タムラ サトル は1990年代から活動する美術作家だ。 社会的な意味を除いて機械的な動きの持つ迫力・面白さそのものを主に立体作品化してきている。 今回の個展の新作には、2005年以降に主に取り組んできた接点シリーズはなし。 しかし、大きな機械が全力で地味な動きをするという新作の微妙さが可笑しい展覧会だった。
展覧会のタイトルともなった 「小山マシーン」 (2010) は 幅1.2m、高さ2.5m の鉄骨枠の機械2台からなる作品。 それぞれ「小」「山」の文字がチェーンで描かれ、モーターで回転する歯車がそのチェーンを回している。 黒光りする鉄骨や鋼板、機械油で光るチェーンや歯車の醸し出す無骨な雰囲気にもかかわらず、 その動きは歯車の回転とチェーンのそろそろとした動きだけ。その落差が面白い作品だ。
しかし、面白さといえば「モーターヘッドシャーク」。 オレンジ単色の長さ5m近いFRP製のサメの模型は、「スピンクロコダイル」 (1997) の回転させるワニを思わせるものだ。 しかし、取り付けられたモーターは、ワニように上下方向に回転軸を取って 横に大きく回転させるようなものでない。 回転軸にアンバランスなウェイトを付けられサメの頭に固定されたモーターは、 その回転により少々弾性のあるFBR製のサメに震えるような振動を与える。 頭の上でモーターは力一杯回転しているにもかかわらず、サメはその体をぴくぴくと振るわせるだけだ。 大きな体とモーターの回転にもかかわらず、ちょっとユーモラスながら地味な動きしかしない、 オレンジ色の巨大なサメという形状のナンセンスさも良いが、 モーターの回転が無駄な全力感を醸し出しているところが、「小山マシーン」より良く感じられた。
地味な動きで派手な音を立てる作品は少なかったけれども、 そんな中で、轟音を立て続けていたのが 「ブロワの上の落下傘」 (2010)。 日本画や工芸品を展示するのによく用いられるようなガラスの展示ケース内、 ブロワが垂直上向きに設置され、その上を赤白柄の落下傘が吹き上げらて揺らめいている作品だ。 ブロワが轟音を立てて激しく風を吹き付けているにもかかわらず、 その風の勢いで巨大な人形が動き出したり (「Standing Bears Go Back」, 1998)、 布がバタバタと大きくたなびき音を立てる (「バタバタ音をたてる2枚の布」, 2000) こともない。 吹き上げる風の力と重力が釣り合い空中に浮かび上がった状態でふらふらと揺れ動くだけだ。 ブロアの激しい風切り音の全力感と、空中をふらふら漂う落下傘の地味ながらユーモラスな動きは、 その形や構造は大きく異なるけれども、「ハンマーヘッドシャーク」と共通するものだ。
釣り竿のしなりやつり上げる際のぷるぷるとした振動を作品化した 「Catch And Release」 (2010) は、 その竿のしなり作り出すピンとした緊張感、 細かい振動やつり上げられる車輪付き鉄枠のソロソロした動きの地味さ等、他の作品とも共通する。 しかし、つり上げるだけでなくリリースするというモードがあること、 その際の力が抜けてすっと動き出す瞬間に、他の作品に無いユーモアが感じられた。
こんな新作が揃っており、接点シリーズのような派手な火花や光りの揺らめきもなけれは、 それに以前の「スピンクロコダイル」や「Standing Bears Go Back」のような 大きな動物の模型が激しく動くような迫力には無かった、 タムラ サトル の新展開を感じさせるような展覧会だった。 しかし、このような作品が以前に全く無かったわけではない。 むしろ、今回の展覧会を見ていて、じりじりと動く 「電動雪山」 (2002) の面白さがやっと腑に落ちたように感じた。
もちろん、新作だけではない。接点シリーズも「Weight Scrupture」シリーズも 小品を中心に展示されていたし、 「プラスチックモデルは粉々にくだける」 (2000) のようなビデオ作品も観ることができる。 派手に動くものや火花が散るような作品は出ていなかったが、展示スペース的に難しかったのだろうか。 今回の新作が全力で地味な動きをする作品が中心だったのも、 展示空間を意識してのものだったのかもしれない。
ちなみに、今回の展覧会会場となった、小山市立車屋美術館は2009年にオープンしたばかり。 乙女河岸の肥料問屋「車屋」を営んでいた豪商の邸宅を 登録有形文化財「小川家住宅」として一般公開するのにあわせて、 隣接する蔵を改装して美術館にしたものだ。 明治時代に建てられた洋風の要素もある木造の「小川家住宅」もとても興味深い。 車屋美術館での展覧会と合わせて見学することをお薦めしたい。