社会的文脈・意味を極力排して機械的な動きの持つ迫力そのものを作品化してきた タムラサトル の新シリーズ「接点」の展覧会だ。 このシリーズを観るのは去年のギャラリーQでの展覧会 (レビュー) に続いて2度目。 前回の展覧会に感じた作品の面白さはそのままに、 TSCA Kashiwa の広く高さもある空間を生かし、 スケール感もより楽しめる良い展覧会だった。
「接点」シリーズの面白さは、 不安定な摺動接点が発する接点火花と、 摂動接点が作り出す不安定な電流による白熱灯のゆらめきだ。 ギャラリーQでの展覧会にあった 『10の白熱灯と7本の蛍光灯のための接点』 (2005) のような蛍光灯やブロアも使った作品が姿を消し、 ほぼ摺動接点と白熱灯のみの展示といっていいものになっていた。 その焦点の絞りこみもよかったと思う。
そして、その一方で展覧会で加えられた要素が、様々なスケール、 特に大スケールでの作品展開だ。 ギャラリー入ってすぐの2階吹抜けの空間では、 天井から吊るされた鉄球の下に付けられた細い金属棒と その下の床に置かれた直径2m近い円形の鉄板の間に100Vが印加されており、 鉄球を揺らすことにより接点が不安定に摺れ合い火花が散り、 床に扇状に置かれた白熱灯がゆらめく。 また、2階には、直径2mはあろう回転する摺動接点と 2mくらいの直線状に並べられた18個の白熱灯からなる作品もあったし、 ギャラリーQ に展示されていた「14の白熱灯のための接点」も 5〜10m はあろう長さに延長された作品になっていた。 作品のスケールが人間が動き回るスケールと近くなったことにより、 動きや接点火花や白熱灯の揺らめきの体感の具合がぐっと上がったように思う。 天井から鉄球を吊るした作品など、 鉄球が揺れ火花を散るのを見るのは、単純だが面白くて飽きない。 揺らすための棒を借りて、暫くの間、鉄球を揺らして遊ばせてもらってしまった。
これらの大きな作品のマケットとも言えるような、 ほぼ同じ構造でテーブルの上に乗るくらいの大きさで作られた作品も展示されていた。 チリチリと小さく飛ぶ火花や1個の白熱灯の揺らめきも、体感的といえばそうだが、 箱庭的というか、線香花火的というか、大きな作品とはかなり違う。 接点の動きや接点火花の面白さといってもスケールによって変わってくる、 その変化も楽しめる展覧会だった。 ギャラリーQでもこのような小品は展示されていたが、 今回の展覧会では同じような構造の作品が並置されていたことにより、 作品のスケールと受ける印象の違いがより意識されたように思う。 そして、この「接点」シリーズの良さの一つは、 このスケールに対する柔軟性だろう。 今後、このスケールに対する柔軟性を生かした展開に期待したい。
ちなみに、過去のレビュー: 『ワニガマワルンデス』 (1997)、 タムラ サトル 展 (現代美術製作所, 1998)、 タムラ サトル 展 (Oregon Moon Gallery, 1999)、 『電動雪山』 (2000)、 『Weight Scruptures 2』 (2005)、 『14の白熱灯のための接点』 (2006)。
片道1時間半かけて柏まで足を伸ばしたのは、 昔から好きな作家の展覧会ということもあるが、 元 SCAI Bathhouse の人が独立して作ったギャラリーということで ちょっと気になっていたということもあった。 これを機会にどんなギャラリーなのかチェックしておこう、と。 住宅街の中の2階建ての木造倉庫を改造したスペースで、 吹抜けを使えば高さのある作品も展示できるし、 2階の展示スペースもかなり余裕があるギャラリーだった。 柏という場所は、自分にとっては「それだけのためにわざわざ行く」という 感が強くなってしまうが、時々は足を伸ばしていいかなと思うギャラリーだった。