●●作者近況●● 

その1 初詣

 去年見た映画の中で最もおもしろかったのが、平山秀幸『ターン』である。黒沢清が『回路』で中途半端にしか提示できなかった、人間は孤独をどうやって克服するかの方途が明確に描かれている。
1月6日(日)赤坂日枝神社へ初詣に行った。溜池山王で降りて赤坂から日枝神社へ、人っ子一人とは言わないが、ほとんど『ターン』の世界である。CGで多少は消したそうだがともかく大都会の車止めには苦労したとの事。平山さんもお正月に『ターン』を撮れば、多少は楽だったろうにと思わせる、無人の春である。

シネマファシスト 連載第1回1月号

まったくの偶然ではじめた映画の仕事を、もう20年以上やっている。 20年以上やっているともう他の仕事にはつけないというのが第一の理由だが、 映画の仕事(といっても色々あるが)がおもしろいというのが、 まあほんとうのところである。そのおもしろさを、再確認するために、 学校で週1回、3時間、13週間に渡って講義をしていたりもする。 映画の仕事はなぜおもしろいのか。 1昨年の6月のようにフィリッピンへ1ヶ月も撮影に行って、 破傷風になって帰ってくるからか、昨年の11月のようにドシャ降りの雨の中で、 屋外にテントを張り錦秋の晴天を撮影するからか。 それもあるだろう。しかし基本的には、映画がスタートした100年前から、 そうだと思わせる、時代性をまったく感じさせない、ムダの再生産構造である。 ムダなことを一生けんめいにやっているから乱暴に言えば、おもしろいのである。

映画の仕事を始めて21年目の今年1月、今やっていることは、 1月26日公開の『プリティ・プリンセス』という映画の宣伝である。 この映画が、おもしろいかそうでないか、また日本であたるかあたらないか、 それはちょっと側に置いて、アメリカでは昨年の夏に公開されて大ヒットした映画であるが、 まず、日本ではこの映画自体企画を立ち上げることは不可能であろう。 サエない女子高生が、実はさる国の正統な皇位継承者である王女様、 時代劇としても企画は通りにくいであろう。しかしそれがアメリカでは堂々と公開されて大ヒット。 日本とアメリカの国民性、あるいは社会性のちがいと言ってしまえばそれまでであるが、 この1本を見ただけでも映画は人類共通の公用語ではないことを再認識させる1本である。


(“プリティ・プリンセス”プレスシ−トより)
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市井義久(映画宣伝プロデューサー)

1950年新潟県に生まれる。 1973年成蹊大学卒業、同年株式会社西友入社。 8年間店舗にて販売員として勤務。1981年株式会社シネセゾン出向。 『火まつり』製作宣伝。
キネカ大森番組担当「人魚伝説よ もう一度」「カムバックスーン泰」 などの企画実現。買付担当として『狂気の愛』『溝の中の月』など買付け。 宣伝担当として『バタアシ金魚』『ドグラ・マグラ』。
1989年西友映画事業部へ『橋のない川』製作事務。 『乳房』『クレープ』製作宣伝。「さっぽろ映像セミナー」企画運営。 真辺克彦と出会う。1995年西友退社。1996年「映画芸術」副編集長。 1997年株式会社メディアボックス宣伝担当『愛する』『ガラスの脳』他。

2000年有限会社ライスタウンカンパニー設立。同社代表。

2001年
3月24日『火垂』
6月16日『天国からきた男たち』
7月7日『姉のいた夏、いない夏』
11月3日『赤い橋の下のぬるい水』


ヨコハマ映画祭審査員。日本映画プロフェッショナル大賞審査員。

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(レーコより)第1回連載ありがとうございました。 市井さんとの出会いは大学生の頃まで遡ります。 映画の素晴らしさを具体的に教えてくれた、 私の「映画の先生」「お師匠さん」のような存在です。 連載、これからもよろしくお願いいたします。


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