jazz/improv の文脈で活躍するフランス (France) 出身の tuba 奏者 Michel Godard と 地中海の島 サルデーニャ (Sardigna, IT) のミュージシャン Gavino Murgia の duo によるアルバムは、 folk/roots の要素を強く感じる jazz/improv な演奏が楽しめる作品だ。

この作品の面白い所は、約半数の5曲 (1,3,4,5,8曲目) で聴かれる Murgia の 倍音成分の多い低音の throat singing、 サルデーニャのテノール節 (cantos a tenore) の下声 (bassu) のパートを ソロにしたような歌声だ。 serpent (tuba の元となった古楽器) と思われる少しくぐもった低音金管楽器のゆったりした響きに Murgia の throat singing が自由に飛び回るオープニングの "Ambre" から掴まれる。 "Chloris" では serpent の方がソロを取り、 そこに低音 throat singing がコーラスを付けるのだが、 その落ち着いた展開が気に入っている。 "Deep" のような throat singing でスキャットするような jazz のイデオムを感じる曲も面白い。

最後の11曲目を除く残り5曲では Murgia は soprano saxophone を吹いている。 こちらでは、明るい軽い音色できかせる。 ゆったりした展開で tuba の低音とコントラストを見せながら響き合う曲も悪くない。 しかし、節回しも軽やかな演奏を聴かせる "Addare" が 細かくフレーズを繰り出す Godard の tuba/serpent との絡みも 少々アクロバティックに感じられて面白いと思う。

クレジットには無いが最後の曲 "Anninia" では Murgia は recorder 類と思われる楽器を吹いている。 また、公式サイトによると launeddas (3管からなる single reed の木管楽器) を得意とするようだ。 "Anninia" は roots っぽい音の断片をコラージュしたような展開なのだが、 こういう folk/roots 的な楽器と tuba/serpent が本格的に絡む演奏も聴いてみたかった。

Gavino Murgia をちゃんと聴いたのは初めて。自分の聴いたことのある限りでは、 Lu (aka Luisa Cottifogli), Rumi (Forest Hill, FHME41, 2006, CD) の伴奏に参加しているが、それほど大きくフィーチャーされているわけではない。 この Godard との duo を契機に、 ヨーロッパの folk/roots 的要素の濃い jazz/improv のプロジェクトに参加していくことを期待したい。 例えば Castel Del Monte (レビュー) のようなプロジェクトに 彼の歌声はとても合いそうだ。

ちなみに、このアルバムでは、効果音のように2人の演奏の他に波の音などが入ることもある。 これは、sound としてクレジットされている Rabih Abou-Khalil の録音でもお馴染みの sound engineer の Walter Quintus が 2人の演奏に合わせているようだ。

レビューで「ちゃんと聴いたのは初めて」と書いたが、訂正。 Gavino Murgia は Rabih Abou-Khalil, Morton's Foot (ENJA MW, ENJ9462-2, 2003, CD) にも参加していた (レビュー)。 "Morton's Foot"、"Lobotomie Mi Baba Lu"、"Dt. Gieler's Wiener Schnitze!" で throat singing によるスキャットで音色に幅を加えている。 この作品は、Godard は参加しており、 Deep はそのサブユニットとも言える。

(追記)