1910年代から30年代にかけてのロシア・アヴァンギャルドの展開を、 主にデザイン、建築、舞台芸術の様々な資料を駆使して描いた展覧会だ。 埼玉県立近代美術館では今年頭にあった美術展 [レビュー] に続いてのロシア・アヴァンギャルドの展覧会だ。 ロシア・アヴァンギャルドの展覧会は1990年代からそれなりにフォローしていることもあり、 その展開について認識を新たにしたという程ではなかったが、 今回初めて目にしたものもあり、充分に楽しめる展覧会だった。 個々については少々浅めだけれどデザイン、建築、舞台芸術を横断して 文化的な潮流を追う展示は、ロシア・アヴァンギャルドの入門として良いだろう。
今回の展覧会の出展作品は、ロシアの4つの美術館・博物館のコレクションが核になっていた。 モスクワ建築大学付属美術館からは建築関係の資料が出ていた。 サンクトペテルブルグ・ロシア国立図書館のコレクションは 2003年に川崎市民ミュージアムでポスター展 [レビュー] が開催されたことがあったが、 今回はポスターだけでなく絵本や政府制作のパンフレット等を観ることができた。
目を引いたものの一つが、 サンクトペテルブルグ・ロシア国立演劇音楽博物館の舞台芸術関連のコレクション。 確かに、衣装のデザイン画などは、 1998年に横浜美術館であった Labanov-Rostovsky コレクション展 [レビュー] の方が充実していた。 しかし、こちらの見所は、当時の衣装の実物3点だろう。 もう一つ印象に残ったのは、Дмитрий Шостакович (Dimitri Shostakovich) のバレエ Болт (The Bolt) (『ボルト』, 1931) のための Татьяна Бруни (Tatiana Bruni) デザインの衣装。 1931年という時期にこれだけ構成主義的という興味もあり、 この衣装でのバレエの舞台というのを観てみたいように思った。
サンクトペテルブルグ・ロシア国立歴史博物館のコレクションのうち、磁器については、 2003年の『ロシア・アヴァンギャルドの陶芸』展 [レビュー] で来ていたものもあった。 しかし、革命10周年記念等のイベントでの広場や建築物の装飾案や実際の様子の写真などは、 いかにも歴史博物館ならでのコレクション。 街にアヴァンギャルド的なセンスのポスターや造形物がどう展開していたのか、 興味深く観ることができた。
国内のコレクションでは、『ロシア・アヴァンギャルドの陶芸』の際に 「ロドチェンコ・ルーム・プロジェクト」で復元制作された家具、衣服、食器など (岐阜県現代陶芸美術館のコレクション) を再び見ることが出来た。 また、島根県立石見美術館からテキスタイル・デザインのコレクションが出ていた。 本 Tatiana Strizhenova: Soviet Costume and Textile Design 1917-1945 (Frammarion, 1999) で、構成主義的に簡略化された機械や鎚鎌を使ったテキスタイル・デザインを見たことがあったが、 やっと実物を観ることができた。 それも、国内の美術館がコレクションしていたというのは驚きだった。
少々残念だったのは、図録の人名、作品タイトル等の表記が日本語と英語のみだったこと。 最近はインターネットでアクセスできるロシア語圏の情報も豊富になっており、 作家名や作品名のロシア語キリル文字表記を鍵にそういう情報を検索するのも容易だ。 そういう点でも、せめて固有名詞にはキリル文字表記を併記して欲しかったように思う。
また、会場では Сергей Эйзенштейн (Sergei Eisenstein) の映画 Броненосец Потёмкин (Battleship Potemkin) (『戦艦ポチョムキン』, 1925) や Дзига Вертов (Dziga Vertov) の映画 Человек с киноаппаратом (Man With A Movie Camera) (『カメラを持った男』, 1929) などが上映されていた。 また、会場の一角では Various Artists: Baku: Symphony Of Sirens (ReR Megacorp, ReR RAG 1&2, 2008, 2CD+book) [レビュー] からの、音楽や音声が流されていた。
ちなみに、この展覧会は、埼玉県立近代美術館の後、 岡崎市美術博物館 (2009/01/30-03/28) と山形美術館 (2009/04/03-05/09) へ巡回予定だ。
以下、関連する談話室発言の抜粋。
ここのところレビュー続きでしたし、たまには、ちょっと緩めの話。
土曜に『ロシアの夢 1917-1937』展を 観に 埼玉県立近代美術館へ行ったわけですが、ミュージアムショップに でロシア・アヴァンギャルド関連の書籍・グッズがいろいろ売られていて、物欲が……。 ロシア・アヴァンギャルドに限らず、バウハウスなど、1920sのデザインは好きですし。
で、島根県立石見美術館コレクションのソヴィエト・テキスタイル・デザインを使ったハンカチがあったので、 sickle & hammer な柄のものを買ってしまいました。 先日、ハンカチを一枚、落としてしまったばかりでしたし。 ほんとは、トラクター柄とか機械柄とかあれば、そちらの方がよかったんですが。 けど、この sickle & hammer の、ばっと見それと気付かないかわいらしさも気に入っています。 この柄のシャツとかあったら買ってしまいそう。
あと、Александр Родченко (Aleksandr Rodchenko) デザインの カップ&ソーサー (ただし、オリジナルの90%のサイズ) が売られていました。 2003年の『ロシア・アヴァンギャルドの陶芸』の時に復元制作された ティーセットのデザインを用いたものです。 そのまま定番商品になったとも考え辛いし、2003年以来の在庫なのでしょうか。 2003年の展覧会の時にはなんとか買うのを踏みとどまったのですが、 そんなことを考えていたら、自分が買わずして誰が買う、と……。
他にも、2004年の『幻のロシア絵本1920-30年代』展に合わせて復刻された、 『「幻のロシア絵本」復刻シリーズ 全10巻』 (淡交社, 2004) も売られていました。これは、当時、買ってしまいましたが。 こっちも再版されているとは思えないし、まだ売れ残ってるんでしょうか。 とてもかわいいんだけどなー。やはり、こういうのってあまり売れないのかしらん……。むむむ。 ちなみに、1920-30年代のロシアのアヴァンギャルドな絵の絵本については、 ここのリンクから辿ると、 いろいろ観られます。お勧め。