2011年以前の「桑野塾」に関する談話室発言は以下にアーカイヴしてあります。
雪の金曜よりはましなものの、土曜も冷たい雨。 そんな中、午後に早稲田大学早稲田キャンパス16号館へ。 ことし最初の桑野塾 [関連発言] に参加してきました。
前半の報告は、 島田 顕 「ソ連・コミンテルンとスペイン内戦 —— モスクワを中心にしたソ連とコミンテルンのスペイン内戦介入政策の全体像」。 本の出版に合わせ、 その内容の紹介でした。予備知識が少な過ぎてちゃんと話に付いて行けていたか心許ないところもありましたが、 スペイン内戦の経緯など、特に人民戦線側の動きについて、そうだったのか〜と思いつつ聴くことができました。
後半は、井上 徹 「異形のロシア・ソビエトアニメ」 ということで、最近は比較的ポピュラーとなったロシア・ソビエトアニメの中でも、 なかなか日本で上映される機会の無いアニメの紹介でした。中でも印象に残った作品について。
Владимир Тарасов [Vladimir Tarasov] の Юбилей (Jubilee [記念日], 1983) は アニメーション100周年を記念して Союзмультфильм [Soyuzmultfilm] が制作したアニメ。 1920年代から1970年代のソビエトアニメが沢山引用されていて、ソビエトアニメ史の勉強にもなるような内容。 DVD box set Animated Soviet Propaganda: From The October Revolution To Perestroika [レビュー] の中でも、Тарасов の作品は出色だったわけですが、他にも面白い作品を作っているのだなあ、と。 Тарасов の作品は一通りちゃんと観てみたいものです。 あと、アニメーション作家の Владимир Тарасов とジャズ・ドラマーの Владимир Тарасов は 別人だということを、今回、教わりました。そうだったのかー。 Юбилей でも中盤に Вячеслав Ганелин [Vyacheslav Ganelin] の free jazz な 演奏が使われていましたし (これはエンドロールのクレジットで確認した)、 あの演奏のドラムも Владимир Тарасов だと思われるのですが。 こんな近傍に、同姓同名の別人がいるというのも紛らわしいものです。
1960年代から活動するアニメーション作家 Андрей Хржановский [Andrei Khrzhanovsky] の最新作 Полторы комнаты, или Сентиментальное путешествие на родину (A Room and a Half, or Sentimental Journey Home [一部屋半 あるいは祖国への鑑賞旅行], 2009) は、 1972年にソ連を追放された詩人 Иосиф Бродский [Joseph Brodsky] の作品と経歴に基づく 実写とコンピュータグラフィックスによる作品。 抜粋で観ただけですが、落ち着いた色合いの幻想的な映像に引き込まれました。 舞台となっているサンクトベテルブルグの街並も、映画映えするなあ、と、改めて。 これは、是非、劇場でちゃんとした形で観てみたいものです。
後の懇親会でも、いつもの方々とはもちろん、初参加の方とも、映画や建築の話で盛り上がることができました。 いつもは18時頃から22時頃までとたいてい呑み過ぎてしまうのですが、 今回は21時前という節度ある飲みで、ちょっと助かりました。
土曜は午前中に所用を済ませて、午後には3ヶ月ぶりに早稲田大学早稲田キャンパス16号館へ。 桑野塾 [関連発言] に参加してきました。
前半の報告は、加藤 哲郎 『日本のソルジェニツィン —— 勝野金政の生涯』。 今回の桑野塾をきっかけに知ったのですが、勝野 金政 は1920年代にソ連に渡った日本人。 1930年初頭に不当に逮捕され、白海運河建設の強制労働に送り込まれるものの、生還。 日本帰国をはたして、1930年代後半の時点で自らの体験を通したスターリン体制の現実を伝える 多くの文書を残しました。 ソ連に渡った経緯や、不当に逮捕された経緯なども興味深かったのですが、 最も興味をひかれたのは、日本に戻ってから 東方社のプロパガンダ誌『フロント』に参画していたということ。 『フロント』や満鉄調査部の界隈には元社会主義者やそれに近いモダニストの芸術家が集まっていたわけですが、 彼もそうだったのか、と。
後半は、稲田 明子 『父・勝野金政のラーゲリ記憶検証の旅』 ということで、 勝野 金政 の長女による、勝野 金政 のロシアでの足跡を辿る旅 (1998年) の報告でした。 最も興味を惹かれたのは、やはり白海運河を訪れた時の話。 白海運河というと Aleksandr Rodchenko の写真くらいでしか見たことがありませんでしたが、 現在の寂れたというか不思議に静かな風景のカラー写真が印象に残りました。
今回は40人近い盛況。この手の話題は人が集まるなあ、と。 正直に言えば少々疎い分野ですが、それでもいろいろ気付かされる所があって良かったです。 で、終った後は懇親会。懇親会の参加者も多くて、こちらも盛会でした。 桑野塾は、懇親会での話も得る事が多く、とても刺激になります。 今回も絵本や音楽の話で盛り上がったり。しかし、22時頃までしっかり呑んでしまいました。 帰途上、三茶でトラップされて、さらに呑んでしまったという……。
先週末の土曜は、午後に早稲田大学へ。 桑野塾 [関連発言] に参加してきました。
前半は、インドのストリートマジシャン Ishamuddin Khan を追ったドキュメンタリー映画 Kent Dahl (dir.): Magic Can Wait の上映と、 監督を交えてのディスカッションでした。 Isshamuddin らインドの大道芸マジックを取り巻く現状を捉えたもので、 子供の教育の問題が裏テーマになっていたのが興味深かったです。
後半は自分の報告。ということで、「ロシアのネットレーベル」の報告をしました。 ここや ここに書いたことに+αしたような内容、 のつもりでしたが、結局、音楽やミュージシャンの紹介というよりも、 彼らが SNS (Social Networking Service) や CGM (Consumeer Generated Media) をどう使いこなしているか、 という点に焦点を当てた内容になってしまいました。 報告のために用意したPFD版のレジュメがありますので、興味がある方はお知らせ下さい。差し上げます。 いずれ時間ができたときにでもHTML化してサイトに載せておきたいと思いますが。
準備のためにいろいろ聞き直したりしていて、 リリースしている個々の音楽が好きというより (もちろん好きなものもありますが)、 SNS や CGM を駆使したレーベル運営のあり方が、自分にとって興味深いんだな、と。 だから、レビューのような形でこの界隈を紹介することが自分にとっては難しく、 このサイトであまり取り上げられないままでいる、と自覚しました。
あと、報告の際には言わなかったことですが、喋っていてふと、今年の頭に読んだ クリストファー・スモール 『ミュージッキング —— 音楽は<行為>である』 (水声社, 2011) [読書メモ] の影響を受けているなあ、と気付かされました。 で、IDM 〜 minimal な tech house が音楽の主な形式であることは、 レーベル間のネットワークを確立・維持するために コンピレーションやDJミックスをリリースするようなミュージッキングに 関係あるかもしれない (コンピレーションやDJミックスを合った音楽形式という意味で) という アイデアが頭に浮かんだりもしました。
それから、「例えば文学の世界ではどうなのだろう」というコメントを後でメールで頂きました。 『ロシア文化の方舟 ―― ソ連崩壊から二〇年』 (東洋書店, 2011) [読書メモ] の中に 越野 剛 「手書き恋愛小説とアルバムの伝統 ―― 学校の少女文化」という項目があり、 そこで、ロシアで流行しているインターネットを介してやりとりされている自作小説、二次創作小説が論じられています。 こういう現象とロシアでのネットレーベルの流行を比較してみるのも面白いのだろうとは思います。 と、報告の中で少し言及しようかと思っていて、結局すっかり忘れてしまったので、ここでフォローアップ。
しかし、こうして報告すると一人でぼんやり考えているより深まりますし、 聴きに来て下さった方と次に繋がりそうな話になることもありますし、 こういう形でそれなりに話ができる場があることはいいことだなあ、と実感した報告でもありました。