最近は Forabandit [レビュー] など Bijan Chemirani らとの汎地中海的な音楽プロジェクトでの活動が目立つ 南仏オクシタニアはマルセイユ (Marseille, FR) の Sam Karpienia。 1990年代末から2000年代半ばまで活動していた彼のグループ Dupain が、 前作 Les Vivants (Corida / Bleu Electric / Label Bleu, LBL4012, 2005, CD) [レビュー] から10年ぶりに新作をリリース。 Sam Karpienia 以外のメンバーは全面的に入れ替わっており、彼のソロプロジェクトとして再出発したというのに近いのかもしれない。
Sam Karpiena の歌唱が Noir Désir などにも似て alt rock 的だとは思っていたが、 一連の汎地中海的な音楽プロジェクトに馴染んだ耳でここに戻ってくると、 hand drum (zarb や darbuka) や flame drum を使わず、 重い bass と drums でビートが刻まれる Dupain は alt rock 的な音だ。 Les Vivants をはじめ過去の作品と聞き比べても、 rock 的なリズムを採っているように聴こえる。 テンション高い疾走感のある曲より、音数を整理したダウンテンポな曲が目立ち、重く迫るようなアルバムだ。
南仏オクシタニアのトルバドゥール (troubadour) とトルコ・アナトリアのアシク (aşık) という 2つの吟遊詩人の伝統に橋をかけるプロジェクト Forabandit も、 一時的なプロジェクトかと思いきや、活動が続いて2作目をリリース。 前作は12世紀 (Jaufré Rudel) から20世紀まで様々な時代の詩人の詩を取り上げ、曲も伝統的なものを多く取り上げていた。 しかし、この新作は全曲3人による自作曲だ。 ゆったりしたリズムに詠唱が乗る展開が多かった前作に比べ、 mandocello や bağlama の掻き鳴らしもアップテンポに畳み掛けるようなテンションの曲が増えている。 “Nemidoonem” や “Monde Marcha” のような Sam Karpienia と Ulaş Özdemir の歌声も掛け合うような展開の曲が、特に良い。
Sam Karpienia とは1990年代に Gacha Empega [レビュー] という ポリフォニーのグループをやっていた Manu Théron も新作をリリースしている。 L'Hijâz'Car [レビュー] の Grégory Dargent、 Trio Joubran 等と活動する Youssef Hbeich とのトリオ編成による 12世紀から13世紀にかけてのトゥルバドールの詩の1ジャンル sirventes を主に取り上げるプロジェクトだ (アルバム収録の半数が sirventes)。 sirventes は兵士 (sirvent [serviceman]) の立場から歌われた風刺的な歌とのことで、これをプロテストソングの伝統に位置付けている。 mandocello や bağlama ではなく oud という違いはあるももの、編成もコンセプトも Forabandit にも似ている。 しかし、かき鳴らす弦の音で空間を埋めがちな Forabandit に比べ、 Sirventes は “La cieutat del fous” や “Ar mi puesc leu lauzar d'Amor” 畳み掛けるような展開の中にもきっちり音の隙間を作って空間に音を散りばめるような音作り。 これも Accords Croisés のプロダクション [関連レビュー] のおかげかもしれないが。 キレのいい音演奏もかっこよいアルバムだ。