●「シド・アンド・ナンシー」大阪編

今から10年以上前の話。
東京に遊びに行った時、渋谷のパルコパート3(現「シネクイント」)でアレックス・コックス監督の「シド・アンド・ナンシー」を観た。この時シド役をしていた俳優、ゲイリー・オールドマンにシビれてしまったのは私ひとりではなかった。なぜなら、彼はこの作品を機にあっという間に有名になっちゃったからである。それにしてもかっこよかったな〜 役作りとはいえスリムだったし・・・。

そんな思いがあったせいか、数カ月後にこの映画が大阪にやって来た時、迷わず友人と妹を誘い、もう一度この映画を観に行った。会場のホールに到着すると、ロビーはパンクファッションの若者でいっぱいである。むむむ、よくわからないが、東京の時とは違う観客の気合を感じる。私は「パンク」と「ヘビメタ」スタイルの違いがよくわかっていなかったが、おかげ様で、その日を境に間違うことはなくなった。会場内も何だか騒がしい。まさにコンサートのノリ。案の定、映画が始まってもコンサートのノリは続き、ライブシーンでは口笛や拍手がわきおこる。東京で同じ映画を観た時の張り詰めた空気を思い出し、「こんな映画の見方もあったのか?それともピストルズファンは関西に多いのだろうか?」とあたりをキョロキョロ見回してしまう。

映画の中盤ついにその時が来た。
シドがナンシーのタイツを脱がせ、つま先にキスするというラブシーンで、場内の誰かが、

「クサないんか〜っ!」(臭くないのか)と叫んだのである。

今までいろいろ映画を見てきたが、かけ声のかかる映画は初めてだ。ひゃ〜、びっくりした。この一言で、場内は一気に「ドッカーン」爆笑の渦と化していった。叫んだ男以外にも同じようなことを考えた人がいたということなのね。この「ドッカーン」のおかげで、映画の結末とは裏腹に妙な熱気を場内にたたえたまま映画は終了した。う〜ん、恐るべし大阪パワー。その後、ジャニス・ジョプリンやジミ・ヘンドリックスのライブ映画を見る機会があったが、やはり盛り上がり、ジャニスの時など上映後はスタンディングオベーションになっていたのである・・・。

どうでしょう?大阪での映画鑑賞。「ついていけない」と感じるか「おもしろそう」と感じるかはあなた次第!


●シド・アンド・ナンシー ("Sid and Nancy" 1986 イギリス)
監督:アレックス・コックス(Alex Cox)
主演:ゲイリー・オールドマン、クロエ・ウェブ

セックス・ピストルズのベーシスト(ギタリストだっけ?)、シド・ヴィシャスと、グルーピーだったナンシー・スパンジェン。実在したふたりの物語は、「映画」という魔法にかけられて、馬鹿馬鹿しくて苛立ちさえ覚えるのに、なんだか泣けてしまう。公開当時の宣伝コピーは「墓場でディープ・キス」。ラストシーンの美しさにより、この年観た映画のマイ・ベスト1になってしまいました。
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●「鉄男」エディンバラ編
92年から94年にかけて、私はスコットランドのエディンバラというとても美しい街に住んでいた。私の第?回目かの青春黄金時代。 学生生活を多いに満喫した。

映画を見る、というのもそのひとつ。映画はいろいろ見たかったのがこればかりにお金を使うわけにもいかず、エディンバラ大のFilm Society(http://www.eusa.ed.ac.uk/societies/filmsoc/)の会員(年間会費約2,000円で約80本の映画を見ることができます。すごいでしょう)になるなどして、学生料金システムをフル活用して映画を見ていた。

ある時、FILM HOUSEで塚本晋也監督の「鉄男」を上映することを知った。日本ですでに見ていたものの、日本の映画を映画館で見るのは珍しい気がしてもう一度見ることにした。劇場はまずまずの入りで、やはり若い男の子が目立った。きっと「AKIRA」なんかも知ってるんだろうな。映画が始まって驚いたのは、みんなよく笑うということだった。日本人の私が見て「げ〜、気持ち悪い」と思うところもゲラゲラ笑っている。感化されやすいタチの私は、彼らの中で映画を見るうちだんだんつられて笑い始めた。そういえば、確かにこれは結構笑える。鉄男となる、田口トモロヲさん扮するサラリーマンがビルのかべを横向きに走るシーンにいたっては爆笑になっていてこれは私も一緒にゲラゲラ笑ってしまった。

見終わった後、映画の印象が変わっていることに気づいた。不思議なことだ。斬新なパンクっぽい映画だと思い、日本では緊張して見たのに、ここイギリスではギャグぽく感じる。「鉄男」の他に「ゆきゆきて神軍」、「砂の女」、「愛のコリーダ」などの日本映画を海外の映画館で見る機会があったが、どうしても「通好み」のアカデミックな雰囲気が漂っていて、しきいの高さを感じてしまったが、「鉄男」は今どきのカルト映画好きな若者が集まっていたような気がする。

私が思い出す限り、当時一番人気があった日本映画は断然「AKIRA」である。今どきのスコットランドの若い男の子たちが「かっこいい〜」と言っていた。ビデオも人気があった。そんな時は私も何だか嬉しくなった。
今(2000年)はどうなんだろうな?


●鉄男 (1990 日本)
監督:塚本晋也
主演:田口トモロヲ、塚本晋也

「なんじゃこりゃ」。ジーパン刑事(松田優作)の台詞じゃないけど、観客のみならず、主演の田口トモロヲもそう感じたに違いない、鉄男(てつおとこ)に進化(?)していくサラリーマンのキテレツ人生。パンク映画、というジャンルがあれば、その代表作になるべき、熱くのぼせて走り続ける、ちょっと情けなくて哀しくて、可笑しい映画です。モノクロのスクリーンの真っ黒い液体が、鉄男から溢れ出る機械アブラなのか、女から溢れ出る血潮なのかわからない、ドロドロの二人のロポット的合体変態シーンは、いやはやどうも・・・忘れられません。
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●吹き替えと字幕の話その1
日本で外国映画を見る時、字幕で見るのが当たり前だが、実は「吹き替え」が当たり前の国の方が多いらしい。私が確認しているのはスペインだけ(説得力ないなあ)だが、フランスもわりと多いと聞く。とにかく、ハリウッドのメジャーな新作は必ずといっていいほど吹き替えで上映される。レンタルビデオも字幕つきのビデオを扱っている店を見つけるまで大変だった(10本ぐらいしかなかったけど)。つまり、みんなトム・クルーズやハリソン・フォード、ジュリア・ロバーツといったハリウッドスターの本当の声がどんなのか全然知らないのである。最初から知らないんだから別にいいのかな。顔つきだって同じだし、違和感がないのかもしれない。

バルセロナのような大都市でも、字幕で映画を上映していた映画館は、10数館のうち、覚えているかぎり3館だけである。キオスクでGUIA DEL OCIOという「ぴあ」のような雑誌を買い、「V.O」の表示のついた映画を探したものだった(「V.O」というのは、「ボイス・オリジナル」のことで、字幕上映をさすのです)。
そういう映画館は日本の単館上映館のような存在で、街の中心地からはちょっと外れた場所にあったりした。不便な気がしないでもなかったが、観光ずれしていない、地元の人々の生活の雰囲気が生き生きと感じられてよかった気がする。

字幕上映の映画館に出かけてもスペイン語で表示されるので、初級レベルの私はまだなんとかついていける英語の映画ばかり見ていた。「ウェディングバンケット」というアメリカ映画を見に行った時のこと。主に登場するのはニューヨークに住む中国系アメリカ人で、予想以上に中国語の会話が多い。必死に字幕のスペイン語を追いかけるが、ぜ〜んぜんだめ。みんながゲラゲラ笑っているオチのある会話もわからない。悲しい。コメディ仕立ての映画だったので、わからない会話があってもストーリーについていけない訳ではなかったのが救いだった。

映画が終わって退場する時、まわりの人々がじろじろと私を見る。私がアジア系の顔をしてるからに違いない。って本当にアジア人だけど。この露骨な態度がむかつくような面白いような、不思議な気分である。その視線を浴びながら「誰かさっきの会話の内容教えて〜っ!できれば英語か日本語で。」と心の中で叫ぶ私なのであった。
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●吹き替えと字幕の話その2
テレビも毎日のように映画を放送しているが、当然吹き替えオンリーである。衛星放送があれば、字幕の映画を見ることができたかもしれないが、一般のテレビ放送では吹き替えだけ。日本のアニメも大量に放送されていて、たまたま「アルプスの少女ハイジ」のクララが立ち上がる回にテレビをつけてしまった私はスペイン語を喋るハイジに泣かされた。ハイジは日本語を話さない方が違和感がないですね。「らんま1/2」や「エースをねらえ!」は畳み部屋のシーンなどがあったため、ちょっと気になったが。

映画の話に戻るが、「吹き替えを聞き続ければ勉強になるだろう」と思い、なるべく見るようにしていた。
しばらくたった頃、映画の主役がみな同じ声優であることに気づいた。な、なんだ。他に声優はいないのか?女優なら、シャロン・ストーンもデミ・ムーアもジュリア・ロバーツもジョディ・フォスターもウィノナ・ライダーもみんな同じハスキーなオバチャン声だし、男優はといえば、ブルース・ウィルスもシュワちゃんもキアヌ・リーブスもこれまた妙に早口のおじさん声である。

「そんな風に書かれてもよくわかんね〜」という人もいると思うので、わかりやすくしてみよう。藤原紀香、松嶋菜々子、本上まなみ、常盤貴子は「泉ピン子」、竹野内豊、反町隆史、キムタク、佐藤浩市はみな「片岡鶴太郎」の声になって吹き替えられているところを想像してほしい。泉ピン子に「競馬場で会いましょう」なんて言われても・・・ねえ。ましてや鶴ちゃんの「グレート・ティーチャー鬼塚」は何だか辛そう。
声優のことをスペイン人の友人に聞いたら、ずっと同じ声優ということだった。ひえ〜。みんなよく飽きないなあ。

しばらく声優が変わることを期待してテレビの映画を見続けていたが、「泉ピン子」と「鶴ちゃん」の声は変わることがなかった。イライラよりも気持ち悪さが募る一方だったが、そのうちワールドカップが始まり、ステイ先のお父さんにテレビを完全に占領されてしまった。その後の映画については、確認する時間もなく帰国してしまったため、どうなったのか知るよしもない・・・。どなたかご存じの方いらっしゃいませんか?
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●釜山の子連れママ
釜山映画祭では、まだ小さい赤ちゃんをおんぶして映画を見に来ているお母さんを何度か見かけた。かなり珍しいけれど、韓国では普通なのかな。個人的には見習いたい(?)習慣である。

「ミイン」(美人)という韓国映画を見に行った時だった。映画館は完全指定制で、「入場=座席がある」はずなのに、そのお母さんは赤ちゃんを気にしてか、壁際の通路に立ったまま映画を見ていた。赤ちゃんは寝ているのかとても静かにしていて、お母さんが立っていなければ赤ちゃんの存在に気づくことはなかっただろう。

ところで、この「美人」という映画は(私には)とても退屈な恋愛映画だった。男女は二人ともカメラ映えする美男美女なのだが、男は限りなく陰気で、女は限りなく馬鹿に見えてしようがなかった。特にこれといった盛り上がりもないまま、ストーリーは淡々と進んでいく。場内も静まり返っている。「早く終わらないかな〜」とまで思いはじめた頃、女が取り乱して男を罵り、泣き叫ぶというシーンが始まった。そして、彼女の叫び声にかぶさるように私達の耳に入ってきたのは、

「フンギャァアアア〜!!!」という赤ちゃんの泣き声だった。

突然の大声に驚き、泣き始めたにちがいない。お母さんは、火がついたように泣いている赤ちゃんをおぶったまま、歌舞伎のからくり仕掛けのような素早さで劇場の外に消えていった。しかし場内は大ウケで、私達の笑い声が響き渡る。映画とは何の関係もない出来事に、この一体感。スクリーンでは男女が蒼白になっている。非常に深刻な状況に違いない。そんな画面の様子が私達の笑いをさらに助長させ、ひきつったような笑い声はいつまでも消えることがなかった・・・。

もひとつ。

連続猟奇殺人もの映画上映で見かけた別の子連れママは、殺りくシーンが始まるとひざに抱いた子供の目を手で覆っていたが、きわどいベッドシーンには何もしないままだった。
う〜ん、この基準はいったい・・・何?。
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