20世紀後半に興隆した韓国の抽象絵画のグループ展。 郭 仁植 や 李 禹煥 などはコレクション展で観る機会も多く、実際、収蔵作品も多く展示されていた。 平面の抽象画の展覧会というのは、この美術館らしい展覧会かもしれない。 といっても、これだけ多くの作家の作品を一度にまとめて観るのは初めて。 一つの流派があるように感じていたのだが、 世代からして1910年代に生まれて戦前から活動する世代から1960年代生まれの世代まで幅広く、 スタイルやバックグラウンドに多様性があることに気づかされた展覧会だった。
一番馴染みがある作家は日本を拠点に活動する 李 禹煥 [鑑賞メモ 1, 2] だが、 こうして見ると、かなり異色。 色使いを押さえる代わりにマチエールを強調した凸凹した画面の作品が多い中、ストロークはあってものっぺりとした画面。 岩絵具、膠という素材もあってか日本画にも通じるものを感じた。 やはり、印象に残ったのは、韓紙などの素材に向かって特殊なマチエールの作品。 水につけて溶かした韓紙で描いたかのような 丁 昌燮、 色を使わずに韓紙に穴を開けたり切り貼りして画面を構成した 権 寧禹 や 単色で韓紙で幾何的な凹凸で描いたかのような 朴 栖甫 など。 韓紙以外でも、アクリル絵具を乾かした後でキャンバスを折曲げ生じた不規則な格子状のひびで描いたかのような 鄭 相和、 粗い麻布のキャンバスに油絵具のマチエールだけででなく強く描いて布の裏に抜けた絵具も作品にした 河 鍾賢 が面白かった。
この手の作風は、書のような東洋からの影響はもちろん、 欧米からとしては米国の抽象表現主義やカラーフィールドの絵画の影響だろうと漠然と思っていたし、 尹 亨根 などぼんやり色面で描くようなスタイルだけでなく三幅対 (triptych) を思わせる展示の仕方も含めて Mark Rothko [鑑賞メモ] を思わせるものがあった。 しかし、作家解説を読んでいると、むしろフランスのアンフォルメル [鑑賞メモ] の影響が大きかったのかな、と。 実際、徐 世鈺 や初期の 朴 栖甫 など Henri Michaux を連想させられもした。
マルチメディアを駆使したり社会的なプロジェクトを作品化するような最近の現代美術の潮流から外れるせいか、観客は疎らで、 単色の抽象絵画という作風もあって、適度な緊張感を保ちつつも落ち着いた雰囲気で展覧会を楽しむことができた。 国際現代美術展 [鑑賞メモ 1, 2] のどぎつさも悪くはないけど、 静かに抑えた雰囲気の展覧会の良さを実感した。