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Review: Villalobos, Fizheuer Zieheuer
2007/03/04
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
(Playhouse, PlayCD021, 2006, CD)
1)Fizheuer Zieheuer 2)Fizbeat
Written and Produced by Ricardo Villalobos

Ricardo Villalobos (aka Villalobos) は、 チリ (Chile) 生まれだがドイツ (Deutschland (Germany)) 育ち、 PlayhousePerlonCocoon Recordings といったフランクフルト (Frankfurt am Main, Hessen, DE) のレーベル (ただし、Perlon は現在はベルリン (Berlin, DE) へ移転) を拠点に活動する house/techno DJ だ。

去年末リリースした Fizheuer Zieheuer は 2曲入りCDシングルだが (12″シングルもリリースされている)、 どちらも35分強のトラックで実質フルアルバムと言ってもいいだろう。 Playhouse レーベルの色である ソフトなテクスチャ感のある音をミニマルに反復させる micro house な音 (関連レビュー) に近い音として楽しめるが、 そこからのズレ具合も面白い作品だ。

タイトル曲の "Fizheuer Zieheuer" では、バルカン (Balkan) 風の brass band の演奏をサンプリングしている。 それも、例えば Electric Gypsyland (レビュー) での remix のように、techno/house/breakbeats のビートの上に brass の演奏を乗せたものではない。 tuba が奏でる軟らかい和音と hand drum (おそらく darbuka) の硬質な音による短いフレーズを反復させて、 それでビートを作り出しているのだ。 特に brass のミニマルな反復の合間に、時折、リードの trumpet のアルベジオ的なソロと それに合わせての tuba の和音が、反復感を損ねない程度にさりげなく差し込まれる。 brass の柔らかい音のテクスチャが micro house 的な感覚を生み出している。

もちろん、ビートは brass や darbuka のサンプリングだけで組み立てられているわけではない。 他の音も硬質な響きを多用し、micro house というより、 Maurizio (Moritz von Ozwald) が Basic Channel 〜 M-Series でリリースしていた minimal techno (関連レビュー 1, 2) や Richie Hawtin, DE9: Closer To The Edit (NovaMute, NOMU90CD, 2001, CD) (レビュー) に近い。そして、そういった音と brass の軟らかい音が絡み合いながら ビートを織りなしていくところが、"Fizheuer Zieheuer" の魅力だ。 "Fizbeat" は brass や darbuka の音を抜いて M-Series のようなトラックになっているが、 それも十分にかっこいい。 曲の始まりや終わりを忘れさせるような35分強という長さも、このような minimal な音作りに合っている。

brass band をネタに使っているというのも面白いが、 それ抜きでも minimal さを充分に楽しめる一枚だ。