は、 その正面性のブレのようなものだけでなく、住民の写り込みもあって、形式的というよりドキュメンタリ的なんだな、と。 直前に展示されていた 奈良原 一高 のまだ住民がいた軍艦島を捉えた 『緑なき島ー軍艦島』 (1954-1957) に近い表現に感じられました。 これに近い作風では、天空の迷宮のような街を捉えた 原 直久 『イタリア山岳丘上都市』シリーズが気に入りました。

展示の最後は 柴田 敏雄 と 瀧本 幹也 による2010年代のカラー写真で、 どちらも、そこに住む人への意識を感じさせない抽象画のような画面。 瀧本 幹也 がむしろ壁や窓のテクスチャに意識が行ってるように感じるのとは対照的で、 柴田 敏雄 建築物のテクスチャではなく、構造が作り出す形状への意識を感じます。 好みは 柴田 敏雄 ですが、二人のアプローチの違いも興味深く感じられました。 柴田 敏雄は全てインクジェット・プリントで、滝本 幹也 は印画の方が多いけど、インクジェットもあって、 写真のあり方も変わったのだな、と実感しました。

I know something about love, asian contemporary photography
東京都写真美術館 2階展示室
2018/10/02-2018/11/25 (月休;10/8開,10/9休), 10:00-18:00 (木金 -20:00)
Chen Zhe [陳 哲], Geraldine Kang, Hou Lulu Chur-tzy [侯 淑姿], Kim Insook [金 仁淑], Kim Okuson [金 玉善], Sudo Ayano [須藤 絢乃].

アジア、それも東アジア系の女性作家のみで、ジェンダー、セクシャリティとアイデンティティをテーマにした写真の展覧会。 というより、写真をメディアに使ってジェンダー、セクシャリティとアイデンティティついてドキュメンタリ的というより象徴的に語るナラティヴな現代美術作品、か。 テーマからしてポートレイト的な人物写真がメイン。 そんな作風の作品を集めているので、アイデンティティの題材とするのはそれが必然に感じられがちがけど、 人を撮らず遺品のような物を通して寡黙に語った 石内 都 の「Mother's」や「ひろしま/hiroshima」 [鑑賞メモ] や、 そうと意識させないような静的な風景写真とするコンセプチャルな 米田 知子 [鑑賞メモ] とは対照的なアプローチだな、などと、 この展覧会には無い対照的な作品のことが頭に浮かんでしまった展覧会だった。

地階展示室では『写真新世紀 2018』。 結果としては好みの作品には出会えませんでしたが、定点観測ということで。 去年 [鑑賞メモ] と同様、 かつての私写真のような写真が影を潜め、写真をメディアに使ったコンセプチャルな作品が中心。 暫くはこれがトレンドでしょうか。

1階のホールでは『ポーランド映画祭 2018』。 展覧会を一通り見終わった後、『ポーランドの女性監督たち・短篇3作品』のプログラムを観てみました。 寄宿制の聾唖学校の子供たちの日常を淡々と捉えた Eri Mizutani: Proszę o ciszę 『お願い、静かに』 (2017)、 劇映画のこれからどうなるのだろうと思わせるような意味深長な断片的な場面を繋げ合わせたような Jagoda Szelc: Taki pejzaż 『こんな風景』 (2013) と、 女性の自慰をユーモラスかつ空想的に描いたアニメーション Renata Gąsiorowska: Cipka 『チプカ』 (2016)。 特に強く惹かれる作品には出会えませんでしたが、 明快なストーリーがあるわけではない映像作品を観ながら、かつてはこういう映像作品をイメージフォーラム・フェスティバルでよく観たものだったなあ、と懐古的な気分になりました。