毎回友人たちに登場してもらい、エッセイを書いてもらうコーナーです。 今年のお題は「影響をうけたモノ」。
第4回の執筆者はこばやしくんです。

●●こばやしくん自己紹介●●
だいたい毎日、レーコとの約束を思い出しつつ。意識がなくなるまで飲んでは忘れていたので、原稿をつくるのに二ヶ月かかりました。月50日ぐらい働くのですが、性格はヘンタイです。ふたりで「殺し屋1」を見に行った帰りに、今年は最低月に一度はミナミのネオンから離れてフラフラ旅をしようと目標を立てました。今月は前回フラフラにされた屋久島の縄文の森と面妖な飲み屋に再チャレンジします。



第4回 「おれがすき。」


熊野三山の真ん中、新宮市にある神倉神社で2月6日に行われるお燈まつりは再生を体感する神事。 白装束に荒縄、片手にはタイマツという救いようのない衣装に身を包んだ男達が、神火を片手に神倉山の538段の石段を一気に駆け降りる。 その瞬間、山には炎の滝が流れ天に昇る龍の姿を映し出すという。 毎年、熊野に惹かれた者たちが全国からこのまつりに駆けつける。 僕も仕事で熊野に接触することになって以来、 この世界にハマってしまった。 そしていつのまにやらか、お燈まつりはだいじな年中行事のひとつになり、参加すること今年で4回目となった。


まつりの本番は夜に行われるのだが、 王子が浜という美しい外海に向かって正午に執り行われる禊ぎの儀式に参加するため、 早朝から車を5時間走らせて来る事も僕たち仲間うちでの決まり事となっている。 極寒の海で悠々と読み上げられる祝詞をバックに、 フンドシいっちょで荒波にうたれること十数分・・・ことしは、 なるべくいい子になることを不堕落の海の彼方に誓う。


日が落ちるすこしまえに、 白飯、白身魚、豆腐、漬物、日本酒といった白づくめの弁当を食べ、 白装束に着替え上り子と呼ばれる神の子となった僕たちは、三社参りに新宮の街中を練り歩く。 街の細い路地は山に近づくにつれ白装束で埋め尽くされていき、 緊張と興奮が弛んだ躰にフツフツと目覚めだす。上り子同士は道々擦れ違いざまに、 お互いのタイマツを叩きつけ合い「たのむで!」と声を掛けあう。たのむでとは、 おまえにおれの命を託すという意味。それは、 これから向かう火の海で命を落とすことも覚悟した上り子同士のさいごの頼みごと。 タイマツの先には、それぞれの願い事を書きしるし、 神火に焦がす。 つまり、白装束という死に衣装に身を包んだ僕たちは地上の神社にさいごのお参りを済せ、 山に登り一端その生命を断ち切る。 そして山の神より、あらたな生命の火を与えられ魂を再生する。 ・・・というのが1400年ものあいだ受け継がれてきた「お燈まつり」のストーリーだ。


クライマックスは炎の海となった山上の境内で ポールポジション争いにボコボコになりながら、 鳥居の門が開けられると全力疾走で山を駆け下り麓のゴールを争う。 街は男の帰りを見届けようとする女達で埋め尽くされていて、 ある地元の人から「山から駆け下りてきた一位から十位までの男は、 下で待っとるどの女とやっても許されるんやで。」と言う話しを聞いたことがあった。 ホントにやっちゃっていいものかどうかは知らないけど、 魂を再生されてきた上り子の、その精子を奪い合うという感覚は、 まさに受精の本能。あらたな生命を求める者に蘇りをもたらす地、 熊野の理念に相応しい風習なのか?と勝手に納得した。 (でも最初に参加しようということになった時は、この話しにかなり後押しされた。)
とにかくシンプルで躰を張ったおまつりなのだが、 山のうえで神火が打たれ、3000人ほどのタイマツに火の手がまわり、 それが幽玄に立ち上がっていく光景は凄まじく獰猛に、この世の感覚を失うほどに美しい。 煙に巻かれながら、 見つめる炎に吸い込まれそうになる時。 どこかの世界にいたときの記憶が蘇ってくるようなきもちになる。 遺伝子に刻まれた思い出なのか? 荼毘にふされながら魂がみた光景なのか? 前世でなにをしていたのかは知らないけど、 炎のなかで本能の目覚めを憶えるのは僕だけでもないと思う。 だから、まつりが近づくと、呼び出しをうけたように足が向いていってしまうのだ。 これまで歩いてきた道筋を確認するためかの如く。

まつりから戻り、慌ただしい日々を過ごしていくうちに、 いきなり春になった。夜になってから、焚き火をするために山に行く。 何時間かボケーッとしながらボヤーッとした頭で考える。仕事のこと、家族のこと、 恋人のこと、・・・考えたいことは山ほどあってもこたえはまとまらない。 いいかげんに酔いがまわりだすと、いつもわかっていると言うように言葉を繰り返す。 僕の前に道はない、僕の後ろに道はできる。(了)

(第5回はトヨダさんの予定です。お楽しみに。)
★こばやしくんからトヨダさんへのメッセージ★
知らない人にメッセージするのって、ごっつい苦手なんです。だけど僕のともだちにも玉置神社で巫女をして熊野に住み込みこんだ女の子がいます。いちどゆっくり写真をとりに行きたいと思ってるのですが、熊野でおもしろそうなところ知ってたら教えてください。

★こばやしくんからマサコさんへのメッセージ★
金沢に住んでるんですね。僕は七里ヶ浜が好きで、たまに思い出しては高速道路をぶっ飛ばして行ってます。いつか会えたら遊んでください。


(レーコより)小学生の時からの幼なじみ、こばやしくん。大した喧嘩もせず、今まで仲良く過ごしてきましたね。当たり前のように感じてたけど、この歳になって「これはかなり貴重な関係である」ということに気付きました。友達歴の長さもさることながら、互いのテンションが小学生の頃から大して変化せず、会えばアホな話で盛り上がってるところは、感動的ですらあります。面白いことに敏感で、いつも仲間を引っ張っていたこばやしくん。好きなことが仕事になり、今やアートディレクターとしてすっかり貫禄がついてしまったけど、昔も今もこれからも、半ズボン姿で不思議な歩き方をしてた「こばやしくん」を思い出そう。老後の茶飲み友達候補として、お互い少しは長生きしましょかね。


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