甘い生活苦タイトル画
タイトル画:武川雅寛・白井良明(ムーンライダーズ)

 2002年3月 第3回 「最果ての町にて」

知床へ行ってきた。飯を一食抜かずとも、エロ好きなオヤジたちと、流氷そして地場コンパニオンと戯れる事を目的に。いや、仕事が命の同業経営者たちと、研修を目的にである。ロマンスグレー群にまじり、ピンチヒッターで参加した筆者がトーゼン最年少。愛想嫌い、付合い嫌い、山口もえ好きの私が、こんなタテマエで塗固められた旅行に参加とは、我ながら恐れいる。ところで、搭乗する前ならまだしも、知床へ向かってる機上で「済州島はまだかー?」を連呼するエロオヤジたち。これら、エロの人間爆弾(!)を、関空の探知機はどうも識別する事が、できなかったようだ。とりあえず、全員無事に女満別へ。

雪と氷で閉ざされた知床は、なーんにも無いのが「売り」の様なところだった。唯一、夜に冬期限定にて、町民あげてのオーロラショー(煙幕にレーザー光線をあてたホームメイドなシロモノ)が催されていた。「エへッ。エへッエへッ、オーラル、オーラルショー。エへッ。」を連呼するエロオヤジたち。宴会を早々にきりあげ、場所を同ホテルのカラオケボックスに移し、エロオヤジ対コンパニオンとの野球拳が始まった。例のテーマソングも、わずか2、3回唄った後、邪魔くさいとの理由で割愛。いきなり、余裕のないジャンケンがくりかえされる。歓声の中、じらしながらブラを外すコンパニオンを前に、私自身、到着してからなーんにもしてない、する事もないこの最果ての町を、心地よく感じているのに気付いた。

もし、もう一つの人生が歩めるなら、舞台はここ知床がいい。仕事は漁師か、ダンプの運転手。テールやタールは熟知しているが、メールには弱いブルーワーカーに限る。もちろん独身。数年関係のあった、ホステスとも御無沙汰という、身勝手な設定がキブン。ある日、国道沿いをあてもなく歩く女を拾う。それから始まる、ガラス内側が結露しそうな、愛欲と蜜月の日々。女は影があり、幸うすーく感じる美形が、雰囲気だと思う。女優でたとえるなら、宮下順子か。あっ、これって「赫い(あかい)髪の女」の世界だわ。どこか意味ありげな、女のエロを演じさせれば、宮下の右にでる者はいない。行きずりの、しかも破滅的なエロ。相手は宮下。そんな展開を憧れる者にとって、うたかたの夢をかなえさせてくる「赫い」は、精液臭匂う男の名作である。

次の日、オホーツクの海をつきすすむ、流氷観光船の上にいた。少し暖房効きすぎの船室から、水平線まで覆われた流氷をみる事ができた。「今回はジャンケンが強くなる為の研修やったなぁ。」腕をさすりながら、隣の席でエロオヤジが吠えた。甲板の上空には、菓子の匂いを嗅ぎとって、ウミネコが群れをなしている。「リリィシュシュって、カラメルがなかなかでてこない(もしくは、入れ忘れた)プリンの様な、童貞映画だったよなぁ。」放り投げる菓子を、ウミネコが見事にキャッチする。「カラメルの苦味ばかりの「赫い髪の女」とは、まさに対極だったよなぁ。」と私。

流氷の海原を、観光船はウミネコひきつれ、つきすすむ。知床の春は、まだかなり先の様だった。

←エロ絡む幸薄い女を演じれば、唯一無比の存在、宮下順子。体得して、演技できるものではない。私たちが考える以上の波乱万丈人生により、醸しだされた幸薄感だと思うのだが、最近このテの女優はホント見かけなくなった。しかし、彼女が持つ華やかさと比例して、見え隠れするダークな雰囲気は、ひっそりビデオ業界AV女優にうけつがれてたりするのである。

葛城より:寒い時期に寒い所へ行く。こんな我慢大会の様な考えを、小馬鹿にしていた方だが、この時、この場でないと、出会えない、感動があると知り、そういう意味、今回の知床はキックの連続。ただただ脱帽である。映画の場合も、この時、このシチュエーションで観た場合、より感銘を受ける作品もあるはず。例えば暑い時に「バックドラフト」を観る。船の上で「ポセイドン・アドベンチャー」を観る。ドラッグキメながら「ラスベガスをやっつけろ」をやっつけるなどなど。眠たい時にタルコフスキー作品を観るのもいかも。ふと目が覚めると、まださっきと同じシーンだったりして。タルコフスキーならありえる。

(レーコより)以前、誰もが認める和風マイルームで「女優霊」のような和風ホラー映画を見るという企画が持ち上がったんですが、私ひとりが抵抗しあえなくボツ。だって和室での幽霊出現シーンがあったりしたら大変です。日本家屋って「暗がり」がわざと作られるように設計されてるところがあるじゃないですか?友人たちは「みんなで一緒に見るから大丈夫だよ」っていうんだけどちっとも大丈夫じゃない。みんなが帰った後がこわいんだってば!電気が届かない廊下の先の暗がり、少しだけ開けた障子の後ろから漂ってくる静寂、こういったものがぜ〜んぶ「得体の知れないものが息を潜めて佇んでいる」ように思えるんです。でも、「サスペリア」なら見れちゃうから不思議。

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※「シネマックスモナムール」(全12回)は、2001年に葛城さんに連載していただいた、熱く濃ゆ〜い、日本映画コラムです。読みたい方は下記バナ−をクリックして、ご覧ください。


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