Meredith Monk のドキュメンタリー Monk in Pieces [鑑賞メモ] の日本公開の関連上映として 渋谷ユーロスペースで開催中の『パフォーマンス・アート:身体と空間をめぐる映画祭』 (Performing Art: Film Festival Exploring Body and Space) で、この映画を観てきました。
戦後アメリカのモダンダンスの前衛、Merce Cunningham [1998年日本公演の鑑賞メモ] の最初期の30年間 (1942-72) を、 その時代を代表する14作品の再演映像に、アーカイブ映像、インタビューや手記等を交えて辿るドキュメンタリー映画です。 再演映像は3Dで撮影され、欧米で公開された際は3Dで上映されたようですが、この映画祭では2Dで上映されました。
再現映像は、カラフルな抽象の点描による Robert Rauschenberg の美術を使った Summerplace (1958) や、 Andy Warhol の “Silver Clouds” (銀色の風船) の中で踊る RainForest (1968) などはスタジオ収録でしたが、 歴史的な経緯のある建築物の屋内や屋上、もしくは、公園らしき緑の中で、スティディカムやドローンを駆使して収録されていました。 Neujahrskonzert のTV放送での Ballettfilm や ARTE Concert での dancefilm などでよくある演出ではありますが、 背景込みで美しく撮られていて、3Dであればさらに没入観もありそうで、再演された各作品を3D映像で通しで観たいものでした。 CDボックスセット Music for Merce (New World, 2010) でブックレットの白黒スチル写真と共に音だけ聴いていた作品もいくつかあり、 この音楽にこのようなダンスが付いていたのか、という感慨もありました。 もちろん、音楽に合わせて踊るようなものではなく、音とダンスが付かず離れず共存しているようでしたが。
再演したダンサー14名のうち12名が Merce Cunningham Dance Company 出身とのことで、 映画中に使われたアーカイブ映像と比較しても違和感は無く、その動きの再現はかなり忠実と思われるもの。 本来であれば多くは剥き出しかブラックボックス化された抽象的なスペースで踊られた作品ですが、 作品自体がナラティブではないので、特定の場で演じられてもその抽象性が大きく損なわれるようには感じませんでした。 夜のニューヨークの屋上で演じられた Winterbranch (1964) は流石にドラマチックでしたが、 暴力をテーマとしたという Cunningham の言葉も添えられ、むしろそこち着想したと思われる映像演出に感じられました。
当時の関係者はほぼ亡くなっていることもあると思いますが、 関係者や影響を受けた現在のアーティストへの新たなインタビューや新たな資料発掘で、新事実の提示や新たな評価の文脈を付け加えるような作りではありません。 Cunnihgham と音楽で多くをコラボレーションした John Cage との同性愛的な関係や、美術でコラボレーションした Rauschenberg の1964年の離脱時のやりとりも、創作の転換点として映画中で手紙を引用して触れられますが、 そういう面を Cunningham を取り巻く人間ドラマとして掘り下げることありません。 むしろ、アーカイブ映像や Cunningham 自身の創作ノート/ドローイング Changes: Notes on Choreography から撮られたテキストや図版などで、 再演された当時の代表作の文脈を示すようでした。
『パフォーマンス・アート:身体と空間をめぐる映画祭』 では、他にも以下の映画も観ました。
1950年代末に抽象表現主義に近い文脈で活動を始め、 1960年代から1970年代にかけパフォーマンス・アートの文脈でフェミ二スティックな作風で知られた作家 Carolee Schneemann のドキュメンタリーです。 取り上げられる作品やエピソードが時代を前後することが多く作品制作の展開などは掴みづらいもの。 生前に作られたドキュメンタリーで晩年の生活や創作の様子も多めで、その人となりを浮かび上がらせるようでした。 パフォーマンス・アートの展覧会 Out of Actions - Between Performance and the Object 1949-1979 『アクション ― 行為が芸術になるとき 1949-1979』 (東京都現代美術館, 1998) [鑑賞メモ] でも取り上げられていた作家ですが、こういう作風は資料展示よりドキュメンタリー映画が向いているでしょうか。 1960年代当時のパートナーでもあったアヴァンギャルドの音楽家 James Tenney、実験映画の Stan Brakhage など、当時のアートシーンでの交流が伺える所があり、そこを興味深く観ました。
思えば、1990年代後半は『デ・ジェンダリズム 〜回帰する身体〜』 (世田谷美術館, 1997) での Marina Abramovic [鑑賞メモ] や 北京東村 関連 [鑑賞メモ] など、 アーティスト自身が体を張ったパフォーマンスに現代美術展でそれなりに(時には生で)観る機会がありました。 2000年代以降、いつの間にかなくなりましたが、現代アートのトレンドの変化なのか、それとも単に自分が疎くなっただけでしょうか。
1970年代から2011年まで活動したベルギー出身の映画監督 Chantel Akerman が、 Pina Bausch 率いるコンテンポラリーダンスのカンパニー Tanztheater Wuppertal の1983年欧州ツアーに帯同して撮ったドキュメンタリーです。 1980年代初頭のまだ若い Pina Bauch や Nazareth Panadero など、当時の様子を垣間見る興味深さはありました。 しかし、リハーサルや上演の様子の映像でダンサーの上半身やバストアップを捉えるフレーミングが多用され、全身の動き、足捌きや、舞台全体でのフォーメーションなど観られず、観ていてかなりもどかしく感じました。 むしろ、楽屋やリハーサルの様子からツアー帯同の雰囲気を感じさせるようなドキュメンタリーでしょうか。
2024年にカナダ・トロントの Goethe-Institut Kanada で見つかった、 1925年に Bauhaus Dessau での Oskar Schlemmer の振付を再現した ダンス映画 Man and Mask: Oskar Schlemmer and the Bauhaus Stage (1969) の16mmフィルムに基づき制作された短編ビデオ作品です。 しかし、発見されたフィルムの内容や発見された経緯について映像を通してわかるように描かれているわけでもなければ、 それに着想した演出振付したダンスビデオ作品として美しい仕上がりというわけでもない、半端に実験的な映像でした。
Meredith Monk のドキュメンタリー [鑑賞メモ] を含め今回観た中では、 Cunningham が、ほぼ年代順に話を進めて作品や制作環境の展開も捉えやすく、 創作に関係する人間関係を示すもののプライベートよりも創作にあたっての思考などに焦点を当て、 身体の動きや姿勢や空間での位置どりの面白さを再演映像できっちり見せる作りで、最も良い作りのドキュメンタリーでした。