第105

11月号

シネマ ファシスト 第105回 2010年11月号

●市井義久の近況● その105 2010年11月

 世間同様、私も縮こまってしまったのか、最近は食べ物のことが気にかかる。そこで食べ物の話を2つ。

 その1

 テレビの番組で「あなたにとってごちそうとは」というアンケートを取っていた。その結果1焼き肉、2お寿司、3ラーメン、4カレー、5うどん、その他にハンバーグ、オムライス、朝ごはん、スイーツである。ごちそうとはという定義にもよるが、これは納得できる。その他アンケートにはなかったが、私が加えるなら、トンカツ、カツ丼、天丼、うな重、天ぷら、すき焼き、しゃぶしゃぶ、ふぐ、すっぽんであろう。皆考えることはいっしょだと思う。私はカレー。私は食事をまったく作らないのですべて外食だが、カレーだけは半年間毎日食べたこともある。おいしいものは毎日でも食べたい。いや毎日食べられるものがおいしいもの、おいしいものがその人にとってのごちそう。しかし私は子供の頃からカレーが好きだった訳でも、給食でカレーが出てくると大喜びした子供でもない。東京へ出て来て、スタンドカレー、インド風カレー、友人の家のカレーそれらを食べているうちにカレーが1番好きになった。私は小麦粉の入っている日本風(英国風)カレーも、香辛料だけのインド風カレーも、どちらも好きである。具は脂身たっぷりの豚肉、豆、すりつぶしたエビ、すりつぶしたほうれん草、すりつぶしたニンニクが好きである。味は辛い方が良い。昔田舎で母が作っていたカレーも、給食のカレーも、スタンドカレーも多くの人が食べるので辛くはない。しかし私は甘、やや甘、やや辛、辛、激辛の5段階あるとやはり辛である。おいしものを食べると幸福になる。私にはカレーが1番。インドでは1日3食カレーを食べるそうだが、もし私が自宅で食事を作るようになったら、私も3食カレーを食べたい。前に出た料理のうち私が毎日でも食べられるのはカレーと朝ごはん。朝ごはんは料理ではないが、答えた人のイメージとしては、焼き魚、のり、玉子焼、みそ汁、ごはんである。それとお新香。玉子焼はごちそうのアンケートには出て来なかった。昔は明らかにごちそうであったと思う。私は体重が75kgから60kgに減ってしまったので、タンパク質を採れと言われ玉子、納豆、豆腐を買った。玉子は10コで218円、1コ20円ずいぶんと安い。昔は1コ50円か100円のイメージである。吉祥寺には玉子専門店まであった。私が玉子をよく食べたのは、家でニワトリを飼っていた18歳まで、玉子焼、目玉焼、ハムエッグ、玉子かけごはん、玉子のそぼろかけごはん、その頃は定番であるがゆえにごちそうであった。しかし何十年ぶりに玉子を買い、値段もそうだが、大きさ、中身、色とも昔とは違う、そんなところが今ではごちそうではない理由か。

 皆なぜこんなにカレーが好きなのか。第1は、子供の頃から定期的に季節に関係なく食卓に並び、給食にもよく出て来る。好きだから毎日でも食べたいとなった時、1〜5のうちではカレーしかない。外でもカレーは手軽である。蕎麦屋、ファミレス、定食屋、都市だったらどんな駅にもそのうちの1つくらいはある。つまりありふれた食べ物であることが、ごちそうといわれる所以である。トンカツ、カツ丼、天丼、うな重、天ぷら、すき焼き、しゃぶしゃぶ、ふぐ、すっぽんは他のくくりである。結局1〜5はいつどこででも食べられてあきないという基準である。

 その2

 9月まではまるで夏のようだった。そして10月時々は夏のような日もあったが、キンモクセイも終り11月、さすが秋らしくなってきた。すべては変る。何気なく変る。私は家では食事を作らないので3食あるいは2食外食。しかしチェーンの食堂へはほとんど行ったことがない。昔はチェーンの食堂などなかった。おいしい所は家賃も人件費もかからない家族経営の食堂。しかしある街で時間もなく、たまたま目に入ったので松屋へ入った。お昼時の12時半、満員であった。それも昔のように若い男ばかりでなく、サラリーマン、OL、おじさん、おばさんと多様である。牛めし250円思わずうなってしまった。みそ汁までついている。スーパーで白飯を買っても250円。それがみそ汁までついて250円。決して満腹になる訳ではない。満足するでもない。味も私には濃い。ご飯を食べ尽くす前に牛肉がなくなってしまった。となりの人とはぶつかりそうだ。しかし価格こそすべて。ここでは食事に関しては見事なまでの価値観の一元化である。昔とは様変わりである。少なくとも昔は吉野屋、松屋にOLとおばさんはいなかった。又満員の食事時なのに会話している人はほとんどいない。ともかく腹に入れる、そういう顔で皆牛めしを食べている。すさまじいまでの価格破壊の現実を見た。しかし私はこの現実には異を唱えたい。競争は適正であってほしい。250円の牛めしは、生産者、流通業者、加工業者、販売業者、消費者の誰かがどこかで無理をしているとしか思えない。たとえば私、沈黙の食堂での昼食は異常と思う。



市井義久(映画宣伝プロデューサー)

1950年新潟県に生まれる。 1973年成蹊大学卒業、同年株式会社西友入社。 8年間店舗にて販売員として勤務。1981年株式会社シネセゾン出向。 『火まつり』製作宣伝。
キネカ大森番組担当「人魚伝説よ もう一度」「カムバックスーン泰」 などの企画実現。買付担当として『狂気の愛』『溝の中の月』など買付け。 宣伝担当として『バタアシ金魚』『ドグラ・マグラ』。
1989年西友映画事業部へ『橋のない川』製作事務。 『乳房』『クレープ』製作宣伝。「さっぽろ映像セミナー」企画運営。 真辺克彦と出会う。1995年西友退社。1996年「映画芸術」副編集長。 1997年株式会社メディアボックス宣伝担当『愛する』『ガラスの脳』他。

2000年有限会社ライスタウンカンパニー設立。同社代表。

●2001年 宣伝 パブリシティ作品

3月24日『火垂』
(配給:サンセントシネマワークス 興行:テアトル新宿)
6月16日『天国からきた男たち』
(配給:日活 興行:渋谷シネパレス 他)
7月7日『姉のいた夏、いない夏』
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:有楽町スバル座 他)
8月4日『風と共に去りぬ』
(配給:ヘラルド映画  興行:シネ・リーブル池袋)
11月3日『赤い橋の下のぬるい水』
(配給:日活 興行:渋谷東急3 他)
12月1日『クライム アンド パニッシュメント』
(配給:アミューズピクチャーズ 興行:シネ・リーブル池袋)


●2002年

1月26日『プリティ・プリンセス』
(配給:ブエナビスタ 興行:日比谷みゆき座 他)
5月25日『冷戦』
6月15日『重装警察』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:キネカ大森)
6月22日『es』 
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:シネセゾン渋谷)
7月6日『シックス・エンジェルズ』
8月10日『ゼビウス』
8月17日『ガイスターズ』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:テアトル池袋)
11月2日『国姓爺合戦』
(配給:日活 興行:シネ・リーブル池袋 他)

ヨコハマ映画祭審査員。日本映画プロフェッショナル大賞審査員。

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