2008年から2010年にかけて、首都高速中央環状線の建設で大きく変化しつつある 大橋交差点 (玉川通り) 以北、熊野町交差点 (川越街道) 以南の山手通り沿いの風景を撮った 写真の展覧会だ。 ぱっと見ではいままでとかなり作風が違うように感じられたが、 観ているうちに、やはり 畠山 らしいと感じるところの方が多くなってきた、そんな展覧会だった。
ぱっと見の違和感の理由は、 見慣れた街中の風景を普段歩いて見るような視点から撮ったものが多く、 さらに、写真によっては人が歩行者が普通に写り込んでいるということ。 まるで、街中のスナップ写真のよう、と、感じるものもあった。 といっても、多くは人物はブレたり薄く透けていたりしており、スナップではなく、 三脚を据えてパンフォーカスになるよう絞って遅いシャッター速度で撮られていることは確かなのだが。 (歩行者がブレずに写ったものが一点あったけれども。)
しかし、ゆっくり観ているうちに、一連の写真の多くに共通するものに気付いた。 それは、階段やスロープ、歩道橋、歩行者用の通路といったものだ。 昔ながらの街道筋ではない環状道路の山手通りは、 尾根筋や谷筋といった地形に合わせずに筋が引かれているため、 わずかながら切通しや盛土となっている所もあれば、 周囲の路地との道の段差を繋ぐスロープや階段が多く見られる。 また、幹線道路であるため、高架や陸橋もあれば、歩道橋も多い。 さらに、首都高速中央環状線の建設のための仮設の歩行者用通路やスロープ、新設された階段もある。 そして、それらの描くジグザクの形状が、写真として捉えられていた。
そして、このジクザクに、柴田 敏雄 の撮る山間部の 砂防ダム や 擁壁、 コンクリートで固められた通路や水路を連想させられた。 山間部ではないけれども、 人影の写り込みも含めて、Work:Man [レビュー] のよう、とも。 そして、山間部と同じような造形を山手通りという大都会のど真ん中に見出しているようで、 それがとても面白く感じられた。
もちろん、写真に捉えられた線には、 山手通りや首都高速といった幹線自体が作り出す長くうねるような線もあれば、 建設時に出た廃材の作り出すカオス的な線も混じっていた。 シリーズとして観たとき、それらがジグザクの写真の間に挟まり、 単調さが排されていたように感じたのも良かった。
ちなみに、今回の個展では、この『線をなぞる / 山手通り』の他に、 今年1月に G-tokyo で発表した Slow Glass / Tokyo 連作も展示されている。 水滴のついたガラス越しに風景を撮ったシリーズ Slow Glass [レビュー] の東京編だ。 見逃していたのを観られたのはありがたかったが、 『線をなぞる / 山手通り』の方が興味深くて、こちらの印象は霞んでしまった。