夢の城

― 登場人物 ―


桜の里(七)
― 1. ―

主要登場人物

たみ
 中原村の地侍(零細地主 兼 武士)長野雅一郎の妻。雅一郎はいま名主 中原克富(かつとみ) の命令で牧野郷へ行っている[桜の里(二)上]
立岡拓実(ひろざね)府生(ふしょう)
 中原村の有力な地侍。家を継いだばかりの若者である。
中原克富(かつとみ)造酒(みき)、「名主様」
 中原村に住む中原郷の郷名主で、たみの夫 長野雅一郎 の主人。守護代(守護大名)春野定範(さだのり)の家臣。先代の名主 令史(りょうじ)吉継(よしつぐ) の娘 (しげ) と結婚することで名主の地位を嗣いだことがこの章で語られる。町から茂に連れられて来たらしい。
中橋渉江(しょうこう)
 川中村に住む儒者。僧侶ではないようだが、明徳教寺の住職役を務め、寺に住みこんでいる。牧野・森沢二郷の人びとの信望が厚く、街の銭屋に借銭を返すかどうかを議論する合同の寄合で司会を務めていた[桜の里(五)1.]。安総尼の師匠。
安総(あんそう)(安総尼)
 川上村の村長木工(もく)国盛(くにもり)の娘。出家して尼になり、川中村の明徳教寺に住む中橋渉江(しょうこう)に仕えている。丸顔で目のぱっちりした若い娘。「先の問答」というのは、渉江とのあいだで交わしていた「人の本性は善か悪か」という問答のことのようだ[桜の里(六)2.]
北坂上の大子三郎(おおねさぶろう)
北坂下の猪次(いのじ)
 牧野郷川中村の村人。

話題としてのみ登場する人物

長野雅一郎(まさいちろう)、「長野の旦那」
 中原郷中原村の地侍(零細地主 兼 武士)。名主 中原克富(かつとみ) の命で、克富の息子 範大(のりひろ) とともに牧野郷へ行っている。たみの夫。
坂口のはる
 中原村で街道にいちばん近い家の若い女。最近、克富の子を産んだが、克富は認知する気がないらしい。
中原範大(のりひろ)安芸守(あきのかみ)、十郎丸
 中原克富の息子。克富は範大が守護代 春野定範(さだのり) の世話で元服したことを自慢にしている。十郎丸は幼名。
拓実の両親
 父は村の有力な地侍だったが、跡を拓実に譲って隠退した。母は(のぶ)といい、先代の名主 中原令史(りょうじ)吉継(よしつぐ) の娘で、中原克富の妻 (しげ) の妹。
(しげ)
 中原郷の先代の名主 中原令史(りょうじ)吉継(よしつぐ)の娘で、中原克富の妻。すでに亡くなっている。
中原吉継(よしつぐ)令史(りょうじ)
 中原郷の先代の名主。
ご使者
 藤野の美那、隆文、さわの三人。町から銭屋の使者として借銭借米の取り立てのために村に来て、この明徳教寺(めいとくきょうじ)の「僧坊」の裏の間に泊まっている[桜の里(六)2.]。いま、同じ僧坊の森沢荒之助(あらのすけ)の部屋に行って、荒之助の話を聞いている[桜の里(六)5.]
(まり)、広沢(の上の家)の〜
 「広沢三家」の一つ「上の家」の女の子。「広沢の中の家」の葛太郎(かつたろう)(まゆ)と同居している。身が軽い。前夜に中原範大の寝所から脱出して[桜の里(三)4.]、それ以来、牧野家の屋敷跡の「義倉」に身を隠していたが、義倉に放火され、なんとか脱出に成功したところである[桜の里(六)5.]。なお、安総尼も中橋渉江(しょうこう)も毬の所在は知らない。
牧野興治(おきはる)治部大輔(じぶのたいゆう)、「治部様」
 牧野郷の郷名主だった人物。玉井春野家の初代正興(まさおき)のころからの臣下である。定範が正稔を捕らえて島流しにし、三郡守護代の地位を奪ったのに抗して挙兵し(「牧野の乱」または「義挙」)、定範を追いつめたが、巣山から来た柴山勢に敗れて処刑された。牧野郷の村人たちには現在でも慕われている。豪放で荒々しい人物だったらしい[桜の里(四)下]。克富が「牧野の名主」と呼んでいるのはこの興治のことだが、興治はすでに亡くなっている。
春野定範(さだのり)越後守(えちごのかみ)
 現在の三郡守護代(守護大名)で、中原克富の主人にあたる。中原範大の「範」の字は、元服の際にこの定範から与えられたものである。
春野正勝(まさかつ)民部大輔(みんぶのたいゆう)
 定範の兄で、玉井春野家二代目だった。
柿原忠佑(ただすけ)大和守(やまとのかみ)
 定範の正妻の父。竹井郡の土豪出身で、部下に「柿原党」と呼ばれる新興金融集団を抱えている。中原村の村人たちは柿原党から銭を借りている。また、現在、克富の息子の範大と長野雅一郎が、この柿原党の一員として牧野郷で活動中である。
柴山康豊(やすとよ)兵部少輔(ひょうぶのしょうゆう)
 巣山郡の代官。まだ若いが、「牧野の乱」を鎮圧した実力者でもある。