イギリス (UK) の音楽雑誌 The Wire の名物連載といえば、 タイトルやアーティストを伏せて曲を聴かせてコメントさせるインタビュー記事 "Invisible Jukebox" ですが、 最新号 (Issue 277, March 2007) は、 フランス (France) のアルジェリア系 (Algerian) の歌手 Rachid Taha です (関連レビュー 1, 2, 3, 4, 5)。 聞き手はフランスの jazz/improv シーンで活動する piano 奏者 Dan Warburton です。 これがまたとても面白かったので、Taha の発言の抄訳を交えて紹介。
1曲目は Marcel Mouloudji, "Un Jour Tu Verras" (Auto-Portrait, Universal, 1954)。 これは、カビール系 (Kabyle) の歌手でフランスで初めて検閲された歌手だと、当てています。 しかし、フランスで初めての free jazz のレコード François Tusques, Free Jazz を制作した人だということは 知らなかったようでした。
2曲目は Archie Shepp, "Brotherhood At Ketchaoua" (Live At The Pan African Festival, BYG Actuel, 1969)。 Shepp と gnawa のグループとの共演盤ですが、これも当ててます。 「gnawa は今ではとてもポピュラーになったけど、 その全く民族音楽的で観光的な面は気に障る。 プチブルジョワ的というかインテリ・ブルジョワ的な面がある。 エッサウーリア (Essaouria) へ行ってそれをみつけてこられるような 労働者階級出身の子なんていないよ」と。
3曲目は Dashiell Heyayat, "Chrysler" (Obsolete, Shandar, 1971)。 判らなくて「モロッコ系 (Moroccan) が参加している?」とコメントしています。 Pip Pyle と Daevid Allen が参加していると教えられて、 「ああ、なるほど Gong っぽいと思ったんだ。あと、Magma も思い出させるね」と。
4曲目は Jean-Claude Vannier, "L'Enfant Au Royaume Des Mouches" (L'Enfant Assassin Des Mouches, Suzelle, 1972)。 判らなくて名前を教えられて、「Serge Gainsbourg のアレンジをしてた人だ」と。 Gainsbourg は重要だったかと訊ねられて曰く 「彼に関して好きな点は……、Bowie みたいな所かな、 これをちょっと取ってきて、あれをちょっと取ってきて、という」。
5曲目は Steve Hillage, "The Dervish Riff" (Live Herald, Virgin, 1979)。 もちろん当てています。 Carte De Séjour 時代の1982年からプロデューサとしてつきあいがあるわけですが、 「彼は Oum Kalsoum のカヴァー ("The Glorious Om Riff", Green, 1978) も演っていた。僕達がどこから来たかも知っていたので、 北アフリカの音楽について説明する必要も無かった」と。
6曲目は The Clash, "Brand New Cadillac" (London Calling, CBS, 1979)。 これももちろん当てています。これは punk かと訊ねられて、 「いや、punk じゃなくて rock'n'roll だ。 Joe Strummer はむしろ Elvis や Gene Vincent に近い rocker だ」と。 「自分にとって punk はファッションのパレードだった。 Malcolm McLaren のようなネオ=ブルジョアのイギリス人が考案した ラジオを操っての詐欺みたいなものだ」と、punk については否定的です。 「フランスの punk はプチブルジョワ的だった。 イギリスへ行くとか、そこで何が起きてるのか知るには、金が必要だった。 フランスの労働者階級の子や移民の子は soul music に入れ込んでたよ」とも。
7曲目は Charles Trenet, "Un Air Qui Vient De Chez Nous" (La Mer, EMI, 1945)。もちろん当ててます。 どうして Carte De Séjour で "Douce France" をカヴァーしたのか訊ねられて、 「"Douce France" は1942年に書かれた政治的な歌だ。 これをアラブ人のグループがカバーするというのは皮肉的かなと」。 また、パリの大きなレコード店では Taha のレコードは world music 扱いで variété Française 扱いでも rock Française 扱いでも無いが、それをどう思うかと訊ねられて、 特に不満を言うという感じでもなく、 「レコードが店に着いたら、コンピュータでは それが何のジャンルになるのか決めなくてはいけないんだ。 店員は "Rachid Taha" という名前を見て、箱を開けさえせずに、 自動的に world music に分類してるんじゃないかな」と。
8曲目は Cheb Khaled & Safy Boutella, "Chebba" (Kutche, Sony, 1988)。 これはプロダクションに賛否が分かれる作品ですが、Taha は 「これは今でも raï の最高傑作だ。 Martin Meissonnier と Safy Boutella のプロダクションが好きだ」と。 昔の raï は良かったけど……、みたいな話もしてます。
9曲目は Stooges, "TV Eye" (Fun House, Elektra, 1970)。 これは判らず。「こういう音は好きだ」と言ってますが、あまり多くは語らず。
10曲目は Abd Al Malik, "Le Grand Frère" (Gibraltar, Atmosphériques, 2006)。 「これはいいね。自分がやっていることにとても近い。 しかし、誰だか判らないなぁ。あ、判った、もちろんこれは Abd Al Malik だ。 悪くないね。slam (引用者註:Malik の演っている音楽のジャンル) は テクストを即興していてフリースタイルだ。 Carte De Séjour で自分がやっていたことを思い出させるよ」と。
最後は Oum Kalsoum, "Nabj Elborda" (Ifrah Ya Oalbi, Sony 1931)。 もちろん当てています。 「サイケデリックだ。Oum Kalsoum だね。素晴しいじゃないか? 旋回舞踊団 (whirling dervish) だ」。
中で特に興味深かったのは、punk と gnawa の評価でしょうか。 「プチブルジョワ的」とか「労働者階級の子には無理」とか、 そういうところも Taha らしいなぁ、と思ったり。