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Review: Daniel Barenboim / Staatskapelle Berlin: Alban Berg: Wozzeck; Pierre Boulez / Mahler Chamber Orchestra / Arnold Schoenberg Chor: Leoš Janáček: From The House Of The Dead (Z Mrtvého Domu)
2009/07/19,2009/08/01
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)

この7月の入院中に観たDVDを、備忘録を兼ねて、簡単に紹介。 観た中で最も印象に残ったのは、このDVDでした。

(Warner Classics, 82564-69742-76 (Japanese Version: WPBS-90240), 2007, DVD[NTSC])
Filmed live at Deutsche Staatsoper Berlin in April 1994.
Conductor: Daniel Barenboim.
Staged by Patrice Chéreau.
Staatskapelle Berlin, Chor und Kinderchor der Deutsche Staatsoper Berlin.

Georg Büchner の未完の戯曲 Woyzeck (1879) に基づく Alban Berg によるオペラを収録したDVDです。 Woyzeck に基づく舞台作品としては、 Joseph Nadj によるもの [レビュー]、 Robert Wilson によるもの [レビュー] を観ています。 社会下層の貧困や疎外感を扱ったその戯曲の主題も現代的でとても好きなのですが、 その戯曲に基づく舞台としては最も古典的かつ有名な Berg のオペラを観たことが無かったので、 これを機会にDVDで観ておこうと思ったのでした。

Georg Büchner: Woyzeck の日本語訳は 以下の岩波文庫に収録されています: ビューヒナー 『ヴォイツェク ダントンの死 レンツ』 (岩波文庫, 赤469-1, ISBN4-00-324691-8, 2006) [関連発言]。

そんなわけで、勉強気分で観始めたものの、 そのテンションの高さにぐいぐい引き込まれ、とても面白く観ることができました。 酒場での楽団のようなカバレット的な所も好きですが、 むしろ atonal な歌のもつ緊張感が Woyzeck の主題の社会下層生活の不条理さに合っていました。 しかし、引き込まれたのはむしろ、 映画監督としても知られる Patrice Chéreau による演出による面が大きかったかもしれません。 1925年の舞台演出は表現主義的だったと言われますが、 Chéreau による演出は舞台装置を控えめかつ抽象的にして ライティングを駆使した現代的なもの。 2005-06年に観る機会のあった Berlin の現代演劇、 Berliner Ensemble [レビュー] や Deutsche Theater Berlin [レビュー] に近いものを感じました。 正直に言えば、Nadj や Wilson の Woyzeck 方が好みかな、とは思いますが。 このような舞台であれば、是非生で観てみたいものです。 というか、実は、1997年11月に神奈川県民ホールで日本公演を行っていたのでした [レビュー @ artscape]。 こういうものだったのなら、ちゃんとチェックして、観ておけば良かった……。

Wozzeck を観て Chéreau 演出のオペラが気になってます。 何作品かDVD化されているのですが、その中でも、 舞台の写真を見て 最も気になったこれを観てみました。

Pierre Boulez / Mahler Chamber Orchestra / Arnold Schoenberg Chor
(Deutsche Grammophon, 000440 073 4426 2, 2008, DVD[NTSC/0])
Recording: Grand Theâtre de Provence, Aix-en-Provence, 2007-07-20.
Conductor: Pierre Boulez.
Staged by Patrice Chéreau.
Mahler Chamber Orchestra, Arnold Schoenberg Chor.

このオペラはは Фёдор Достоевский (ヒョードル・ドストエフスキー) の小説 Записки из Мёртвого дома (『死の家の記録』 1862) に基づくもので、1930年に初演されています。 収録されている Boulez 指揮 Chéreau 演出の舞台は、 2007年の Festival d'Aix-en-Provence で初演されたものです。 Wozzeck 程ではありませんでしたが、 十分に面白く観ることができました。

舞台は19世紀のシベリア流刑地ですが、コンクリート打ちっぱなしの舞台は、 むしろ、現代の監獄か収容所という感じ。 Wozzeck ほどミニマムな感じではなく、 頭上から大量の紙塵を落として場面転換するような所など、ギミックも効いていて、 それも悪くありませんでした。

気になったのはカメラワーク。客席からの視点だけではなく、 俳優の視点かそれに近いようなアングルものも多く、それに違和感を覚えました。 あと、場面転換にあたるような所でオーケストラ演奏風景が挿入されるのが興醒めでした。 普段舞台を観ているときは、 静かな舞台を眺めつつ自分の心も新たな場面に切り替えていくわけですが、 そういう所でオーケストラが画面に映ると、 舞台のみの場合と全く異なる異化作用が効いてしまうと思うのですが……。 Wozzeck ではオーケストラを映すことなく、 比較的淡々と舞台を捉えいたのが良かったな、と。 しかし、舞台は生で観たいものです。

ところで、1979年にBoulez 指揮 Chéreau 演出したオペラ Alban Berg: Lulu (1928) の音源は、 それだけ単独でCD化されていますが (Deutsche Grammophon, 000289 463 6172 6, 2000, 3CD)、 アンソロジー The Alban Berg Collection (Deutsche Grammophon, 000289 474 6572 0, 2003, 8CD) にも収録されています。 廉価なので、勢いで、思わず買ってしまいましたよ……。 舞台の映像も、日本でDVD化されたこともあったようですが、画質はいまいちのようです。 頑張って入手するほどではないかな、と……。

ちなみに、Boulez / Chéreau のオペラというのは、 1976-1980年の Beyreuth Festival での Richard Wagner: Der Ring Des Nibelungen (1869-74) が最初で、全曲及びドキュメンタリーが DVD 8枚組でリリースされています (Deutsche Grammophon, 000440 073 4057 8, 2005, 8DVD)

また、Wozzeck と同じ Barenboim / Chéreau のものでは、 2007年の Teatre alla Scala での Richard Wagner: Tristan Und Isolde (1865) が DVD 3 枚組でリリースされています (Virgin Classics, 50999 5193159 9, 2008, 3DVD)。 しかし、Tristan Und Isolde なら、 1995年の Bayreuth Festival での Barenboim 指揮 Heiner Müller 演出によるもの (Deutsche Grammophon, 000440 073 4439 2, 2008, 2DVD) の方が気になります。

しかし、Wozzeck のDVDで、オペラの面白さに目覚めてしまったかも。 といっても、Wagner のオペラは長尺なので、少々腰が引けますが。ま、まとまった時間が取れるような時があったら、でしょうか。 今までオペラ公演の情報は全くチェックしていなかったのですが、 こういったオペラの公演は、日本でも、それなりにあるのでしょうか。 こういうオペラなら生で観てみたいなあ。 From The House Of The Dead の日本公演が実現したら、是非観に行きたいものです。

(以上、談話室への発言として書かれたものの抜粋です。)