Les Apostrophés は、南仏アレス (Alès, Gard, Languedoc-Roussillon, FR) を拠点にする cirque のカンパニーだ。 彼らが 三茶 de 大道芸 2007 で上演した作品 Passage Désemboîté (「箱から取り出されたパッセージ (シーン)」という感じの意味だろうか) は、 accordéon 弾きに導かれて半ば回遊しながら、 街のあちこちで寸劇を繰り広げる約1時間半のパフォーマンスだった。 寸劇といってもストーリーやセリフは無く、 マイムやダンスの動きで人物を描き出し場を作り出すというもの。 ジャグリング的なハンドリングも随所に見せるし、マジック的なトリックを使うときもあるが、 技それ自身をみせるというよりも、あくまで動きの流れの中に埋め込まれて、 人物や場面を描く中に自然に織り込まれていた。 技そのものをあまり感じさせない動きの構成の巧さが良かった。
彼らの魅力は、技というより、雰囲気作りの巧さだ。 奇抜な衣裳や音楽で目を引くわけでも、派手な大技を使うわけでも、 掴みから判り易く滑稽な動きをするというわけでもない。 しかし、技を強く意識させない動きの中に豊かな表情や細かい仕種を積み重ね、 街中を自分達の世界に塗り替え、観客を自分達の世界に引き込んでいく。 劇場の中でならまだしも、街中でそれをやってみせる所が素晴らしいと思う。 音楽は accordéon 弾きがその場で生演奏。 Jacques Tati の映画のサウンドトラックを思い出させるような耳に残るメロディで、 演技にぴったり合った演奏も、雰囲気を作り上げに重要な役割りを担っていた。 そして、引き込まれてしまうと、少々のミスも (実際、強風のためジャグリングのミスは多かった) 気にならないどころか演じている世界の一部に感じるし、 ちょっとした表情の変化すらとても可笑しく感じられる。
一ヶ所で展開した一つの寸劇だけでも充分に通用すると思う程だったが、 転々を場所を変えて9箇所でパフォーマンスをするというスタイルも面白かった。 移動にあたって、accordéon 弾きが先導役となっていたのも良い。 もちろん、場所毎に内容も異り、飽きることはない。 1時間半という時間も忘れる程のパフォーマンスだった。
第一幕は、プラザの東面の植え込み近くで、段ボール箱を使ったパフォーマンス。 段ボール箱を台の積み上げていくも、お互いの息が合わずに、 崩れそうになったり、台から落ちそうになったり。 段ボール箱が風で煽られがちなおかげで、ドタバタ度がアップしていた。
第二幕は、パブリックシアターのチケットセンターからプラザに下りる階段の下で、 マジック風にバゲット (フランスパン) をジャケットの袖から1本取り出して、 ジャグリングやマニピュレーションをしながらコミカルなダンス。 時々取り落すのだが、その度にバゲットはパキパキ折れる。 次第にでたらめジャグリングとなり、 折れた部分はどんどん客に与えて、最後は小さな破片に。 それをマジック風に手の中から消してお終い。 ということは、落して折れるのも計算のうちだったのだろう。 その後、シガレットと火付きマッチを投げ咥えるパフォーマンス。 風が強くて苦戦していた。
第三幕は、世田谷線改札前で、モップを使ったパフォーマンス。 4人でモップがけダンスで場を作ってから、モップをデビルスティックにしてのソロ。
第四幕は、プラザに面したファストフード店サブウェイをカフェに見立てて、 屋外の席に座った客に扮する2人とウェイターというかギャルソンに扮した1人が コーヒーカップ等を使ったジャグリングやマニピュレーション。 ギャルソン役は店内でもパフォーマンスをしていた。
第五幕は、プラザから地階のパティオに移動して、階段下で、 大道のアコーディオン弾きと酔っぱらいの親父の絡み。 投げ銭を与えようとボケットをまさぐるうちに、自分の粘った手に振り回されて、 靴が脱げ、ズボンが脱げて、とドタバタのたうち回る、 Chaplin や Keaton などのサイレント・コメディを思わせる展開に。
第六幕は、プラザのひさしの上で、篭と網入りの果物 (様の何か) を使ったジャグリング。 足場が悪いうえに、風もあって、取り落としてひさしの先ぎりぎりまで篭が転がったりと、 微妙にスリリング。
第七幕は、プラザのひさしの下で、杖と本を使ったマニピュレーション。 杖を持つ人と本を持つ人がすれ違いの際に手に持つものを相手に引っかけてしまい、 その絡みを解くうちに持ち物が入れ替わってしまうというもの。
第八幕は、プラザのキャロットタワー寄りの開けた空間を使って、 口だけを使った2人によるバゲットのマニピュレーションとダンス。 バゲットを口で咥えるというだけで、ぐっとシュールでユーモラスに。 最後はバゲットをパキパキに折って客にあげてしまうのだが、 もちろん、それは一口かじってから。
最後の第九幕は、パティオに戻って、第一幕と同じ場所へ。 5人揃って上着を投げ合うジャグリング的なパフォーマンスでお終い。
全九幕どれも甲乙付け難いが、 最も面白かったものを一つ挙げると、第八幕。 バゲットを口に咥えてのダンスだろうか。 全体のシチュエーションがナンセンスというかシュールな上、 細かい表情作りやしぐさもとてもユーモラスで、ツボにはまった。
二日目の21日は、初日から若干場所を変えて上演した。
第一幕の箱を使ったパフォーマンスは、世田谷線改札前で。
第二幕のバゲットのマニピュレーション・ダンスは、初日と同じ場所。 写真は、シガレットと火付きマッチの投げ咥え芸の後、 取り散らかした吸殻とマッチをモップで掃除しはじめたところ。
そのまま、街中をモップがけしながら、第三幕の場所へ移動。
第三幕のモップを使ったデビルスティックとトワリング・ダンスは、 プラザ東側の植え込み前で。
第四幕は昨日と同じ場所。 写真はギャルソンが持ってきたボトル入り水とグラスを使った芸。
第五幕も昨日と同じ場所 (写真は無し)。
第六幕はパティオの噴水前置いた第一幕で使った台の上で。 足場の悪い所でやるという面白さが半減してしまったのは残念。 しかし、ひさしの上は客から見辛かったし、危険そうだったので、仕方ないか。
第七幕も第六幕と同じくパティオの噴水前で。 杖を持つ人は、噴水の池の淵を落ちそうになりながらふらふらと登場。
第八幕は昨日と同じ場所 (写真は無し)。
第八幕から第九幕へ、パティオからプラザへの移動中。 客を先導する accordéon 弾きの背中には、 「皆さん私についてきて!」。
第九幕は昨日と同じ場所。 写真はジャケットをジャグリングよろしく投げ合うパフォーマンス。
日本の大道芸フェスティバルの常連で、 三茶 de 大道芸 は初回から毎回参加している Christian Taguet 率いるフランス (France) のカンパニー Cirque Baroque。 シメの Taguet 自身による綱上でのファイアトーチ・ジャグリング等は例年ほぼ同じですが、 エアリアルな大技は毎回違います。
今年の大技は、男性パフォーマーが肩の上にバランスを取りつつ立てているポールの上で、 女性がポールの先の輪に肩足首をひっかけてエアリアルなパフォーマンス。 女性が腰に付けているのは命綱で、体重は全てポールを介して下の男性が支えています。
三茶 de 大道芸 2000 での写真、 三茶 de 大道芸 2002 での写真、 2003年秋の上野恩賜公園での写真、 三茶 de 大道芸 2003 での写真、 野毛大道芸 2004 での写真、 三茶 de 大道芸 2004 での写真、 三茶 de 大道芸 2005 での写真、 もあります。
2005年以来3年連続の参加で、すっかり常連と化したイギリス (UK) のカンパニー Chipolatas。 今年は去年と同じ内容で新ネタは無しでしたが、 ユーモアも抜群ながら、 相変わらずばっちり決まった音楽の演奏とジャグリングも楽しいパフォーマンスでした。
しかし、毎年来日するのであれば、 Eliza Carthy などの English folk のミュージシャンたちと共演した Chipolatas Cabaret のような公演も持ってきて欲しいものです。
三茶 de 大道芸 2005 での写真と レビュー、 三茶 de 大道芸 2006 での写真 もあります。
Cirque Baroque と共に、初回から毎回参加している、 日本を拠点に活動する 徐領民雑技団 (在日中国雑技芸術団とも)。 写真は 王 益蘭 による足芸です。 シメはやはりお馴染 張 海輪 の椅子倒立 (2003年上野の写真。必見) でした。
三茶 de 大道芸 2000 での写真、 2003年秋の上野恩賜公園での写真、 野毛大道芸 2004 での写真、 三茶 de 大道芸 2004 での写真、 三茶 de 大道芸 2005 での写真、 みなとみらい21大道芸 2006 での写真、 よこはま大道芸 2007 での写真 もあります。