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Review: Michiyo Yagi Trio with Hugues Vincent & Nori Tanaka (live) @ Pit Inn, Shinjuku, Tokyo
2009/09/06
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
Michiyo Yagi Trio with Hugues Vincent & Nori Tanaka
『弦動力!』
Pit Inn, 新宿
2009/09/05, 20:00-22:00
八木 美知依 [Michiyo Yagi] (20-string koto, 17-string koto, vocals), 本田 珠也 [Tamaya Honda] (drums), Todd Nicholson (bass); Hugues Vincent (cello, electronics), 田中 徳崇 [Nori Tanaka (Noritaka Tanaka)] (drums).

Ingebrigt Håker Flaten と Paal Nilssen-Love とのトリオや Peter Brötzmann のセッションなど、 free jazz/improv のミュージシャンとの共演を重ねる箏奏者 八木 美知依 の新グループのライブだ。 トリオとしては JAZZ ART せんがわ 2009 に出演しているが、この時は見逃している。 今回は2人のゲストを迎えた編成だった。 ツインドラムだし、また手数と爆音が炸裂する演奏だろう、と聴く前は予想していた。 しかし、良い意味で裏切られた。 ドライブするビートに華やかめの 箏 の演奏が楽しめたライブだった。

オープニングは、trio の編成で、 『殺しの烙印』 (鈴木 清順 監督) のテーマ曲「殺しのブルース」。 といっても、冒頭の謡い入りのテーマの提示部 (サイドメン2人による語り入り!) からすぐに、 リズム隊が複合拍子 (確か5拍子系) のドライブするビートを繰り出し始める。 八木は 二十弦箏 を爪を付けてフレーズを弾き、手数は多くなれど、 アウトな弾き方はほとんどせずに、華やかな 箏 の音色を生かしたもの。 歌うようにフレーズを繰り出す Nicholson のベースも良い。 1990年代前半の Myra Melford Trio [レビュー] の piano を 箏 に置き換えたもののよう。 この演奏で、ぐっと引き込まれたライヴだった。

続く “Seraphic Light” (John Coltrane) では、 ゲストを加えて、ツインドラムも炸裂し、 Hugues Vincent の cello も saxophone の絶叫のような爆音 free jazz。 これもかっこ良かったが、やっぱり、こんな調子かなと思ったら、 続く曲が、やはりドライヴする複合拍子 (確か7拍子系) の曲。 後半にももう一曲5拍子系の曲があったのだが、 このときは Nicholson が bass 弓弾きで歌い Vincent がビチカートでベースを取るような始まりから、 途中でその役割を入れ替える所も面白かった。 単にドライブするビードの曲で押すだけでなく、 おなじみの歌 (「Song Of The Steppes」) やラストの drums 抜きの trio の曲も入れ、 メリハリを付けていた。

全体としても、 Flaten / Nilssen-Love とのトリオや Peter Brötzmann のセッションなどでよく見られた 鉢や弓などを多用した激しい演奏はそれほどなく、 むしろ爪弾く 箏 の華やか音色 (特に二十弦箏) が生かされていたように感じた。 二十弦箏は新ピックアップ・マウントのお披露目でもあったようだが、 その音も良かったのかもしれない。 「殺しのブルース」や映画『蜘蛛巣城』 (黒沢 明 監督) に基づくという新曲「十六夜」など、 硬派な雰囲気の古き良き日本映画というのがこのグループのコンセプトなのだろうか。

サイドメンでは Todd Nicholson の激しい中にも歌心を残したベースが気持ちよかった。 Billy Bang のアルバムで聴いたことがあったはずだし、 先日の Alan Silva のライヴでも観ているが、正直、さほど印象に残っていなかった。 しかし、こういう bass なら piano trio のような編成でも映えそうだ。 もっと聴いてみたい演奏だ。 本田 と 田中 のツインドラムは、そのスタイルの違いが際立つというより、 むしろ複合拍子を刻むような展開での息の合い方が印象に残った。 息の合ったビートの中でシンバルやハイハット、タムのような高音の音が立体的に左右に飛び交うように聴こえる時あって、 それがとても面白く感じた。