2006年の US indie jazz labels に関する発言です。 リンク先のURLの維持更新は行っていませんので、 古い発言ではリンク先が失われている場合もありますが、ご了承ください。 コメントは談話室へお願いします。
自身のグループ Tiny Bell Trio (現在は活動停止) や John Zorn の Masada など 1990年前後から New York の down town (現在は Brooklyn) の jazz/improv シーンで 活躍してきてきた trumpet 奏者 Dave Douglas へのインタビュー記事 Paul Olson, "Dave Douglas: Music, Commerce and Culture Wars" (All About Jazz, 2006/06/26) が面白いです。ということで、紹介。 参考までに Dave Douglas 関連のレビュー: 1, 2, 3。
まずビジネスの話をしているのですが、 1999年にメジャー RCA と契約したものの、去年 RCA を離れ 自身の独立系レーベル Greenleaf を設立した経緯について語っています。 RCA との契約は、満了することができたようで、途中でクビになったというわけではないようです。 メジャーが「ある種の手綱」をアーティストに付けて自由にさせないことについて、 Douglas は一定の理解を示しています。 RCA との契約を更新しなかった理由について、Douglas はこう言っています。
とにかく、私がその契約 (引用者註:1999年のRCAとの6枚のアルバムをリリースするという契約) を終えたのと同時に、Sony が BMG を買収だか合併だかした。 私がレーベルにいた6年間に、レーベルの名前は5回代わり、レーベルのヘッドは4回か5回か代わった。 私が契約したときにいた人はほとんど誰も残っていなかった。 それで、大きな変化が生じていると悟った。 そして、続けるならば一定の条件を満たすようにする必要があるとも悟った。 だから、友好的なミーティングの場を設けて、私はこう言った。 「これが私の望むことです」と。 彼らはこう応えた。 「ああ、みんなクビになっていくよ。ここはめちゃくちゃだ。我々はあなたにそんなことを提供できないと判っている。どうもありがとう。」 そして友好的な握手をして、私は去ったんだ。
Douglas の提示した "certain conditions" が具体的によくわからないのがアレですが、 毎年のようにレーベルの名前やヘッドが代わるというという状況に、 メジャーに残っても安定した音楽活動は見込めないと悟った、といったところでしょうか。 こういう話を読んでいると、メジャーに留まるメリットは無くなってきているのかな、と。 もちろん、短期間に大規模に売るような メインストリームのポップとかは話は別でしょうが。
自身のレーベル Greenleaf の設立は、アーティスト主導でオンライン音楽配信サービス等を行う会社 ArtistShare の成功 (Maria Schneider Orchestra, Concert In The Garden (2004) の 47th Grammy Awards (Best Large Jazz Ensemble Album) 受賞) に触発されたところが大きかったようです。 (ちなみに、ArtistShare については Brian P. Lonergan, "ArtistShare" (All About Jazz, 2006/01/17) という記事もあります。) もちろん、アーティスト主導の独立系レーベル自体は昔からありますし、 Douglas も「John Zorn は15年前に始めていた」 (Tzadik のことですね) と言っています。 しかし、インターネットによるオンライン音楽配信サービスやCD直販の環境が整い、 敷居が低くなったということでしょう。 Greenleaf も最初の2枚は Koch を使って従来の伝統的な配給をしたようですが、 「売上げの回収に時間がかかるうえ、掛率も高く、理解しているふりもできないほど手続きが複雑」 と。一方、インターネットを使った方法なら今のところは持続可能、と言っています。 ちなみに、Greenleaf の直販は、去年、第1弾リリースの Dave Douglas, Mountain Passages (Greenleaf, GRE-01, 2005, CD) とかを買うのに利用したことあります。
後半は、ビジネスではなく音楽の話ですが、新作 Dave Douglas Quintet, Meaning & Mystery (Greenleaf, 2006) に関する話が興味深いです。 イラク戦争反対のベネフィットのために書かれた曲 ("Invocation") についてとか、 jazz と社会との関わりをどう考えているか、とか。 新作は未入手ですが、ちゃんと聴いてみよう思ったりしました。
余談ですが、Dave Douglas Sextet (現在は活動停止) のメンバーでもあった clarinet 奏者 Chris Speed をはじめ、 Brooklyn シーンのミュージシャンたちが、 Skirl というレーベルを始めています。 こちらもまだリリースを1枚も入手していませんが、とても気になります。
1980年代末からニューヨーク (New York, NY, USA) の jazz/improv シーンで活動してきた multi reed 奏者 Chris Speed が今年の4月に独立系レーベル Skirl を始めました。 今のところ以下の4タイトルをリリースしています。
Skirl については、設立前から気付いていて、 今年の6月にもここ談話室で言及していたわけですが、 扱っている店が無くて入手が遅れていました。 結局、レーベルに直接、4タイトルまとめてオーダーしてしまいました。
jazz/improv を核に、現代音楽っぽいもの (The Clarinets) から、 alt rock vs free jazz ぽいもの (Meg Nem Sa) まで幅がありますが、 今のNYブルックリン (Brooklyn, New York, NY, USA) のシーンの 様々な試みを聴くようで、どれもとても面白いです。 今後の展開がとても楽しみです。 というわけで、音盤雑記帖へ レビューを書いておきました。
ちなみに、4タイトルの中で一番気に入ったのは、Curtis Hasselbring, The New Mellow Edwards。 trombone & clarinet の飄々としてユーモラスな演奏もいいのですが、 John Hollenbeck (The Claudia Quintet) の刻むビートがいいんですよね。かなりツボです。
この界隈のグループとしては、 The Claudia Quintet (レビュー) や Pachora も大好きですが、新譜の予定は無いのかなぁ……。
しかし、今年の6月に紹介した Dave Douglas の Greenleaf といい、 一部の US の jazz/improv なミュージシャンの間で、 ちょっとした独立系レーベル・ブームが起きているように感じます。 Greenleaf や Skirl の設立前、2年前の記事になりますが、 Rex Butters, "The Growing Influence of the Indie Jazz Label" (All About Jazz, 2004/2/29) も、そういった雰囲気を伝える記事といえるかと思います。 この記事は、ロスアンジェルス (Los Angeles, CA, USA) の独立系レーベル Cryptogramophone を主宰する violin 奏者 Jeff Gauthier が indie jazz (independent jazz music) という旗印を立てて、それに特化したレコードショップ indieJazz.com を作ったということを伝えています。 indie jazz という呼称はいささかマーケティング用語臭いのですが、 含まれるサブジャンル を見ると、ま、こういう括りを作りたくなるのも判らないではないです。 自分が jazz/improv で フォローしている範囲とほとんど重なってますし。
ちなみに、indieJazz.com では Downtown New York というジャンルを設けています。しかし、その key labels で筆頭に挙げられている レーベル AUM Fidelity は、 実はブルックリン (Brooklyn) のレーベルです。 indieJazz.com は Skirl レーベルを扱っていませんが、 Skirl からリリースしているようなミュージシャンの関係する作品は、 この indieJazz.com のジャンルでは Downtown New York に含まれています。 しかし、Skirl の公式サイトを見ると、 むしろ "Brooklyn-centered community" と謳っており、 Troy Collins, "New Exit From Brooklyn: Chris Speed's Skirl Records" (All About Jazz, 2006/10/27) でも、Skirl のリリースを "a document of the fertile Brooklyn scene" と呼んでいます。 1980年代末から Knitting Factory 界隈のこのシーンを意識してフォローしてきている者としては つい "Downtown scene" と呼んでしまいがちですが、 "Brooklyn scene" という呼称もここ数年の間にすっかり定着したように感じます。 ブルックリンであることを強調するレーベル Skirl を見ていても、 ニューヨークの先鋭的な jazz/improv シーンの重心も ダウンタウンからブルックリンへ移ってしまったんだなぁ、と、感慨深いです。 ところで、ちょっと検索してみたところ、 John Zorn に関するメーリングリスト Zorn-list で2001年1月頃、 "Brooklyn scene" と "downtown" jazz について議論されているのを発見 (これとか これ)。 これを読んでいると、"Brooklyn scene" と "downtown" jazz って 微妙にニュアンスが違うのかな。むむむむ。
余談ですが、先日、ロスアンジェルスの indies/hardcore のグループ The Minutemen のドキュメンタリー映画 We Jam Econo: The Story Of The Minutemen (2005) を観たときに、 「Nels Cline が出てきたり、Vinny Golia の名前が出てきたり、というのも気になりました。やっぱり、LA の underground jazz シーンもそう遠くはなかったのかなと」 と書いたわけですが。 Nels Cline は Cryptogramophone レーベルを拠点としていますし、 Vinny Golia は Nine Winds レーベル主宰です。 どちらも indieJazz.com に関わり深いミュージシャンだったりします。