モロッコ系のルーツを持つベルギーのダンサー/振付家 Sidi Larbi Cherkaoui は、 2022-2023シーズンからスイス Grand Théâtre de Genève (ジュネーヴ大劇場) のバレエ部門芸術監督 (Directeur du Ballet) に就任しているのですが、 劇場付きバレエ団による彼の過去の作品による2023年11月のトリプルビル公演が arte.tv で配信されています (スイス公共放送RTSによる収録)。
前半約1時間は、2014年に GöteborgsOperans Danskompani に振付けた Noetic です。 舞台美術が Antony Gormley ですが、前半は、グレーの舞台に白くフラットな照明、 男性はワイシャツ黒スーツ (前半は上はベストだけ)、女性は膝丈ながら黒のドレスに黒のヒールという姿での抽象ダンス。 ソロやデュオではなくグループで、シンフォニック・バレエのような対称性、階層性や全体のシンクロを避けつつ、 サブグループを離散集合させたり一部をシンクロさせたり。 後半にはいると、幅約5 cm、数mm厚、5〜6 m長の黒光するフレキシブルな棒 (これが Gormley の手がけたものでしょうか) を何本も使い、 床の区画から入り、持ち上げてアーチを作ったり、丸めてサークルにしてそれを操作し組み合わせたり。 ダンサーの操作によりそれらが作り出す形と動きが美しいです。 男女の役割や衣装はコンテンポラリー・ダンス作品にしては若干保守的に感じますが、Cherkaoui らしい物を使った動きの面白さもある、ミニマリスティックな演出の舞台は、大変に好みです。
Noetic は、Cherkaoui が GöteborgsOperans Danskompani へ振付した三部作の第1作で、 その後に Icon (2016) [鑑賞メモ]、 Stoic (2018) [鑑賞メモ] と続きます。 コロナ禍下の2020年に GöteborgsOperans が配信した時に Noetic を見逃していたので、 GöteborgsOperans Danskompani による上演ではないものの、やっと観ることができました。 三部作で通底するテーマや形式が感じられたというわけではありませんでしたが。
後半は20分程度の短編2作。Faun は、 Bullets Russes の Nijinski 振付で有名な L’après midi d'un faune [鑑賞メモ] のリメイクです。 元の Debussey の音楽を異化するように Nitin Sawhney の音楽を挟みつつ、 牧神 (faun) とニンフ (nymph) が直接インタラクションするデュオとしていました。
Boléro は、Ravel の同名曲を使った作品。 照明を落とした暗く黒い舞台に、背景に大きな反射板を背景に置いて、そこに俯瞰で舞台を見た様子を映し出しています。 床も背景も暗いので境界が溶け込んで、宙に浮いて踊っているようでもあり、人の配置・動きも万華鏡を見るよう。 視覚的には面白い舞台なのですが、 舞台美術だけでなくコンセプトとしてもコンセプチャルな作品で知られる現代美術作家の Marina Abramović [鑑賞メモ] がクレジットされていますが Abramović らしいとは感じられず。 Boléro といえば有名な Maurice Béjart 振付のもの [鑑賞メモ] のリメイクかと思いつつ観ましたが、 Béjart 振付の L'Oiseau de feu、Nijinski 振付の L’après midi d'un faune、Jerome Robbins 振付の Afternoon of a Faun [鑑賞メモ] を合わせたもの、というコンセプトのよう。その点についても掴みかねました。