Opa Cupa は、イタリア (Italia (Italy)) 南部の アドリア海 (Mar Adriatico (Adriatic Sea)) 側、サレント (Salento) 半島の プーリア州レッチェ (Lecce, Puglia, IT) を拠点に活動する バルカン (Balkan) 風 brass band レパートリーを得意とするグループだ。 Antongiulio "Opa" Galeandro と Cesare "Cupa" Dell'Anna に、 ボスニア・ヘルツェゴビナ (Bosna i Hercegovina (Bosnia and Herzegovina)) 出身の Adnan Hozic、 アルバニア (Shqipëria (Albania)) 出身の Admir Shkurtaj らによって結成された。 Galeandro はすぐに脱退したが、残りの3人を核とした編成で、 Live In Contrada Tangano (Sottosuono, SOTTA106, 2002, CD) (レビュー) をリリースしている。 リリースしたレーベル Sottosuono は 2000年代前半にプーリア州ビトリット (Bitritto) で活動したレーベルだ。 Opa Cupa の他、 RosaPaeda (Bucovina Club にも取り上げられた; レビュー)、 Nura (後述の Zina のメンバーでもある Bachir Gareche のグループ)、 Alphabass feat. Mascarimir など、面白いリリースが多かった。 しかし、すぐに活動を止めてしまった。
日本盤の帯解説では「オパ・クパ」とカナ表記されているようだが、 Live In Contrada Tangano のライナーノーツに "Opa Cupa" (leggi: Opa Tzupa) とある。 この発音に近いカナ表記は「オパ・ツパ」だろう。
その後、Cesare Dell'Anna は2005年に地元レッチェに レーベル 11/8 を構えリリースしたのが、 Hotel Albania だ。 Dell'Anna と Hozic 以外のメンバーは大きく入れ替わっている。 この2人を中心とするプロジェクトという色合いが濃くなっているように思う。 このアルバムでの編成は多国籍で、 ブルガリア (Bulgaria) の Iliev、Guerguiev、Argirof、Lanbov、 ルーマニア (Romania) の Serban、Merisan、Luca、 アルバニア (Albania) の Hasa といったバルカン出身者が多く参加している。 また、アルジェリア (Algeria) の Gareche、Bembali、 フランス (France) の Martinez、Beaujard や サルディーニャ (Sardegna (Sardinia)) の Pittau なども参加し、 地中海 (Mediterranea) 色を添えている。 ウェブサイトによると、現在のライブ時のラインナップはこの作品に参加した C. Dell'Anna、Lungo、G. Dell'Anna、Ria、Manno、Arena、Minerva の7管に Marco Rollo (drums)、Sergio Quaqliarella (percussion) を加えた9tet編成だ。 ライブ・メンバーではないが、前作からのメンバーである Hozic も、 ビデオクリップでは白衣の民族音楽博士として登場するなど重要な役割を担っている。
前作も様々な folk の要素を織り込んで独自性を出していたが、新作は folk 的な面も薄めだ。 バルカンの brass band を元ネタとしているとはいえ、 多くは C. Dell'Anna の自作曲であり、伝承曲を忠実に演奏するというものではない。 アップテンポの曲は ska core を意識したかのようなタテノリ気味なのだが、 Ivo Papasov 作の "Bayala Stela" すらそのように演奏される。 "Karavia" などはタテノリと jazz 的な4ビートや sax ソロが交錯する曲だ。 "Las Mille Y Una Noche" では electic piano 様の keyboards のピロピロいう音が brass band に絡むようにソロを展開するし、 "Balkan Games" ではその音で続く "Yasko In Albania Hotel" で使われる テーマの旋律を piano との duo でゲーム音楽かのように演奏する。 このような所が、Opa Cupa の新作の魅力だ。
Hozic 作の "Iijepa Haijeria" での女性歌手 Lungo の歌声や Hozic の歌声もフィーチャーした伝承曲 "Mujo Cuye" などはバルカンの folk っぽいし、 伝承曲に基づき Argirof をフィーチャーして熱い演奏を繰り広げる "Yasko In Albania Hotel" など、 バルカン色濃い曲もとても楽しい。もちろん、バルカン色だけでない。 waltz 曲の "Chiari Di Luna" などはイタリアの banda 風だし、 女性の太く強い歌声とマグレブ風のコーラスの交錯する "Allegria Di Naufragi" は 地中海歌謡っぽい雰囲気も感じさせる。そういう点も悪くない。
このように、バルカン風の brass band ながら、それを自分なりに消化して、 他の様々な要素を巧く取り込んだ佳作に仕上がっている。 11/8 のウェブサイトで公開されているビデオクリップを観ていても、 ユーモアも感じられライブも楽しそう。生で観てみたいと思わせるグループだ。 ライブのメンバーには入っていないが、 ビデオクリップでの白衣の民族音楽博士 "Dr. Adnan Hozic" のキャラクタも気に入った。
Cesare Dell'Anna は Opa Cupa を率いているだけでなく jazz や rock の文脈でも幅広く活躍している。 jazz の文脈では、 Italian Instabile Orchestra 創設者として有名な プーリア州バーリ (Bari) を拠点に活動する trumpet 奏者 Pino Minafra (関連レビュー 1, 2) の Terronia (ENJA (MW), ENJ 9480 2, 2005, CD) (関連発言) に Minafra 率いる big band Mediriana Multijazz Orchestra のメンバーとして Admir Shkurtaj、Roberto Ottaviano (Live In Contrada Tangano 時のメンバー) と共に参加している。 rock の文脈では、 イタリア北部ピエモンテ州トリノ (Torino (Turin), Piemonte, IT) のグループ Mau Mau (関連発言 1, 2) の 最新作 DEA (Mescal, MES001, 2006, CD) に Dell'Anna と Adnan Horic が共に参加しているだけでなく、 彼のレッチェのスタジオ Albania Hotel が録音スタジオの1つとして選ばれてもいる。
Cesare Dell'Anna は jazz や rock の文脈だけではなく、 ragga/dub のグループ Sud Sound System や house のDJユニット Jack In The City など、 地元プーリアの club music のミュージシャン/DJ/プロデューサたちとも交流がある。 その成果が、地元のDJたちによる Hotel Albania の remix アルバムだ。 といっても、 Electric Gypsyland や Bucovina Club (関連レビュー 1, 2, 3) のように remix も一般的になっており、こういう試み自体はそれほど珍しいものではないが。
IDM 程ではないが、アップテンポなものは少なく、 あまりフロア指向の強くない downtempo breakbeats が多い。 悪くはないが凄いというトラックも無いように思う。 1980年代前半の Cabaret Voltaire のような dub electro 的なビートに IDM 的にギクシャク気味のビート、cimbalom や brass の響きなどが交錯する "Mr. Ozich" がもっとも気に入ったトラックだ。
Hotel Albania Remix よりも、 そこで remix を手掛けていたミュージシャン/DJ/プロデューサたちと Cesare Dell'Anna とのプロジェクト TarantaVirus の方が良いと思う。
プロジェクトの名前からも tarantella を思わせる frame drum の カシャカシャ高い音刻む細かいビート、hand drum の乾いた音が刻むビートと、 重めのベースライン、そして、Dell'Anna の細かいタンギングは戦闘的ながら 浮遊するような trumpet のソロや、深くエコーをかけられて漂う詠唱などが、 少々 dubwize とも感じる多層的な音空間を作り出して、とてもかっこいい。 Hotel Albania Remix よりも、 ぐっとフロア指向の音作りになっているのも、ここでは成功している。
タイトルにもなった "Lu_Ragno Improverito" の pt.1 と pt. 2 のような 抽象度高めの deep house なトラックも良いし、 軽快なビートに乗る地中海的な recorder のフレーズや accordion の音色も印象的な root 色濃い"Tarantavirus" のようなトラックも気に入っている。 13分超の長めのラストの "Electrocontaminazioni Meridiane" は、 roots 的な楽器の音色を生かしたものから抽象的なビートまで、 このアルバムに収録された様々な要素が取り込まれ展開していく所が面白い。
ちなみに、Opa Cupa Remix と Lu_Ragno Impoverito のCDは アナログのレコードを模したものになっている。 レーベル面は中心のレーベルを残し黒く溝まで刻まれているうえ、 読み取り面も黒くし、紙のジャケットに収められている (日本のものと違い材質はペラペラだが)。
以上の3タイトルに併せて、11/8レーベルの既発の残り2タイトルも簡単に紹介。
Zina は Cesare Dell'Anna と、 アルジェリア (Algeria) 出身でプーリアを拠点に活動する Bachir Gareche と Ahmed Benbali によるプロジェクトだ。 Bachir Gareche は Opa Cupa の2作ともに参加しており、 Nura という "Flamenco Arabo" のグループも率いている。 Ahmed Benbali は Ammaraciccappa! という "Electro-World Salent+Maghreb" のグループを率いている。
gnawa 風の gumbri (撥弦楽器) や bendir (frame drum) のフレーズに乗せての 声の掛け合いや、rai のような節回しの歌など、 Gareche や Benbali によるマグレブ (Maghreb) の音楽の要素に対し、 Cesare Dell'Anna は jazz 的なソロを聞かせ、 Opa Cupa のメンバーを含むイタリアの horns も合わせ、 reggae や funk、afro-beat なグルーブを作り出している。 gnawa 風のリズムと声の掛け合いが funk に乗る "Sudani" や "Hamuda" が気に入っている。
11/8 の第一弾のリリースは、Cesare Dell'Anna が ローマ (Roma, Lazio, IT) とニューヨーク (New York, NY, USA) を拠点に活動する トリオ NewsJoint の2人 Andrea Sammartino (electronics) と Greta Panettieri (vocals) (⇒MySpace) と組んだ club music の影響強い jazz のプロジェクト Tax Free のCD2枚組だ。 1枚目は Panettieri の歌声もあって抽象的な nu jazz というより acid jazz 〜 trip hop に近い仕上がりだ。 CD2 は Jack In The City の2人による remix アルバム (ただし7曲目は Dell'Anna と Sammartino による remix) となっている。 こちらはダンスフロア指向の強い house な仕上がりだ。
こういうストレートなダンスフロア指向が、 Opa Cupa の remix や TarantaVirus の音作りのベースにあるのだろうと 興味深く聴くことができた。 しかし、正直に言えば、Tax Free は歌声やメロディに特段キャッチがあるわけではない。 Opa Cupa や TarantaVirus、Zina のような folk/roots 的な要素が無い分だけ、 物足りなく感じてしまうのも確かだ。