1960年代末、Minimal Art から Conceptual Art への流れの拠点の一つに ドイツ・ノルトライン=ヴェストファーレン州デュッセルドルフの Fischer Gallery がありました。 そのギャラリーの Dorothee & Konrad Fischer 夫妻が Kunstsammlung Nordrein-Westfalen (ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館) へ 寄付したコレクションに基づく展覧会です。 1967年のオープンから約10年間 (一部例外はありますが) の作品やギャラリーと作家の間の手紙、葉書などの資料が展示されていました。 Minimal Art の後に Conceptual Art が来たということは知っていたつもりですし、 この展覧会の出展作家の中には、 美術館のコレクション展示の中でだけでなく、 美術館レベルの個展を観たこともある作家もそれなりにいました。 しかし、1967年からの10年に焦点を絞っていることもあり、 Minimal Art の中から Conceptual な作品が立ち上がって行く様を追体験するような興味深さのあった展覧会でした。
特に良かったのが、最初の方の Carl Andre や Sol LeWitt に関する展示。 Minimal Art の作品を観ているとその単純な形状から物そのものの質感などに惹かれがちなのですが、 作家がギャラリーに出した展示の指示などを通して、展示されている作品は実世界での仮の姿で、 その向こうにある物に依存しない純粋な幾何学的形状に作品の本質が見ていたことを浮かび上がらせていました。 そんな資料と合わせて改めて Sol LeWitt の Structure (1, 2, 3, 4, 5 as a square) (1978-90) や Carl Andre の Cloud & Crystal / Lead Boday Grief Song (1996) を観ると、なるほどそうだ、と。 特に、Sol LeWitt の作品は正方形は枠のみで示されており質感的なフェチシズムを避けようという意図すら感じられました。 そして、そこから Conceptual Art は直ぐだということにも気づかされました。 このように、資料と具体的な作品を併せ観ながら、 Minimal Art から Conceptual Art への理路の一つをそれなりの実感を持って追うことができたのが、 この展覧会の収穫でした。
以降の展示は、post-Minimal としての Conceptual Art の方向性の幅、多様性を観るようでもありました。 直前に観た 久保田 成子 展 [鑑賞メモ] の Fluxus や Sonic Arts Union の資料ほど 直接的にカウンターカルチャーの影響が見えるわけではなく、 Minimal Arts からの流れもあってビジュアル的にもシンプルが作品が中心でしたが、 時代は1967年以降ということで、Marcel Broodthaers をはじめ、やはりコンセプトの中にカウンターカルチャーの影響を少なからず感じもしました。
Gerhard Richter [鑑賞メモ]、 Daniel Buren [鑑賞メモ]、 Richard Long [鑑賞メモ] や Bernd & Hilla Becher など好きな作家の作品もありましたが、 今まで特に気に留めてなかった作家の中では Jan Dibbets の写真を使った作品の良さに気付かされました。 Perspective Corrections シリーズのような遠近法を逆手にとったトリッキーな写真や、 パノラマ的に写真をつなぎ合わせた写真など、構造へ意識を向けた写真作品は、 Bernd & Hilla Becher の写真よりも、 Sol LeWitt ような Conceptual Art の先駆体となった Minimal Art の作品と 畠山 直哉 [鑑賞メモ] や Andreas Gursky [鑑賞メモ] などの コンセプチャルな現代写真を繋ぐもののように感じられました。