タイ東北部イサーン地方に取材した映像を用いたナラティブなインスタレーションや長編映画で知られる Apichatpong Weerasethakul は1990年代末より主に映画と現代美術の文脈で活動する作家。 長編劇映画 Uncle Boonmee Who Can Recall His Past Lives (2010, 『ブンミおじさんの森』) は、 2010年に Festival de Cannes (カンヌ映画祭) で Palme d'Or (映画祭の最高賞) を受賞している。 しかし、インスタレーション作品を国際美術展などで度々観る機会があったが、 [関連レビュー]、映画は未見。 最近はナラティヴな作品における映像の実験性も思わせぶりな虚仮威しに感じられがちで、 半透明スクリーンに花火やその明かりに照らされる石像などを投影した Fireworks (Archive) (2014) は、 本当に暗闇の中に浮かび上がるよう。そこがとても気に入った。
アニュアルで開催している (といっても去年はリニューアル中の閉館で開催されなかったが) 新進の写真作家を取り上げるグループ展。 今年取り上げられた6人の作家は意識して観るのは初めての作家ばかりだった。 今年のテーマは東京。ということで、大都市の「猥雑さ」に焦点を当てたナラティブ作品が多め。 そういう作品もありとは思うが、 むしろ形式的な写真、合成で東京スカイツリーか写り込んだパンフォーカスなパノラマ写真を撮る 佐藤 信太郎 の『東京|天空樹』シリーズ (2009-2013) が良かった。 作家自身は浮世絵を意識して作品を作っているようだが、やはり Andreas Gursky [レビュー] を連想したのは確かだし、 路地の家々を撮った作品は歪みが大きく感じられてしまったりもしたが、 もう少しいろいろな作品を観てみたいと思わせるだけの魅力を感じた。
アニュアルの新進作家展と合わせて、同じテーマでコレクション展も開催されている。
こちらも作風は多様ですが、特に後半、期待以上に形式的な作品が多くて楽しむことができた、
宮本 隆司 『建築の黙示録』 [レビュー]、
楢橋 朝子 『Half Awake And Half Asleep In The Water』 [レビュー]、
畠山 直哉 『Slow Glass』 [レビュー]、
佐藤 時啓 『光―記憶』 [レビュー]、
など、好きな作家の作品を多く観ることができたということもある。
しかし、奈良原 一高 [レビュー] が
『Vertical Horizon-Tokyo』 (1991-1995) という青空を背景とした高層建築のカラー写真を万華鏡のようにコラージュした作品を作っていたということに気づいたり、
皇居の内堀の緑を白黒写真で抽象画のように捉えた 山本 糾 『Jardin』 (2002) や、
人影も走る自動車も全くない首都高や都心の交差点をパンフォーカスのカラー写真で捉えた
中野 正貴 『TOKYO NOBODY』 (1990s) など、
今まで気付かなかった面白い作品との出会いもあった。