#4

こんにちは、吉田です。
我が家は、天空にかかる天の雲(あまのぐも)の、ちょうど中程にございます。
この春、上の子がやっと高校を卒業しました。

今日も曇天(どんてん)です。

こんな私にも、人生における喜びというものがございます。
それは、この天の雲によって分かたれた恋人達に、一時の再会を果たしてあげること。

でも、あの日の雲神様(ぐもがみさま)は、どこか虫の居所が悪く、
腹一杯にため込んだ雲を、吐き出しても吐き出しても、その腹がへこむことはなく、
それどころか、ゴロゴロと増殖する雲によって、
そのたっぷりと膨らんだ下腹は、大海を荒らし、
その茂みは、地上の夜を尚いっそう暗くしていったのです。

そして、その御一物は、ああ。
ああ、ああぁ〜〜。



この理不尽なるものへの怒りを、私はどのようにしたらよいのでしょうか。
今日も、人々が殺し合っています。

ゴロゴロと、ゴロゴロと。



そして、なんの因果でしょうか。
よりによってそんな日に現れた青年に、私は言わねばならなかったのです。

「今日の雲は、渡れません、、」

青年は、「そうですか。」と軽く会釈をすると、流れる雲の縁に立ちつくしておりました。

「今日の雲は、渡れません、、」
私がそう言うと、受話器の向こうの娘さんは、「わかりました。」と一言申しました。

そして、私が受話器を置いて顔を上げた時、もう青年の姿はありませんでした。
私は、思わず天の雲に駆け寄りました。

ゴロゴロ、ゴロゴロと流れる雲。



ああ、ああ、流れて、ゆくぅ〜〜。


見下ろすと、雨が降り始めておりました。

こんな雨は、それまで見たこともありませんでした。

雨は、ただただ、無言で降ったかと思うと、
雨は、雲を割って差した陽に、虹の大橋をかけたのです。

そして私は確かに見たのです。

ああ。

橋の東の袂から、
橋の西の袂から、
お二人が、ゆっくりと橋を渡り始めるお姿を。


「 天の雲 瀬ごとに幣を 奉る 心は君を 幸く来ませと」



絵:増山龍太(wann 代表) 
文:指田克行(wann 副代表)



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