夢の城

― 登場人物 ―


桜の里(六)
― 1. ―

主要登場人物

中原範大(のりひろ)安芸守(あきのかみ)
 中原郷の郷名主 中原造酒(みき)克富(かつとみ)の一人息子。まだ元服したばかりの少年である。守護代(守護大名)の岳父(正妻の父)柿原大和守(やまとのかみ)忠佑(ただすけ)の率いる柿原党の一員として、町の銭屋による借銭取り立てを妨害するために村に来ているのだが、本人にどこまでその自覚があるか……。前夜、広沢の(まり)を寝所に連れこんだが、眠っているあいだに逃げられた[桜の里(三)4.]
長野雅一郎(まさいちろう)
 中原村の地侍(じざむらい)(零細地主 兼 武士)で中原克富に仕えている。克富に言われて、範大とともに牧野郷に来、その途中で村西兵庫助(ひょうごのすけ)に柿原党の企てを告げられる。昼間の寄合の席で、藤野の美那を水盗人として誣告(ぶこく)することで町の銭屋の取り立てを妨害しようとしたが、失敗した[桜の里(五)2.]。しかし、範大の無能ぶりに徐々に自信を深めつつある。
村西兵庫助(ひょうごのすけ)(兵庫)
 川上村で柿原党と結んでいる村人のリーダー格。借銭が他の村人より多く、町の銭屋衆の取り立てを逃れるために柿原党の工作に加担している。
(まり)、広沢の上の家の〜
 「広沢三家」の一つ「上の家」の女の子。「広沢の中の家」の葛太郎(かつたろう)(まゆ)と同居している。柿原党の一員として村に来ている若い侍 中原範大(のりひろ)のところから逃げ出し[桜の里(三)4.]、現在、牧野家の屋敷跡の「義倉」に身を隠している。

話題としてのみ登場する人物

藤野(ふじの)美那(みな)
 玉井の市場町に住む少女。十六歳(数え年、他の登場人物も同じ)。事情があって、市場の老舗の葛餅屋「藤野屋」に預けられ、育てられている。徳政(債権放棄令)に名を借りた柿原党の策略から同門の銭屋の元資(もとすけ)を救うために、浅梨治繁の門下の兄弟子の隆文と、銭屋で働く娘さわといっしょに、牧野郷に借銭の取り立てに来ている[何をなすべきか(二)]。川上村を訪れたときに広沢の(まり)と出会い[桜の里(一)]、その後、前夜に「義倉」で再会している[桜の里(三)5.]
中原克富(かつとみ)造酒(みき)
 玉井郡で、町のすぐ北に隣接する中原郷中原村の郷名主。範大(のりひろ)の父で、範大と長野雅一郎に牧野郷に行くように命じた[桜の里(二)上]
町の銭貸し、借銭取り
 市場町から銭屋の使者として来ている鍋屋の隆文(たかふみ)、藤野の美那、銭屋のさわの三人のこと。長野雅一郎と村西兵庫助の会話で「水盗人の娘」と言われているのは藤野の美那のことである。
(こま)
 広沢の中の家の隣家で暮らしている娘らしい。
大木戸九兵衛(くへえ)
井田小多右衛門(こだえもん)
 川上村の村人。現在は村西兵庫助とともに柿原党に通じている。
広沢の中の家の葛太郎(かつたろう)(葛太)、(まゆ)、「母ちゃん」(加恵(かえ)
 毬(上の家)と同居している広沢の中の家の人びと。葛太郎と繭は毬より年下である。
勝吉(かつよし)木美(きみ)
 かつて牧野郷にいたらしい美那という娘の両親で、毬の実の両親であるらしい。
美那、広沢の上の家の〜
 むかし、牧野郷にいた娘。毬の姉にあたる。藤野の美那とは別人?
ふく、広沢の下の家の〜
 村西兵庫助の屋敷で、奥方の美千(みち)に仕えている少女。子どもっぽい風貌を残している。
「治部様」、牧野興治(おきはる)治部大輔(じぶのたいゆう)
 牧野郷の名主だったが、現在の三郡守護代(守護大名) 春野定範(さだのり)が守護代の地位を奪ったことに反対して決起し、処刑された[桜の里(一)]。「義挙」とはこの決起事件のことをいう。毬が隠れている「義倉」はこの治部大輔興治の屋敷跡の地下にある。なお、「巣山の兵」というのは、この決起を鎮圧するために出動した巣山郡の代官 柴山兵部少輔(ひょうぶのしょうゆう)康豊(やすとよ)の軍のこと。
和生(かしょう)
 川上村の寺の寺男をしている少年。俗名は「(かず)」という[桜の里(四)下]