2008年に歴史の塵捨場 (Dustbin Of History)で
レビューした展覧会・ダンス演劇等の公演の中から選んだ10選。
音楽関連 (レコード/ライブ) は別に選んでいます:
Records Top Ten 2008。
第一位
Stefan Kaegi (Rimini Protokoll),
Mnemopark. A Mini Train World
(『ムネモパーク』)
(演劇)
にしすがも創造舎特設劇場, 2008//03/15
スイスの農業政策やインドの経済的といった話題も、
おじいちゃんやおばあちゃんから直接個人的に話を聴いたかのような親しさ近しさを感じさせるものがあった。
今後、ヨーロッパでの農業保護政策に関するニュースを読んだら「あのおじいちゃんたちの話だ」と思い出してしまいそうな。そしてそれがこの舞台の良さだ。
第二位
Saskia Olde Wolbers
(美術展)
森美術館ギャラリー2, 2008/04/25-07/13
& オオタファインアーツ, 2008/04/25-05/31
主人公の女性の不確かさや相手の正体不明さを省みるナレーションが添えられると、
"Placebo" の白い膜が崩壊していく映像が心理的な崩壊感を象徴しているかのようで、
その映像から物語に引き込まれた。
第三位
柴田 敏雄 『ランドスケープ』
(Toshio Shibata, Landscape)
(写真展)
東京都写真美術館 2F展示室, 2008/12/13-2009/2/8
Grand Coulee Dam のシリーズの、
コンクリートの壁面を滑り落ちる水のテクスチャを捉えた画面下三分の二と
水面に浮かび流れる泡を捉えた画面上三分の一の対比、
そして、同じ構図の写真3枚の並びは、
画面を抽象的に観るように誘導されるようだった。
第四位
『横浜トリエンナーレ 2008: タイムクレヴァス』
(Yokohama Triennale 2008: Time Crevasse)
(美術展)
新港ピア, 日本郵船海岸通倉庫, 赤レンガ倉庫, 等, 2008/09/13-11/30
「タイムクレヴァス (ときの裂け目)」というテーマは別にして、
三渓園に観光に来て旧民家を見学に入って来た一般客が
Tino Sehgal, "Kiss" を見てぎょっとするそのリアクション、
Cerith Wyn Evans and Throbbing Gristle, "A=p=p=a=r=i=t=i=o=n"
での観客の歩みや鏡に写る姿を意識させるつつ
自分の歩みとモービルの動きで移りゆく不規則な時間進行、
流れる不定型物で風景を変容させていた
中谷 芙二子 「雨水物語 —— 懸崖の滝 Fogfalls #47670」や
大巻 伸嗣 「Memorial Rebirth」など、印象に残った。
さらに、『BankART Life II』、『黄金町バザール』、『AOBA+ART』など、
off/fringe 的な位置付けのイベントも楽しむことができた。
第五位
照屋 勇賢 (Yuken Teruya), "Touch A Port" (美術展)
in Art Scope 2007/2007 — Faces of Existence,
原美術館, 2008/06/28-08/31
"Touch A Port" は "Rain Forest" を承けつつ
テキストを用いることによりもう一歩踏み込んではいるが、
多義的で曖昧な絵本のセリフを引用することにより、
「熱帯雨林を守ろう」のような凡庸なメッセージを発する作品にするのとは
違う方向に進んでいる。
第六位
『ドイツ・ポスター 1890-1933』
(Moderne Deutsche Plakate)
(デザイン展)
宇都宮美術館, 2008/11/23-12/28
2つのものを対比させる展示構成は、共通点だけでなく、その違いをも際出させていた。
中でも特に大きな目を描いたドレスデン国際衛生博覧会 (Internationale Hygiene Ausstellung Dresden) の
1911年と1930年のポスターは近代ドイツ・ポスターの進展を象徴しているようだった。
第七位
横溝 静 (Sizuka Yokomizo), "Forever (And Again)" (美術展)
in 『オン・ユア・ボディ —— 日本の新進作家展 vol.7』
東京都写真美術館 2F展示室, 2008/10/18-2008/12/07
歳を感じさせる指と、歳の衰えが止まったかのような運指、
曲と共に進む一方の画面と、時間が止まったかのようなもう一方の画面、と、
淡々としていながら、様々な時間の流れが2面の画面に捉えられていた。
第八位
Port B 『荒地』
(演劇的インスタレーション)
旧豊島区中央図書館, 2008/06/21-06/29
あちこちから聴こえるぼそぼととした様々な声の中から、
次第に 田村 隆一 の「立棺」の朗読が沸き上がり、
「われわれには手がない/われわれには死に触れるべき手がない」
とあちこちのスピーカーの合わせた声がフロアに響きわたった。
それが、現在使用されていない図書館の2階の広いフロアに
がらんとした書架が並ぶ雰囲気に合っていた。
第九位
雨宮 庸介 『ムチウチニューロン』
(美術展)
トーキョーワンダーサイト渋谷, 2008/06/28-2008/08/31
舞台暗転のように時折照明が落ちるギャラリーで行われていたパフォーマンスは、
そのギャラリー空間全体を使ったインスタレーションを含めて、
シュールな寸劇のようだった。
第十位
Ari Folman, Waltz With Bashir
(『バシールとワルツを』)
(映画)
Israel, 2008
このアニメーション映画は
最後にレバノン戦争中の虐殺事件 Sabra and Shatila Massacre に辿り着く。
しかし、そこだけアニメーションではなく、
道に折り重なる死体や瓦礫にのぞく死んだ少女の頭部を捉えた当時のニュース映像が使用される。
それまでのアニメーションはこの虐殺事件をリアルに思い出ださせるための長い前振りだったかのように。